日本国召喚×アサルトリリィ-World Allied Forces- 作:空社長
_中央暦1642年4月23日午後_
マグドラ群島海軍基地
神聖ミリシアル帝国カリアリス地方に属し、カルトアルパスより西に500kmにある群島には一つの海軍基地が存在していた。
第零式魔導艦隊の訓練を見守るはずだった基地は、カルトアルパスより退避してきた文明国艦隊を受け入れると共に、カルトアルパスへと向かった第零式魔導艦隊の凱旋を待ちわびていた。
だが、水平線の先に艦影が見えると共に、衝撃的な光景に多くの者が息を呑んだ。
各所から炎を帯びた煙を上げる艦船群、ほとんどの船が無事とは思えない姿。
基地からその様子を見た文明国艦隊の水兵、そして基地要員は艦隊の姿から勝ったとは到底思えなかった。
第零式魔導艦隊旗艦「コールブランド」の焼け焦げた姿、ムー機動艦隊の無惨な姿に、水兵たちの視線は集中し悲鳴を上げる。
「栄えある第零式魔導艦隊がまさかこんなに……!」
「ムーは戦艦を除いて全滅か……無惨だな」
護衛艦「あまぎ」戦闘指揮所
「リリィに犠牲者はいませんが、意識不明含めて重傷者が複数……加えて本艦や他艦から救助した重軽傷者が多数います。はっきり言って、本艦の医療機能は逼迫しています!」
護衛艦2隻を失った第3護衛隊は負傷者の治療や艦の応急処置など、慌ただしい空気が感じられていた。
戦闘指揮所では重苦しい空気が覆っており、その中で幹部の1人が三浦に強く言い放つ。
「リリィや兵士たち全員を収容することはできますが、問題はそれに対応する人員が限界を迎えていることです!……この状態で会議など……」
「少しでも人の手が欲しいということだな?」
苦言を言う幹部に、三浦は確認を取る。
唐突な発言に驚きつつも、その幹部は頷く。
「ならば、会議や説明は私一人でやろう。他の乗員は全て医療対応へと回す。それでいいな?」
「……っ、了解です!」
一瞬で判断し指示を告げた三浦に圧倒されつつも、その幹部は返事を返す。
その幹部が去っていくのを見届けると、三浦は魔信機を手に取りプレストークスイッチを押す。
「艦隊の責任者1名の本艦への乗艦を願います。権限の許す限り、私どもが抱えている事情をお伝えします」
三浦はそのように告げ、板状の情報端末を抱えてCICを立ち去る。
第3護衛隊旗艦「あまぎ」からの魔信・通信を受けて、連合艦隊及び文明国艦隊は代表者を選ぶ。
神聖ミリシアル帝国第零式魔導艦隊及び遅れて援軍に来た第一魔導艦隊からは、バッティスタ・ノーゼスト中将及びレッタル・カウラン中将。
グラ・バルカス帝国東征艦隊からは、戦艦「グレード・アトラスター」艦長のラクスタル・エルヴァット大佐。
ムー統括海軍機動艦隊からは、レイダー・ミラン中将が訪れることが決まった。
他の艦隊も、代表者の選出を速やかに終えていた。
「あまぎ」艦内
大人たちが動く一方で、時間が止まったかのように動き出せない者もいた。
艦内廊下でたった一人の少女が座席に座っていた。
彼女──彩月は、隣にボロボロのCHARMが入ったケースを置き、俯いていた。
彼女が守り切れなくて昏睡状態にさせたと思っている少女の血で濡れていた手は既に洗い流したが、彼女は手に残るその感触によって小・中学生時代の周りにいた人たちがヒュージに殺されたトラウマで軽いフラッシュバックを起こしており、立ち上がる気力も出ず苦しんでいた。
「……着信?」
その時、彼女の携帯が着信音を鳴らす。
ポケットに手を入れ、リリィ用に作られた折り畳み式の
それを開き、電源ボタンを押して画面を点けて通知内容を確認する。
「……っ!」
着信したその内容を理解した瞬間、凄まじい勢いで膨れ上がる感情と共に、彼女は咄嗟にCHARMケースを持って立ち上がり、発信してきた人がいる病室へと向かう。
その顔には涙と共に、喜びの感情が零れだしていた。
同じ頃、第零式魔導艦隊司令のバッティスタは艦隊の責任者の一人として、誰よりも早く『あまぎ』へと足を踏み入れていた。
(カウラン中将は……まあ、いい。後で来れるだろう)
バッティスタが少し思考に耽っている間に、続けて1人の男が近づいてくるのが見えた。
「貴殿は?」
「グラ・バルカス帝国、戦艦グレード・アトラスター艦長のラクスタルです」
「そうか……第零式魔導艦隊司令のバッティスタだ。よろしく」
本来、顔を合わせる筈も無かった両者は握手を交わし、歩きながら雑談を交わす。
しかし。
「心拍数低下!心臓マッサージを!」
「大丈夫ですか!しっかり!」
「先生、緊急処置室に運びます!急いで!」
キャスター付き担架で血まみれの兵士らしき男性が運ばれていくのを見て、バッティスタとラクスタルはお互いに顔をしかめる。
「彼らも無傷ではなかったのでしたな……」
「そんな状況でも、彼らに甘んじている我らが恥ずかしい。だが、ここでなければ行けない理由があるのだろうな。ミウラという者には」
亡くなるかもしれない瀬戸際にいる兵士の事を思い、沈痛な表情をバッティスタは浮かべる。
ラクスタルは去りゆく担架に視線を向けようとし、鳴り響く迫ってくるような足音に耳を傾ける。
そして、黄髪の少女──彩月が視線を交わす事も無く廊下を駆けていく。
「彼女は、確か……」
「ええ。私もこの目で見ました」
「……彼女達に任したのは軍人としては不覚だ……例えそれしか出来なくともだ。もし死んでいたらと思うと、何度後悔しても足りんだろう」
「我々も同じです、……彼女泣いていましたな。ただ……」
”少なくとも、嘆き悲しんでいるようには見えなかったですな。”とラクスタルは告げると、バッティスタはラクスタルの”誰も死んではいないだろう”という意思を汲み取り、少し安心した表情を浮かべ廊下を通り過ぎていく。
その頃、病室では息を切らした彩月が病室に飛び込み、CHARMケースを放り投げてベッドにいる少女に駆け寄っていく。
「初音!!生きてくれて、良かった……!」
彩月は涙を流しながら、薄橙髪の少女──初音を抱きしめる。
「彩月……先輩、……はい!」
初音は頬や、頭、体中に包帯が巻かれた痛々しい状態ながらも、笑顔で返事を返す。
「気遣って、守り切れなくてごめん」
彩月は初音のCHARMが限界を迎えていたことを知りながら、守れなかったことを悔いた。
「いいんです…先輩が無事なら。それに、過去なんかじゃなくて、未来を向いた方が一番良いです」
だが、初音はそのことを気にしなかった。
初音も自分自身の失敗を悔いており、自分の目標に立ち返り未来に目を向けることを選んだ。
「……うん、そうだね」
初音は、彩月はお互いの無事を確かめ合うように抱きしめ合う。
そんな二人を、身体に包帯を巻きつつも、動けるようになっていた志穂と唯が目に涙を浮かべつつ、穏やかに優しく見守った。