日本国召喚×アサルトリリィ-World Allied Forces- 作:空社長
_中央暦1642年4月23日深夜_
日本国東京
首相官邸
ヒュージ戦争の戦跡を今も深く残す東京。
闇夜の中でも都市の高層ビル群からの光が明るく照らす。
そんな街中に、周りの高層ビルよりも低い建物があった。
内閣総理大臣官邸。
ヒュージ戦争時は既存の危機管理センターや情報集約センターを拡張する形で、その地下に築かれたシェルターを兼ねる官邸施設にほとんどの機能を移管していた。
だが、転移後は東京が直接危機に陥ることが無く非効率だという判断から、緊急事態用として地下官邸を残しつつ、大半の機能を地上の首相官邸へと移していた。
その建物の地上5階部分、既存の内装を改築し横一面をミラーガラスを兼ねる二重の防弾ガラスで覆われ、壁際にある執務机以外に遮る物が無い広々とした空間。
その執務机に座るのは、武田実成内閣総理大臣であった。
東京の繁栄した姿を象徴する夜光を横目に、彼の視線は机上にあるホログラムディスプレイに向いていた。
「そうか……」
武田はそう答える。
そこには怒りの感情が生じていた。
新世界転移後、日本は戦争を2回も経験しつつ、過去稀を見ない高成長を遂げており、その繁栄の渦中にいた。
さらに初の国際会議に招待され、世界を導く列強の1ヵ国に選ばれるはずだったが、その機会をヒュージに奪われたのでは、その怒りも当然だった。
「問題が大詰めだな。我々の世界では大国間の連携の綻びがあったが……ある程度のノウハウを持ち、技術差を盾にすれば幾らか御しやすいか……」
『前世界において、アメリカ相手の説得は理性的ではありますが、骨が折れる作業だったかと思います』
武田の言葉に反応するのは、SoundOnlyと映るディスプレイの向こう側、第3護衛隊に同乗した佐藤外務大臣であった。
「既に対策は十数パターンを考えている。ところで、例のヒュージ対策会議については話したか?」
『もちろんです。ですが、文明圏外国と見なされていた我が国に訪れることに難色を示した国が多いのは事実です。国に持ち帰って検討すると言われましたので、ほとんどの国は大丈夫だとは思いますが……問題はかの国です』
かの国が表すのは一つしかなかった。
戦艦1隻で列強第5位のレイフォルを滅ぼすという戦場伝説を作り出した国、グラ・バルカス帝国。
日本とは、現在の彼らが知る由も無かったが、異世界からの転移国家しか共通点が無かった。
「柔軟に対応する他無いな」
『ええ。また、先進11ヵ国会議に参加していない、我々が選出した地域大国及び有力国にも各地の大使館を通じて出席を要請しました。我が国の経済圏内であるため、十中八九承諾するかとは思いますが』
武田は思考に浸る。
だが、その思考をすぐにやめると、言葉を紡ぎ出した。
「やはり、真面目に考えるのは不愉快だな。専ら我らのやることは変わらん、例えヒュージが出現してもだ。対ヒュージ戦争を主導するのはミリシアルではなく我々であり、新世界各国を速やかに制御下へと入れる」
『反対が多そうですな』
「そんなものは下らない論争に過ぎん。下らない論争はさっさと捨て去るべきだ。我々がやるべきなのはヒュージの殲滅、それだけだ」
武田は一拍置くと、再び口を開く。
「戦時内閣を速やかに成立させる。ついてこれるかね?佐藤さん」
『ご冗談を。確かに総理の勢いにはついていくのが精一杯ですよ。しかし、私が休んだことなどありましたかな?』
武田は軽く笑い出す。
しかし、その鋭い眼光には決意が灯っていた。
_中央暦1642年4月24日_
神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリス
アルビオン城
カルトアルパスでの雲量の急激の増加は、遠く離れたルーンポリス上空の気候帯にも影響を与えていた。
事前の天気予報とは異なり、薄暗い雲が”眠らない魔都”を覆っていた。
「申してみよ。バッティスタ・ノーゼスト中将」
アルビオン城内にある皇帝の執務室では、席に深く腰掛けた皇帝ミリシアル8世が、前方に立つバッティスタに問いかけた。
ミリシアル8世が彼に求めるのは、戦闘経過についての報告であり、バッティスタも重々承知していた。
「はっ。我が第零式魔導艦隊は、地方隊及び現地にいた第4魔導艦隊の『エクリプス』、『フォーキオン』からカルトアルパスの危機を知り、付近を回遊していたと思われるグラ・バルカス帝国艦隊と合流し、馳せ参じました」
バッティスタは淡々と報告を続けていく。
皇帝の執務室とはいえ皇帝から招集を受けた主要閣僚全員が入ることができる広い室内で、多くの閣僚から鋭い視線を浴びていた。
「日本艦隊からの提案で、我が国とムー、グラ・バルカス、日本の4ヵ国艦隊が民間人を退避させるまでの間の迎撃に当たりました。撃破しうるスモール級、ミドル級の大群及びラージ級と交戦に入りましたが、艦隊同士の連携、さらには日本のリリィと呼ばれる少女達の奮闘で大きく戦力を残しつつ迎撃することができました」
「ですが、その次に現れたギガント級ははっきり言って常識外の存在でした。奴から放たれた光線のようなものは、巡洋艦を確実に沈め、戦艦にすら重大な損害を与える恐るべき物だったと記憶しております。グラ・バルカスの戦艦『プロキオン』や、本艦隊の『ガラティーン』、ミスリル級の『エクリプス』すら沈め、私が乗る『コールブランド』でさえ装甲強化を限界まで行わなければ、撃沈は確実だったと思われます」
「むぅ……」
ミリシアル8世の顔が曇る。
神聖ミリシアル帝国が誇る戦艦であるミスリル級が突然現れた化け物に、装甲強化を行わなければ沈められ、強化を施しても甚大な被害を蒙るという事実は衝撃的に違いなかった。
当然、閣僚や軍幹部も苦々しい表情を浮かべていた。
「そのギガント級に対して、日本はリリィ達がノインヴェルト戦術と呼ぶ連携必殺攻撃を叩きこむため、我々に囮になってほしいと要請してきました。無論、カルトアルパスの民間人を守り切る為と言われてしまっては、断われるはずもありませんでした」
「そして、彼女達はギガント級を打ち倒しました。しかし……その直後、ギガント級とは桁違いの大きさを持つアルトラ級が出現。住民の完全避難が完了したと現地部隊より魔信が届くと共に、日本艦隊は撤退を決断。本艦隊も賛同いたしました。ですが、アルトラ級の攻撃はギガント級のそれを上回るほど苛烈を極め、幸いにしてそのほとんどがリリィに向けられた為、本艦隊の被害は大きくありませんでした。ただ……彼女達に重傷を負わせてしまったことは、軍人としては悔いるばかりです」
バッティスタは口を噛み締めて俯く。
その俯き様を見ていたミリシアル8世は報告が終わったと判断し、その視線をブレソーへと向ける。
「ブレソー議員、貴様の報告はとんでもない嘘であったな?」
「……っ、そんな事は無い筈です陛下!私は栄光ある帝国の艦隊を保持することを一番に思って!」
鋭い視線で睨んでくる皇帝に、ブレソーは拳に力を込めて帝国の為を思っていたと取り繕うとする。
だが、ミリシアル8世は半ば無視する形で一枚の書類を取り出す。
「カルトアルパス防衛隊の報告書だ。リリィのおかげで我々の力では到底守り切ることができない住民を全て救うことができた、とある。そして、この貢献は第零式魔導艦隊の助力も無くては出来なかっただろうな」
「ぐっ……」
態度には出さないが、言葉の数々に込められた怒りの感情で威圧され、ブレソーは萎縮する。
「残念だ。貴様は有能だが、今回は失言だったな。それも、帝国の尊厳を破壊する程のな……帝国への貢献に免じて爵位は残そう、だが議員職は罷免だ」
残酷にも叩きつけられた処分に、ブレソーは狼狽する。
だが、駆けつけてきた衛兵に拘束され、執務室の外に連れ出されていく。
「さて、中将。件のヒュージについては、カン・ブリッドで行われた会議で説明されている故、不要だ。そして、貴官の処分だが……当然、お咎め無しだ。むしろ、あの規模の敵にここまで被害を抑えたことは賞賛に値する」
「はっ、ありがとうございます」
バッティスタは直立したまま、頭を下げて礼を返す。
「して、ぺクラスよ。日本からヒュージ対策の世界会議を東京で行いたいと提案があったのだな?」
「はっ。先進11ヵ国会議参加国だけでなく、世界の地域大国及び有力国も招待すると」
ミリシアル8世は信頼するぺクラス外務大臣に確認を取ると、周囲を見渡す。
「その件だが、余はこれに参加しようと思う」
「……しかし、相手は列強第1位への儀礼も知らぬ文明圏外の東方国家ですよ!そこに陛下が赴くなど……!」
日本主催の世界会議への参加意思。
これに執務室にいる閣僚のほとんどが驚き、苦言を言う者も現れた。
「たわけが……!」
だが、その者には皇帝からの怒号が襲い掛かった。
その閣僚は皇帝を怒らせたという事実に、目を白黒させていた。
「今はそのようなことを考えてる暇も無いのだぞ。祖国が異形の化け物であるヒュージに侵略されている事実は変わらないのだ、時間が経てば経つほど我々が追い込まれていくのは必然であろう。その未来を阻止するため、日本が奴らに叶う刃を持つのならば、彼らに助力を請い、教えを乞うことも厭わぬ。帝国は何が何でも生きねばならん」
ミリシアル8世は皇帝としての威厳を見せ、全ての閣僚が付き従うことを誓った。
ふと、ミリシアル8世はバッティスタが申し出を行っていることに気づく。
「バッティスタ・ノーゼスト中将、何か意見でもあるのか?」
「はっ、最後にお伝えしておかなければいけない事がありました」
再び閣僚の視線がバッティスタに集中する。
「申してみよ」
「……これは日本の分析で明らかになったのですが、ミスリル級の魔導砲弾が通常兵器では傷つけられないラージ級に傷がついたことが分かりました」
ミリシアル8世含めた全員、特に軍関係者に大きな衝撃を与えた。
「……一歩上回るとでも言うのか、何ゆえに?」
「全てのヒュージに共通してあるマギ結界ですが、そのマギと魔力の近似性によるものだと聞いております。これを生かすことができれば、リリィ戦力では二歩及ばすとも、艦隊等の通常戦力では日本国に一歩抜きんでることができるでしょう」
バッティスタからの説明を聞き、納得した様子のミリシアル8世はスッと立ち上がる。
「なるほどな。なれば、我が国がリリィ以外の戦力、陸海空軍の全戦力を早急に強化せねばならないだろう。期限は設けぬ、されど日本の兵器や技術を学び、ヒュージの魔の手から他国の手を借りずとも守れる戦力を作り上げるのだ」
「「はっ!」」
第1章 League of Cultalpas 完結です。
ここまで読んでくださった読者の方、ありがとうございました。
他者の作品に比べて、文才とか描写とか劣る部分は多くあったと思いますが、読んで頂きありがとうございます。
これにてヒュージが急襲したカルトアルパスを巡る一連のストーリーは終わりとなります。
第2章は、ヒュージの出現により世界がどうなっていくのかを描いていきたいと思います。まだ、あの国家のことも描けてませんし。
第1章完結記念として、お気に入りや、高評価、感想、推薦などを頂ければ幸いです。
あと、アサルトリリィは最高なので、dアニメかアマプラで配信されてるアニメ1クールだけでも見てほしい。