丸山彩生誕祭2022記念 企画小説集   作:咲野 皐月

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「丸山彩生誕祭2022記念 企画小説」……トリを飾る6人目は、この人です!

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 今回このような素敵な企画に参加させていただき非常に光栄です。本編もいずれ執筆できれば……………


Think of me

 白鷺のボディガードを務めることになってしばらく過ぎたある日。

 白鷺に呼び出されたオレは奴が待つ屋上へと向かうと、もう一人の女と共にすでにそこにいた。

 

 「初めまして!丸山彩ですっ!いえい♪」

 

 満面の笑みを見せる丸山は白鷺と同じアイドルグループのボーカルらしく、同じ歳の生徒らしい。

 もちろんオレは、この学校にそんな人物がいることなんて全く知らなかった。

 

 オレにとってのコイツの第一印象は『めんどくさそう』それに尽きる。

 

 「それで、結論としては?」

 

 丸山をスルーし隣に座る依頼主、白鷺に話を振る。

 

 「彼女は以前から誰かに付き纏われているらしいの。何かの見間違いかと思ったのだけれど、実はそうじゃないみたいなの」

 

 「その根拠は?」

 

 「まずはコレを見てください!」

 

 丸山はポケットに入れてあった封筒をオレに渡す。

 その内容は、いかにもこの女を思い慕っているのかが一目でわかるものなのだが、理解できん程に心酔してるとも見て取れるものだった。

 

 「要は白鷺に加えてコイツのボディガードも請け負えってか」

 

 「お願いできないかしら?」

 

 「お願いします!」

 

 「オレはオマエらが思うほどお人好しじゃねぇ。ただでさえ白鷺「テメェ」のことで神経すり減らしてるってのに、更に別の案件も捌くとなるといざって時に対処できんだろうが」

 

 「………………これは内密にして欲しいのだけれど」

 

 「ああ?」

 

 「実は彩ちゃん───────丸山さんは過去に、過激なファンに襲われかけたことがあるの」

 

 「なんだと」

 

 「実は………………はい、そうなんです」

 

 作り話も疑ったが、さっきまで無駄に元気そうな表情が一転したことでその可能性はないと考えた。

 この手の人間は嘘をつくのがド下手な奴が多い。

 実にわかりやすく単純。

 丸山もその典型だ。

 

 「その時はたまたま私が近くにいたから何とかなったけど、もう一度同じことが起きるかもしれない。そんな時にこんな手紙をみたら怖くなるのも必然だと思わないかしら?」

 

 オレは女との関わりが極端に薄い上におふくろも "か弱い" といった言葉から程遠い存在のため、その気持ちを理解してやることはできない。

 だがこの学校の生徒である以上、風紀委員として守ってやらなければならない。

 

 「仕方ねぇ。そいつをとっ捕まえて、早いとこ終いにしようぜ」

 

 「本当にいいんですか!?」

 

 「安心して。彼に二言はないわ」

 

 「オマエが言うな」

 

 軽く白鷺の頭を叩く。

 叩かれた頭を摩りながら、白鷺はオレの耳元でそっと呟く。

 

 「ねえ月島くん。もし犯人を捕まえられたのなら好きなものをご馳走するわ」

 

 「美味い肉。それ以外は却下」

 

 「もちろんOKよ♪」

 

 「わ、私も!何でもします!!」

 

 「アイドルがその発言はダメだろ…………」

 

 この女、やはり一人にするのは危険だ。

 オレも白鷺も呆れるようにため息をつく。

 

 「それで期限はどうする?捕まえるって言ってもタイミングなんてわからねぇぞ」

 

 「捕まえるまで、よ♡」

 

 「仕方ねぇ…………とりあえず今日の放課後からだな」

 

 「よ、よろしくお願いします!」

 

 白鷺が絶対と言い張るのだから何か柵があるんだろう。

 まあ、奴の考えを理解したところでオレにできることは限られている。

 危険な輩を締め上げる。

 人の思考を読み取るより、簡単な仕事だ。

 

◆◆◆

 

 そして迎えた放課後。

 側で歩くわけにもいかず、丸山の数キロ離れて後を追う。

 奴にはワイヤレスのイヤホンをつけ常にオレと電話を繋げている状態だ。

 万が一何かあればすぐにでも駆けつけるために。

 

 「おいっ、あんまキョロキョロするなよ」

 

 『わ、わかりました!』

 

 「その変なポーズもやめろ」

 

 『ごめんなさい……………』

 

 道のど真ん中で敬礼の仕草をする丸山に呆れながらもツッコミをいれる。

 

 「オマエは何も考えずただ道を歩いていればいい」

 

 『あの〜、どこで私のことを見てるんですか?』

 

 「絶対に見つからない場所とでも言っておく」

 

 『か、かっこいい』

 

 「まあ間抜けなオマエだと一生かかっても見つからんだろうな」

 

 『初対面なのにひどくないですか!?』

 

 「事実だろ」

 

 『否定はできません……………』

 

 丸山の内面的なことは、一目見て少し話しをすればすぐにでもわかる。

 ドジで不器用。

 白鷺他バンドメンバーも苦労が絶えないだろうな。

 

 『うぅ、私のこと嫌いなんですか……………?』

 

 「そこまで言ってねえだろうが」

 

 『千聖ちゃんの言ってた通り、怖い人なんだなぁ』

 

 「あの女がオマエに何を吹聴したのか知らんが、約束は守る」

 

 「よ、よろしくお願いします!」

 

 「だから敬礼(それ)をやめろ。バカが」

 

 『うぅっ、すみません…………』

 

 やはり一人でほったらかしにするには危険すぎる。

 変な男に騙されて裏ビデオに出演、なんて大いにありうる話だ。

 松原とはまた違った鈍臭さがあるこの女に、長いため息をつき頭を抱える。

 結局丸山が家に着くまで怪しい人物は姿を現すこともなく1日目は終わった。

 

 その後オレは、奴がよく利用するスタジオへ向かってバイクを走らせた。

 夜からバラエティ番組の収録があるのだが、『少しの時間だけでも』と練習に励む白鷺は次のライブに向け気合十分らしい。

 慣れた手順で中へと入ると、案の定一人でベースを弾く白鷺の姿が目に入った。

 奴に迎えに行くと伝えた時間までまだ10分ほどある。

 奴の邪魔をしないよう、外でコーヒーでも飲んで待とうと決めたその時だった。

 

 「随分と早かったわね」

 

 ガチャっ、と扉が開き白鷺が顔を出したのだ。

 

 「撮影まで時間はある。練習しとけ」

 

 顔を背けたまま自販機まで歩こうとするも、白鷺はオレの腕を掴む。

 

 「ねえ、少し話さない?」

 

 「いいのか?練習は」

 

 「ええ。ひと段落ついたところよ」

 

 「ならいい。時間もそんなにねぇから手短にな」

 

 「わかったわ」

 

 スタジオに入ったオレは近くにあったパイプ椅子に腰を下ろし、白鷺は立てかけてあるベースをケースの中へと直す。

 

 「それで話ってなんだ?」

 

 なんの前振りも何もなく唐突にそう問いかけると、白鷺は目を合わせることなくそのまま答える。

 

 「彩ちゃん、丸山さんのことよ」

 

 「アイツか」

 

 「これはあくまで私の独り言と思って聞いてもらって構わないわ」

 

 「ああ。わかった」

 

 ギターをしまい終え、白鷺もオレの対にあるパイプ椅子に腰を下ろす。

 

 「今日話してみてどうだったのかしら?」

 

 「どことなく松原と似た感じだな」

 

 「彼女はなかなか芽が出ずに悩んで、ようやくアイドルデビューをした苦労人なの。決して万能ではないけれど、彼女の直向きな努力は尊敬すべきだと思うわ」

 

 「そうか」

 

 「そんな彼女に対して、酷い誹謗中傷の言葉を投げかける人も少なくない。私は…………彩ちゃんの精一杯の努力を嘲笑い、大切な夢を壊そうとしてる人を許せない」

 

 「今回の犯人もか?」

 

 「もちろん」

 

 「ふーん」

 

 白鷺の真意は伝わった。

 そのかわりと言わんばかりに、オレの考えも口にする。

 

 「陰でいくら頑張ろうが、第三者の評価基準は "本番" だけだ。そこで失敗すれば叩かれるし、自らの努力は水の泡となる。実に空虚だ」

 

 「それでも、していいことと悪いことがあるのはあなたもわかっているのでしょう?」

 

 「まあな。だが、こればっかりはどうしようもできないだろ」

 

 「失敗しない人間なんて存在しないわ。そんな完璧な人間を演じることなんて、私にはできない」

 

 「オマエも誹謗中傷(そんなもん)に悩まされてる口か?」

 

 「……………子役の頃から言われ続けてきたことだからもう慣れたわ」

 

 「でも丸山に対しては別だ、と」

 

 「そうよ。それの何がいけないのかしら?」

 

 「悪くはねぇよ。ただ─────」

 

 一度、呼吸を置く。

 

 「オマエ、良い奴だな」

 

 「……………はあ!?」

 

 唐突なその言葉に白鷺は仰天する。

 

 「な、何よ、突然」

 

 「別に。本心だっつーの」

 

 「やめてよ、もうっ…………」

 

 「友達をそれほど大切にできる奴はそういねぇ。丸山はオマエにとって、大事な存在なんだな」

 

 オレにもそういった奴が少なからずいる。

 だが、これほど他人のことを思い、また怒れるかと聞かれたら、否と答える。

 オレという人間はそこまできちゃいないからな。

 

 「だから、あなたに守って欲しいの。非力な私じゃなくて、頼り甲斐のある月島くんに」

 

 真剣にこちらを見る眼差しは真剣そのもの。

 自ら守れない悔しさを滲ませ、拳に力が入っている。

 

 「……………同情はしねェよ。受け流せるもんを間に受けてるのはオマエらだからな。だが、アイツの見方が少し変わったのも事実だ」

 

 「彩ちゃんのことを、お願いね」

 

 「承った」

 

 そう話し終えたところで、ちょうどスタジオを出る時間を迎えオレたちは部屋を後にし撮影現場へと向かう。

 

…………………

 

……………

 

 次の日、丸山は歌のレッスンがあるらしくオレが送迎することになった。

 もちろんオレの愛車(バイク)で。

 白鷺も別件の仕事があるがまだ時間があるからと言って松原のいる茶道室へ向かった。

 丸山を送り次第拾うつもりだ。

 

 「………………」

 

 「あの、月島くん?」

 

 背後から丸山が顔を覗かせる。

 

 「ここで待ってろ」

 

 「は、はい!」

 

 丸山を学校のすぐそばにある家の前で待たせ、駐輪場に向かう。

 そこから愛車を出し、エンジンをかける。

 

 「乗れ」

 

 二つあるヘルメットのうちの一つを丸山に投げて渡す。

 ぎこちなく顎紐をつけ後部席に座り、後ろから腕を回しオレの体を締め付ける。

 バイクを走らせながらミラーで後ろを見ると、発進と同時にエンジンをかけた黒塗りの軽自動車が目に入った。

 後者を出てからチラチラとこちらに目線を向けていた男たちをオレは、奴らに気づかれないよう目星をつけていたのだ。

 

 (狙い通りだ)

 

 ニッと笑みを浮かべ、後ろでぎゅっと目を瞑りオレの体を両腕で締め付ける丸山にこう告げた。

 

 「死にたくなかったらしっかり捕まってろ」

 

 「え?それはどういう──────」

 

 オレは思い切りグリップを捻りスピードを出す。

 急な加速に前輪が浮き上がるも丸山は必死にオレの体を掴み離さなかった。

 後をつける車もそれに合わせてスピードを上げた。

 生憎今日は交通量が少なく、すり抜けで撒くこともできずただ道をまっすぐ進む。

 ミラーに映る男たちはニヤニヤと汚い面で笑みを浮かべるが奴らは気づくはずもない。

 一連の行動が罠だということを。

 

 十数分かけて逃げ続けるも車は永遠と追い続け、街の外れにある港にたどり着いた。

 観念するかのように、二人ともバイクから降り追ってきていた連中も車から姿を現す。

 

 「散々逃げた結果がこれか?」

 

 「やっぱガキだな」

 

 「こんなところに逃げてきて、バカな奴だ」

 

 男たちは高らかに笑う。

 

 「不運だったね。もう逃げ道はないよ?彩ちゃん♡」

 

 丸山のストーカーと思わしき人物が気持ちの悪い笑みを浮かべこちらに近寄ろうとするが、オレは丸山の前に立つ。

 

 「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。不運なのはテメェらの方だ」

 

 強がり、と捉えた男たちは全員でオレを笑った。

 

 「カッコつけるなよ!」

 

 「みっともないぞ?ププッ!」

 

 「ダサすぎだろ!」

 

 「月島くん……………」

 

 煽る男たちの側側から丸山は心配の目を向ける。

 

 「まあ見とけ」

 

 そんな女の肩を掴み後ろに下げる。

 

 「なんと言われたって結構。オレはオレだ。テメェらみたいな無抵抗のガキを追いかけ回すダセェ大人ではないからな」

 

 「あんま強がるなよ。みっともなさが際立つぞ?」

 

 「みっともないかどうかはこれから判断すればいい。かかってこいよ」

 

 四人の中で最もオレを煽ってきていた男に向け指をくいくいと曲げ挑発する。

 

 「しょうがねぇ。社会をしらねぇクソガキに教えてやるか。大人の怖さをよ」

 

 「やったれ!!」

 

 「負けんじゃねぇぞ!!」

 

 「早く彩ちゃんを僕のものにして〜」

 

 「俺は高校で喧嘩に明け暮れた生活してたんだ。そんじょそこらのやつとは拳の重みが違うぜ?」

 

 男たちはいきりたつがオレはいたって冷静だ。

 

 (カメラを持った男が一人。素手の自称ケンカ自慢が一人。デブで丸メガネの男が一人。安全圏でオレのことを煽ってくる運転手が一人…………。自称ケンカ自慢が用心棒で、キモオタが丸山に手紙を送りつけた張本人ってとこか。まあ、負けねぇけど)

 

 首を鳴らし、戦闘体制を取る。

 

 「来いよ。ホラ吹き野郎」

 

 「舐めんじゃねぇぞおおおおおおお!!」

 

 男は勢いよく俺に向かって殴りかかってくるが?大ぶりのその拳は俺にかすりもしない。

 ブンッ、ブンッと空を切る音だけが残る。

 

 「くそっ!くそっ!!」

 

 あまりにもつまらないやり取りに欠伸をする。

 眠ってしまいそうなほど遅いパンチは、空を切り続け男の体力の限界が先に迎えた。

 

 「はあ…………はあ……………あ、当たらねえ……………」

 

 膝に手をつき息を整える。

 

 「ハッ、イキがってたのはどっちだったんだろうな」

 

 自称ケンカ自慢はオレの煽りに反論を唱えることなく、下を向き息を切らす。

 

 「無知なオマエらに教えてやる。ここがどこだか知ってるか?」

 

 「どこって港だろ?」

 

 「ただの港じゃねぇんだなあコレが」

 

 オレは携帯を開き、男たちに一つの動画を見せる。

 それは半年ほど前に全国ニュースにもなったとある事件のニュース。

 そこにはこの港を含む廃倉庫が映し出されていて男女二人の高校生が暴行を受け病院送りにされたと報じられた。

 そう、北谷から襲撃を受けたあの事件だ。

 本名こそ伏せられているがこの街の住人なら少なからず耳にしているはずだ。

 

 暴行を受けたその男子生徒は、その後襲ってきた連中を半殺しにしたということを。

 

 「この事件を受けてこの港は現在立ち入り禁止になってる。おまけに警備体制まで改善させられて不法侵入者がいればすぐに警察が来る始末だ」

 

 「は、ハッタリを言うなよ!立ち入り禁止なんて看板はどこにも…………」

 

 「誰かが外したんじゃないか?今でも不良や半グレがよく屯してる場所らしいからな」

 

 「よくもまあそんな嘘をつらつらと」

 

 「嘘だと思うならここで待てばいい。10分もすれば警察が来るだろうよ。捕まりたければご自由に」

 

 オレのその言葉に自称ケンカ自慢は震え上がる。

 

 「つ、捕まるのはごめんだぁぁぁぁ!!」

 

 男はよろよろとこの場を去る。

 やはり口先だけの野郎だったようだ。

 

 「なあ。なんであんなホラ吹きを用心棒にしたんだ?」

 

 甚だ疑問に思っていたことを問う。

 

 「だ、だってアイツが……………なあ?」

 

 「『オレが不死身の暴君(アンデッド)だ』って言うから…………」

 

 なるほど、正真正銘のホラ吹きというわけだ。

 今思えば逃げ出した奴の特徴とオレの特徴は一致しているところがあった。

 金髪メッシュで目元の傷。

 通りで騙されるわけだ。

 

 「ソイツの噂ならオレも聞いてるぜ。何せ、滅法ケンカが強いんだってな」

 

 「その男さえいれば丸山 彩を脅して裏ビデオに出演させることも可能かと……………」

 

 「それで俺たちは協力関係を……………」

 

 「あ、彩ちゃんの相手は僕だよ…………?

 

 「それで連れてきた奴は結局ニセモノだったわけだ。ザマァねェ」

 

 騙す方も騙す方だが騙される方も騙される方だ。

 だがそれ以上に許せないのは──────

 

 「おいっ、オマエ」

 

 丸メガネのデブを指差す。

 

 「オマエが丸山に手紙を送りつけていた張本人だな?」

 

 「そ、そうだとも」

 

 悪びれもなくそう答えるデブに怒りを覚える。

 

 「オマエがコイツのことをどれだけ心酔していようともやっていいことと悪いことの違いくらいわかんじゃねェの?」

 

 「あ、彩ちゃんは僕だけの者だ!デビューする前からコンサートにも行ったし、握手会も、イベントごとも何回も足を運んだ!彩ちゃんのファン第一号である僕に、彩ちゃんはもっと誠意を尽くすべきだ!!」

 

 なんとも身勝手。

 自己中心的な考え方だ。

 後ろで丸山も青ざめている。

 

 「その誠意ってのが裏ビデオでオマエに犯されることだってのか?冗談じゃねェよ───────冗談じゃねェ!!!

 

 オレの怒号が全員の鼓膜を揺らす。

 

 「この女はファンを喜ばせるために毎日必死にレッスンに取り組んでる。食事制限とかで満足に美味い飯も食えてないだろう。それは何故か?応援するファンを失望させないために決まってるだろうが」

 

 デブへ向け、一歩。また一歩とゆっくり近づく。

 

 「僕のため、僕のためって、テメェは一体何様だ?アイツの育ての親か?たかが一ファンのオマエが偉そうに丸山彩を語るんじゃねェ」

 

 眼前に立つオレに威圧され、デブは腰を抜かすも空いた口が塞がることはない。

 

 「じゃ、じゃあお前はなんだっていうんだ!!」

 

 「オレか?オレは白鷺千聖(わがままおじょう)に雇われた、哀れなボディガードだっつーのっ!!」

 

 オレは右足を思い切り振り下ろし、男の顔面をコンクリートの地面にめり込ませた。

 その様子を見て、男たちは颯爽と逃げ出した。

 

 「………………はあ、またやっちまった」

 

 後頭部を掻き、後ろで怯える丸山を見る。

 

 「今日のことは忘れろ。いいな?」

 

 「は、はい………………」

 

 悪いことをしてしまった。

 オレの頭の中でその事実だけが取り残されている。

 

 「レッスンにも間に合わねぇし、どうしたもんか……………」

 

 上の空でいると、あることを思いついた。

 

 「よしっ、決めた」

 

 「何をですか?」

 

 「迷惑をかけた詫びだ。オレのとっておきの場所を教えてやる」

 

 「お願いします」

 

 丸山を後部席に乗せバイクを走らせる。

 港を抜け、街中へ。そして山道へと入る。

 ガタガタと整備されてない道を通り、夕焼け道を駆け上がった。

 

 しばらくするとベンチがちょこんと置かれた場所へと辿り着き、丸山を下ろす。

 

 「アレを見ろ」

 

 「ん?……………わあぁぁぁぁ!」

 

 二人の目の前に映るのは、息を呑むほど美しい夕陽だった。

 陽が落ちる少し前。

 ほんの僅かしか見られないこの景色は、氷川や白鷺、松原でさえ教えたことがない。

 丸山とオレだけが知る唯一の光景だ。

 

 「どうだ?驚いただろ?」

 

 「すごい……………」

 

 あまりの光景に言葉を失う丸山。

 

 「まあ座れよ」

 

 「うん」

 

 そばにあったベンチに二人して腰を下ろす。

 

 「今日は悪かったな」

 

 「い、いや!月島くんが悪いわけじゃないし」

 

 「なんにせよ、レッスンする時間を割いた詫びだ」

 

 「なんでこんなところを知ってたの?」

 

 「適当に山道を走ってたら見つけてよ。すぐにオレ専用の場所にしたってわけだ」

 

 「独り占めしちゃったんですね…………」

 

 「誰もここを知らないだろうから独り占めしたわけじゃねェよ」

 

 屁理屈とはまさにこのことだ。

 

 「あ〜、その……………なんだ……………」

 

 言葉が詰まるオレを横で丸山は首を傾げる。

 

 「白鷺から聞いた。今日、オマエの誕生日なんだってな」

 

 「知ってたんですか!?」

 

 「オレは女付き合いが皆無だからこういった時に何をすればいいのかわからなかったから、ここへ連れてきた。詫びってのはただの建前だ…………すまん」

 

 「それでも嬉しい!祝ってくれてありがとう!」

 

 テレビで見るような上っ面の笑顔じゃない。

 夕陽に照らされても尚、際立つ丸山の笑顔はオレの心に焼きついた。

 

 「軽い女だ……………アイドルならもっと宝石やら高級ディナーとかをねだりやがれ」

 

 「それ偏見がすぎませんか!?」

 

 丸山はやはり丸山だ。

 思わず吹き出し大笑いした




 今回この作品を読んで本編が気になっていただければ是非ご覧いただけると幸いです。また誘っていただけたら喜んで参加させていただきます。

「高嶺の華と路傍の花」
https://syosetu.org/novel/211029/
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