日本国召喚×アサルトリリィ-World Allied Forces- 作:空社長
第十八話【縁と繋がり】
_中央暦1642年4月31日_
日本国東京
首相官邸
赤い絨毯の敷かれた階段を、武田総理を先頭に閣僚陣がゆっくりと、一歩ずつ降りていく。
その中には、ヒュージ戦下では強硬派として知られ強引ながらも強力な指導力を発揮した一方で、異世界転移後はその過剰とも思える姿勢に反感を買い、防衛大臣の職を降ろされていたはずの
カルトアルパス撤退戦より約1週間後。
既に国民に対して撤退戦の情報を公開し、防衛省と外務省が国内外の対応に負われている中で、武田は戦時内閣の成立を発表する。
閣僚らは立ち止まり、向けられるカメラに笑顔を向ける。
その視線の先にはテロ対策として設置された二重の透明な防弾ガラスを介し、多数の報道陣がカメラのレンズを向け、フラッシュを抑えめに撮影していく。
互いに無言の時間が流れていき、撮影が終わると武田は他の閣僚に簡単な挨拶を返し、踵を返して会見場へと向かった。
演説台に立ち、マイクを口に近づけると、報道陣のカメラ越しの視線を気にしながらも口を開く。
「国民の皆様、内閣総理大臣の武田と申します。多くの方はご存知かと思いますが、先日国際会議の最中にあった神聖ミリシアル帝国のカルトアルパスにてヒュージが出現し、多くの将兵の命が失われ、我々日本国も護衛艦2隻を失うという痛ましい戦いがありました。
我が国がかつていた世界から新世界に転移して既に3年が経った今でのヒュージ出現は、もしかしたらかつてヒュージ戦争の戦禍から勝手に逃れた我々への縁なのかもしれません。無論、今回出現したヒュージが我々が知るヒュージと繋がりがあるのか、我々が誘い出してしまったのか、は今のところ不明です。
そして、我々政治家はそんなことに悩むわけには行きません。
カルトアルパスは日本より遠く離れた地であるのは公然の事実ですが、ヒュージの刃に侵される他国の現状を看過することはできません。ヒュージ特別措置法に基づき、戦時内閣により日本国内の全設備を対ヒュージ戦争へと重きを置く戦時体制への移行を順次行っていきます」
報道陣からカメラのフラッシュが炊かれる中、武田は質問を切り出される前に会見場を後にする。
その対応に一部の報道記者は不満げな表情を浮かべていたが、係の案内には忠実に従いその場を離れていく。
その報道陣の中には、ムー国新聞記者、神聖ミリシアル帝国大使館職員、パーパルディア皇国民営新聞社『第一皇国新聞』記者、そして記者に変装したグラ・バルカス帝国情報局諜報員の姿があり、そのニュースは様々な形で世界を巡った。
東京 グランギニョル日本支社
世界的に有名なCHARMメーカーであり、世界に16社しかないCHARMメイカーズにも数えられる企業。
フランスに本社を置いていたグランギニョル日本支社の支社長室にはスーツを着こなしオフィスチェアに座り込む女性の姿があった。
ウェーブした赤いロングヘアの女性──
3年前の転移時。
彼女は百合ヶ丘女学院高等部1年生であり、LG『ラーズグリーズ』──通称『一柳隊』の司令塔を勤めていた。
「お久しぶりですわ、お父様」
『楓か。久しいな……人間、慣れてしまえば忘れてしまう。たとえ実の娘でもだ』
彼女がお父様と言った会話の相手。
それは正真正銘の父親であり、グランギニョル社の総帥を勤めている人物であった。
「また、そんなことを言っておりますの?……まあ、わたくしとしても寂しさを禁じ得ないのは事実ではありますわ」
『思えば、この石を見つけた時が懐かしいな。解析することができず、あらゆる情報交換が可能な謎めいた石か』
挨拶はそこそこに、彼女と父が携帯電話の代わりとして手に握り耳に当てている、虹色に染められた綺麗に丸みを帯びて手に掴みやすいような形をしている石の事に移る。
「わたくしも驚きましたわ。でも……安心も致しましたわ、お父様と言葉を交わすことができると」
『それは私も同じだ、楓。フランス政府に回収されそうになった時は全力で防いだものだ』
たとえ解析不可能で、どのような原理で動いているかもわからない石であっても、地球と異世界の間を繋ぎ、親しき物と言葉を交わし、時には顔を合わせることもできる石は大切に扱うと誓っていた。
日本各地にいる親を、兄弟姉妹を、友人を海外に置いてきたリリィ達、そして地球にいる直接言葉を交わすことが叶わなくなった者達にこの奇跡の石はもたらされていた。
『……いくら懐かしんでも何も始まらないな。そちらの状況はどうだ?』
「ええ。わたくしは大学で学びつつ、グランギニョル日本支社の運営を行っておりますわ。あまりここは心配なさらなくて大丈夫でしてよ。
他の会社についてですが、統合再編の動きはある程度落ち着いてきたかと思いますわ。……それでも、多くの弱った者が強者に飲み込まれる光景を見てきましたわ」
『こちらならまだ何とかできた。だが、このような異常事態では致し方無いだろう……』
楓は名門である東京大学へと通いながらグランギニョル日本支社の支社長となり、その才覚を生かして企業統合の動きからは逃れていた。
一方で日本にある他の海外CHARMメーカーでは独立路線は稀有な例だった。
本社をスウェーデンに置いていたユグドラシル日本支社とケルティックデール日本支社は技術提携していた関係からユグドラシル・ケルティック日本法人へと統合。
CHARMメイカーズ同士であるイギリス本社のキャメロットキャッスル社、イタリア本社のウルカヌス・インダストリー社、フィンランド本社のリンヌンラタエレクトロニクス社は共同出資を行い、欧州メーカー日本支社の受け皿として、ヨーロピアン・メカニクス日本法人を設立する。
また、日本のCHARMメーカーによるM&Aの動きも見られており、CHARMメイカーズに並んでいるヒヒイロカネインターナショナル社はスペインに本社を置くアウニャメンディ・システマス日本支社を合併している他、同じくCHARMメイカーズの天津重工に至っては、台湾本社の台北封神公司日本支社、インド本社のヴェーダユナイテッド日本支社を各メーカー製品の売買を認める代わりとして、技術の獲得に成功していた。
「……お父様。もう一つ、お伝えし忘れていたことがありましたわ」
『……なんだ?』
楓の声のトーンが少し下がったことに、父は大企業であるグランギニョル社を維持している才覚から、瞬時に気が付いた。
「わたくし達、日本がいるこの世界に、ヒュージが出現いたしました」
『何っ……!ああ、なるほどな……技術支援の要請か』
楓の口から告げられた衝撃的な告白に、父は声を上げて驚くが、その真意を瞬時に読み取っていた。
「ええ。察しが良くて助かります、お父様」
『以前から聞かされていた故に異世界の技術力は我々の技術まで及んでいないことは知っている。かつての南極戦役、あれ以上の惨劇が待っているのは確実だ』
「ええ。もちろん、日本は支援致します。今までわたくしたちが積み上げてきたノウハウを生かすことも出来るでしょう。ですが、3年の空きは戦闘力の低下を意味しています。それこそ、3年の間に築き上げられたお父様からの技術しかその差を埋めることはできないでしょう」
「分かっている。すぐにデータを送信しよう。本来なら技術の無償提供はすべきではないが、競争相手ではない異世界だ。存分に使え」
『ありがとうございます、お父様』
そこで通話は切れる。
その直後、石から音が鳴り、石の先端がUSBへと変化する。
「全く……不思議なものですわね……」
楓はそれをパソコンへと差し込み、送信されたデータを閲覧する。
メガネを掛けて真剣な表情でパソコンの画面を注視する。
「全く……ありがたいですけど、少々面倒なものですわね。ここは少し、わたくしのコネを頼らせていただきますわ」
楓は苦笑すると、自分のスマートフォンからある画面を開く。
そこには「一柳隊」と書かれたコミュニケーションアプリのグループが表示されていた。