エルデの王は迷宮で夢を見るか?   作:一般通過あせんちゅ

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いつも誤字報告ありがとうございます

どれだけ頑張っても誤字がなくならないのは、地味に落ち込みますけど……



怪物祭(モンスターフィリア)

「……不思議な魅力だ」

「お前は相変わらずだな」

 

 怪物祭(モンスターフィリア)が行われようとしている中、人波から外れた露店で謎の食べ物を食べているミストは、シンプルで変な工夫などなにもされていないはずだが、病みつきになりそうな味に感心していた。横でラニが溜息を吐きながら、視線はミストが持っている食べ物から露店に掲げられている看板の文字へと移った。

 

「ジャガ丸くん? 何故食べ物にくんを付ける」

「意味はわからないけど、この小豆クリーム味……なんとなくいける味だ」

 

 人類の進化を見たと言わんばかりにジャガ丸くんを食すミストに呆れているラニは、周囲から向けられる視線など気にせずにミストの手にあるジャガ丸くんを手に取って食べた。

 

「…………ラニって何か食べられたんだ」

「ふ……食べられないと言った覚えはない」

 

 神秘の力で作られたラニの人形としての身体で、食事が行えるなどとは全く考えていなかったミストは、ラニが自分と食事してくれる喜びに震えていた。

 

「もっと一緒になにか食べよう!」

「いらん。そもそも消化機能はついていない」

「えー……」

「私はお前が食べている姿を見るだけで充分だ」

 

 ラニの言葉に一応の納得を見せたミストは、手に残っていた小豆クリーム味のジャガ丸くんを口の中に放り込んでから、暗月の指輪が嵌まっているラニの手を取った。

 

「まだ祭りは始まってないんだから、もう少し見て行こう」

「仕方がないな……私の王は。伴侶の我儘を聞いてやるのも、私の務めだろう」

 

 伴侶に手を引かれるラニの顔には、呆れたような声とは正反対である、楽しそうな小さな笑みが浮かんでいた。

 

 


 

 

「ふーん……ベル君はそんな冒険者と出会っていたんだね」

「そうなんですよ。すごく強かったです」

 

 怪物祭の為に闘技場へと向かって歩いていく民衆から少し離れた場所で、クレープを食べていたベル・クラネルとその主神ヘスティアは、ダンジョンであった話をしていた。ベルがアイズ・ヴァレンシュタイン以外にもダンジョンで誰かに助けられたこと、そしてその人物がベルには想像できない強さであったこと。しかし、ヘスティアにとって重要なことはそんな目をキラキラさせているベルの憧憬ではない。

 

「そのヒューマン、女性だったんだろう?」

「な、なんでわかるんですか!?」

「あー! やっぱりね! ベル君はいつもそうだもん!」

 

 クレープを食べながら他愛ない会話している冒険者と主神に、周囲からは生温かい視線が向けられていたが、二人が気にしている様子はない。ワイワイ騒ぎながらクレープを食べ終わったベルとヘスティアは、途中で出会ったエイナ・チュールとの会話を打ち切り、シル・フローヴァを探している最中、モンスターに襲われることになる。

 

 


 

 

 突如として姿を現したモンスター、シルバーバックによって逃走劇を始めたベル・クラネルとヘスティアとは別に、怪物祭を仕切っていた【ガネーシャ・ファミリア】からの協力要請を受け、脱走したモンスター9匹を追っていた冒険者の中には【ロキ・ファミリア】の『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインも含まれていた。

 

「ん。次」

「おー流石やな、アイズたん」

「後、何匹?」

「2匹や」

 

 風を纏ってソードスタッグを一撃で粉砕したアイズは、傍にやってきた自らの主神であるロキに脱走したモンスターの残数を聞いた。ギルドの職員から事前に何匹かを聞いていたロキの言葉に頷いたアイズは、すぐに建物の上に登って、再びモンスターを探そうとしていたが、モンスターの咆哮を近い位置で聞いてすぐにそちらに向かって走り出した。

 

「ちょ、アイズたん待ってーな!」

 

 ロキを無視するように街を疾走するアイズは、街中で誰かを探すように走り回るトロールを発見して、レイピアを構えた。そのまま自身の風を纏って突撃しようとした寸前に、トロールの近くに人影が二つあることに気が付いてトロールの前に降り立った。

 

「大丈夫、ですか?」

「ん? なにこのモンスター」

「お前がジャガ丸くんとやらに再び夢中になっている間に出てきたモンスターだ」

 

 アイズは、私服姿の女性が手に持っている小豆クリーム味のジャガ丸くんへと一瞬視線を奪われたが、すぐに咆哮を上げるトロールへと切り替えた。

 

「一般人か? アイズたんがすぐに片付けるからじっとしてたら――」

「――いや、必要ない」

 

 アイズに追い付いてきたロキが、ジャガ丸くんを食べている女性とそれに付き添う形で立っている魔術師然とした女性に安心させるような声をかけた。しかし、ジャガ丸くんを一口で食べきった金髪の女の右手には、既に銀色の錫杖が握られていた。

 

「失せろ」

 

 アイズの横を通り過ぎて杖を振るったミストに、トロールが反応しようとした瞬間、周囲の気温が一気に下がると同時に、彼女の右手に魔力の大剣が現出する。

 

「なんやっ!?」

「魔法?」

 

 半透明で全体から冷気を放つ大剣を片手で持つミストは、既に戦意を失っているトロールを容易く真っ二つにした。勢いのまま石畳に切り傷を付けた魔力の大剣は、触れた部分から周囲を凍結させていた。

 

「……自分、何者や?」

 

 トロールは20階層以降で見られる中層のモンスターである。現在Lv.5たるアイズにとっては造作もない相手だが、Lv.1の相手ではまず勝てないような敵であるトロールを、見たこともない魔法で真っ二つにする私服姿の女。ロキの記憶には全くない相手であった。

 

「トロールをワンパン言うならLv.3は間違いなくあるやろ。けど、アンタみたいなやつの顔は見たことあらへん」

「私はただの一般人だよ。冒険者登録はしていないからね」

「はぁ?」

 

 冷気を纏った魔力の大剣『アデューラの月の剣』を消したミストは、ロキの目を見つめて薄く笑っていた。同時に、ロキはかつてヘスティアがそうしたように、目の前の人物が嘘を吐いているのかどうか理解できないということに目を見開いた。

 

「……神の力(アルカナム)は使える訳あらへん。嘘が見抜けんのに神でもない……ホンマに何者やねん」

「お前達、神などが知る必要はない」

「あん?」

 

 笑っているミストを遮るように前に出たラニは、既に魔術を起動していた。唐突に視界を奪うほどの濃霧が発生すると、二人の存在が目の前から消えたのを感じ取って、ロキは舌打ちした。地面に転がっている綺麗に両断された魔石と、凍ったままの地面だけが先ほどまでの出来事が白昼夢などではないことをロキに知らしめていた。





アデューラの月の剣は、左手持ちの威力がナーフされてからあまり使わなくなった印象あります
ナーフ後でも充分使える威力はしているんですけどね


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