日本国召喚×アサルトリリィ-World Allied Forces- 作:空社長
_中央暦1642年4月29日_
グラ・バルカス帝国帝都ラグナ
「いささか冗談が過ぎるのではないか?幾らカイザル大将であろうと、これは出鱈目としか思えませんが」
少し時を遡り、2日前。
第二文明圏ムー大陸のさらに西方約5000kmにある群島にグラ・バルカス帝国の本土は存在していた。
帝都ラグナに置いてある軍本部の一室に、軍人ではない人物が訪れていた。
外務大臣のロータル・ブライマンは先進11ヵ国会議奇襲作戦の海軍からの報告書を見た途端、そう言い放った。
「ですが、これは『グレード・アトラスター』及び東征艦隊より暗号電文で届けられた報告です。例え管轄が違くとも、この報告を信用なされないのは海軍の名誉を傷つけることになりますが」
ロータルの言葉に不満混じりで返すのは、海軍東方艦隊司令長官のカイザル・ローランドであった。
言葉通り、彼が指揮するのは東方艦隊であり、特務軍所属の『グレード・アトラスター』と東征艦隊は直接の指揮下には無かった。
「しかし、この『ヒュージと呼ばれる異形の怪物がカルトアルパスを襲撃した』のは幾らなんでも無いだろう。私は将兵たちの目がおかしくなったか、異世界諸国に痛い目を受けた為に作った言い訳としか思いませんが」
大臣の口から出たとは思えない、海軍将兵を貶す発言。
彼は典型的なグラ・バルカス人らしく異世界諸国を見下しており、当然魔法や妖怪の類を信用せず、異世界諸国に敗北した言い訳をしているとしか思えない海軍を下に見ていた。
「私の部下を貶すのであれば、黙ってられないわ。……あなたが大事な仕事で外出していて会議が開催できなかったらしいけど、本当は全ての仕事を部下に任せて外遊していたんでしょ」
「で、出鱈目を言うな!」
ロータルの暴論に、海軍特務軍司令長官のミレケネス・アネリータが口を開く。
当然、ロータルは声を上げて否定したが、ミレケネスは彼が動揺したのを見逃さなかった。
取り出した1枚の写真を机に叩きつけながら、言い放った。
「証拠はあるわよ。あなたが話を進めてくれるのであれば、無かった事にできるわ。くれないのであれば、もちろん意味は分かるわね?」
叩きつけられた写真、それはビーチで美女を両横に侍らせて談笑しているロータルの姿だった。
この写真を見てロータルは顔を青ざめる。
「わ、分かった……先ほどのも謝罪しよう。しかし、この戦艦をたった1射で沈める火力は本当なのか?信じきれん……」
「事実です、私が信頼する将兵たちの証言です」
ううむ、と唸るロータル。
「カイザル大将、これが帝国の脅威となることは十分に理解した。しかし、問題はこれが帝国にすぐにでも襲い掛かる敵なのかを、尋ねたい」
「……ふむ。ここからカルトアルパスまでは直線距離でも3万キロ以上は離れています。ヒュージという物が人間の軍隊に照らし合わせていいものかは分かりませんが、単純に考えるのであれば、まずは神聖ミリシアル帝国、その次にムー及び第三文明圏に侵食していくと思われますので、すぐに我が帝国が脅威に及ぼされる事は考えにくいと思われます。無論、対策は考えなければいけないでしょうが」
ロータルの問いに、カイザルは自身の常識と照らし合わせて、答えを導き出す。
しかし、ヒュージが自身の常識で判断してはいけないという事をカイザルは失念していた。
「なら、安心した。これは次回の帝前会議で報告しよう」
「分かりました」
カイザルの了解を聞き入れ、ロータルは退室する。
ドアが閉まり、その背が見えなくなるのを待って、カイザルはため息を吐く。
「あれは本当なの?ヒュージがすぐには来ないって」
「俺も分からん。ただ今すぐに答えられる解答はこれしかなかったのだ」
カイザルは眉を顰め、険しい表情を浮かべた。
「……そうね。だけど、この損害は大きすぎるわ……しかも、何の対価も無いとはね」
「今回はお前に責任は無いな、こんなのを予測出来たら、ヘルクレス級を持ってきているはずだ」
「……それでも、耐えれる?」
ミレケネスの問いに、カイザルは目を瞑る。
耐えれるはずという願望はあったが、現実逃避することは彼には似合わなかった。
「わからん……」
結局、有耶無耶にすることしかできなかった。
「私もよ。……そろそろ終わりにしましょう、後の用事も控えてることだし」
ミレケネスはカイザルの答えを肯定しつつ、椅子から立ち上がる。
カイザルも頷き、部屋から出ていく。
_中央暦1642年5月19日_
帝都ラグナ 帝王府
カルトアルパス撤退戦より27日後。
ラグナ市街地の1角に置かれている帝王府の大会議室にて帝前会議は開催された。
グラ・バルカス帝国は内閣や議会、軍の上に皇帝を戴いており、国内外全ての命令を帝王府の頂点に位置する皇帝が発する政治体制であるため、皇帝の前で各部署の人間が報告・提案等を行う帝前会議は必然だった。
「────ということで、戦闘の経過については以上です。この後、日本から敵についての説明がありましたが、先述した内容と重なりますので、割愛します」
その帝前会議にてカイザルは先進11ヵ国会議における奇襲作戦の報告を行っていた。
しかしながら、実際に行われたのは作戦内容から大きく外れる戦闘であり、カイザルは事細かに説明を行った。
先進11ヵ国会議の最中にヒュージが出現してから、カルトアルパスの奪還叶わずフォーク海峡を脱出するまでの「グレード・アトラスター」及び東征艦隊からの暗号電文を元にした戦闘経過、敵の性能、味方艦隊の特徴を説明する。
その中で、日本の戦力についても言及がされ、グレード・アトラスター級以上の対空火力と、音速を超える速さで目標を追尾する誘導弾の存在が明かされた。
また、日本が対ヒュージの国際会議にグラ・バルカス帝国も招待していることも付け加えられた。
その直後、大きなざわめきが大会議室を覆った。
カイザル大将を信用している者は、真剣に対抗策を考えようとしていた。
しかし、一方で常識では考えられない敵であるために、疑いを持っている者も当然いた。
そんな中で1人の議員が発言許可を貰って立ち上がり、発言を行う。
「なるほど?つまり、我が帝国の誇るべき戦艦『グレード・アトラスター』と東征艦隊は、妄想の敵と戦って損傷してきたと、カイザル大将閣下は言いたいわけですな?烏合の衆である異世界諸国に負けたと主張できない故に」
「お言葉ですが……これが妄想ではないことは、グレード・アトラスターの損傷具合からその激しさが分かると思いますが?グレード・アトラスターは自他共に認める最強の戦艦です、だからこそ生半可な攻撃ではこの装甲を破れないでしょう」
その議員は陸軍の肩を持つ議員である為、海軍を徹底的に貶してくる。
対してカイザルは報告書にある資料を明示してはっきりと言い返す。
その態度に議員は嫌悪感を顔に表した。
「しかし馬鹿馬鹿しい限りです、正体不明の敵の出現?脱出のために行われた共闘?正気とは思えませんが、カイザル大将殿は何と戦ってきたのですかな?」
今度は陸軍軍人からも苦言を言われる。
「何と言われましても、現実に戦艦クラスに重大な損傷を与えるほどの強大な存在であり、最悪の場合は一撃で沈められる攻撃手段を有する敵です。共闘した日本国によれば、ヒュージと呼称される敵ですよ」
馬鹿馬鹿しいと侮辱され、怒りが込み上げてくるも、カイザルは理性的に対応する。
「それが馬鹿馬鹿しいと言っているのだ。オリオン級が一撃で沈むのは、まだ弾薬庫の誘爆という前例があるからいい。だが、46㎝砲をもってしても傷一つ付かないというのは意味が分からない。それで?リリィと呼ばれる女子の攻撃でしか効かないなど、我々はどこぞのおとぎ話の中にでもいるのですかな?」
「どれほど強固な装甲であっても傷ぐらいはつく。貴官も同郷の軍人だろう、それぐらいは分かっているはずだ。傷一つ付かない等、冗談もいい加減にしてくれたまえ」
だが、カイザルの対応にも屈することなくその陸軍軍人は言葉を続ける。
さらに、身内である海軍軍人からも苦言を言われ、数の上で劣勢であることを理解し、カイザルは険しい表情を浮かべる。
しかし、肝を据えて再び発言を返す。
「では必死に無辜の住民を守るために戦って死んでいった将兵たちに嘘を付け、と仰るのですか?」
「それはカイザル大将閣下の頭の中の話だろう、正直に言ったらどうかね。海軍の敗北を隠したいと──」
(この常識以外を認めない頑固者が)
政治家の発言に、カイザルは決して表に出さないが、内心溜息と共に愚痴を吐き出す。
議論が馬鹿馬鹿しくなり、半ば聞き流すようにして適当に返していってると、窓がカタカタとわずかに揺れている微小な音を耳に拾う。
(揺れか……?)
実のところ、それは空気中の振動であった。
だが、時が進むにつれて大きくなると共に、足元もわずかに揺れ出す。
この揺れに、カイザルは猛烈に胸騒ぎを感じていた。
「……地震か……?」
「……カイザル大将?……確かに」
ふと、カイザルが呟いた言葉に困惑が走るが、突然室内が静かになったことで困惑から動揺へと変化していった。
そんな中で大会議室の外で慌ただしく走る足音が鳴る。
それはドアの前で止まり、両開きのドアが勢いよく開かれ、慌てるように入ってきた者は声を荒上げた。
「大変です!『ナゴテイ』が!!」
その者は帝都ラグナにほど近い保養地として有名な都市の名を叫んだ。
その瞬間、カイザルは嫌な予感が的中したと確信した。