日本国召喚×アサルトリリィ-World Allied Forces- 作:空社長
_中央暦1642年4月22日_
神聖ミリシアル帝国カルトアルパス
ざわめきが収まっても、ビーッビーッビーッという音は鳴りやまなかった。
(覚悟はしていた……だが、ここでか?ヒュージから身を守る術の無い彼らをどうやって……?)
「佐藤殿、今のは……」
しかし、その言葉は続かなかった。
突如として『帝国文化会館』大ホールのガラス天井が突き破られ、ガラスの破片が降ってくる中で異形の生命体がトルキア王国代表の背後に降り立つ。
幸いガラスの破片は数名が負傷したのみに留まり、その生命体が降り立った場所には誰もいなかった。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」
自分の常識からは判断できない異形の怪物を見て、トルキア王国代表は悲鳴を上げて肩を震わせる。
(スモール級……!)
卵型のスモール級ヒュージ──テンタクル種オルビオ型は胴体部前面に映る三つの光点で標的を見定めすると、蟷螂に似た前脚でトルキア王国外交官の一人を切り裂こうとする。
その行動に外交官が殺される光景を幻視した者達は自分の目をつぶる。
「異界の門」
しかし次の瞬間、日本国代表団の中に混じっていた影はそう言い放つと、トルキア王国外交官の眼前に瞬間移動して、自分が持っていたケースから得物を取り出して蟷螂状の前脚を防いで火花を散らす。
その光景を見た各国代表は誰もが目を見開き、固まっていた。
「女子だと……?」
なんとか我に返ったモーリアウルもその発言が精一杯な程、状況を理解できていなかった。
黒髪ロングヘアーの少女は第一撃を防ぐと、続く第二撃、第三撃をも防ぎ、それが決してまぐれではないことを証明する。
自分が持っていた得物、CHARMを変形させ射撃モードに変形させ、マギの弾丸を叩きこむ。
幾らか弱ったところで、打撃モードへ再度変形させ、一閃した。
胴体部を断ち切られたヒュージは機能を停止し、小規模な爆発を起こしたのち、青い体液を垂れ流す。
「佐藤大臣、臨時対応完了しました」
黒髪の少女──「
「ああ……」
だが、一体のみでは無かった。
もう一体のヒュージ──テンタクル種カマソッソ型が天井より落下する。
ニグラート連合の外交官1名が蟷螂状の脚に踏み潰されて即死し、カマソッソ型を血で濡らす。
だが、カマソッソ型はそれを気にすること無く、正八面体の胴体部前面に映る光点で次の標的を品定めする。
わずか数秒の出来事で、先程のリリィは対応出来なかったが、水色ツーサイドアップの少女が身長よりも大きい大剣で撫で切り、バランスを崩させる。
自身よりも大きい大剣型のCHARMを軽々と持ち、その少女──
佐藤は愛菜の方へと向いていた視線を戻すと、外交官の誰もが彼の顔を凝視しているのが確認できた。
「佐藤殿、あれはいったい……」
「即座に避難をお願いします……!あれは我が国が滅亡寸前にまで陥れられた敵です、詳細は後程話します。彼女達だけでは皆様を守ることはできません」
佐藤の言葉に状況を理解していない者は佐藤を非難しようとするが、神聖ミリシアル帝国とムー国の代表団が直ぐ様に荷物を纏め始めたことに驚き、遅れて同様の動きを示す。
「で、では皆様、すぐに東のカン・ブリッドへと移動します」
神聖ミリシアル帝国代表の言葉にグラ・バルカス帝国以外の代表団が頷く。
「シエリア課長、我々はどうします」
一人の外交官の言葉にグラ・バルカス帝国外交団代表であるシエリア・オウドウィン外務省東部方面異界担当課長は眉をひそめる。
元々グラ・バルカス帝国はこの会議で世界各国に宣戦布告を行う予定だったのだが、今ので全てがパーになってしまった。
「我々が単独行動しても殺されるだけだ……命は惜しい、我々も行動を共にしよう。宣戦布告など後でもできる」
佐藤は周りが荷物を纏めたのを見て、発言する。
「敵、いえヒュージはさらに現れます。護衛艦隊に戦闘準備を呼び掛けるべきと思います」
その言葉を受けて、訝しげに佐藤の顔を見つめる者もいたが、大勢は頷く。
カルトアルパス市街
既に市街地は逃げ惑う市民と応戦を試みるミリシアル陸軍で混乱の極みに合った。
そこに吹き荒れるレーザーによってボロボロの帝国文化会館から大勢の外交官が脱出していき、その場に混じる。
しかし、一匹のヒュージ──ファング種フォーン型が長く膨らんだ筒状の頭部を向けて1人の外交官に襲い掛かった。
「や、やめ……!?」
その外交官の命が失われる事態は避けられた。
頭上からフォーン型に向けてマギのレーザーが叩きこまれてその行き足は止まり、沈黙する。
「大丈夫ですか?」
その外交官が心を落ち着かせようとしている中、フォーン型を仕留めた薄桃色ポニーテールの少女が近づいて声をかける。
「ああ……大丈夫だ」
「良かったです。では急ぎ避難をお願いします」
優しく微笑む少女にその外交官は惚れかけるが、瞳に映る真剣な眼差しに気押され、足早にその場を去る。
「愛菜様、お怪我は?」
同じような服装の少女に話しかけられた愛菜は問題無いとばかりに答える。
「ええ、大丈夫。それよりも、文化会館の屋上にあったケイヴは破壊した?」
「はい。ですが、思った以上のケイヴ反応があり、破壊困難と判断しました」
愛菜の質問に、「
「分かったわ。LG『鎖日隊』、総員出撃よ」
「「「了解!!」」」
愛菜の言葉に、美樹や双葉以外にも周りにいたその他の少女達が応じた。
彼女たち『鎖日隊』は日本国防衛省直轄レギオン、日本国政府の要請で自由に動かすことが可能な8人のリリィの集団である。
「私たちはまず、カルトアルパス住民の避難を援護するわ。ヒュージサーチャーに把握できてるだけでもものすごい数の敵だから、ミリシアル陸軍と共に戦うことになりそうね」
その頃、ミリシアル陸軍カルトアルパス防衛隊は逃げ惑う住民を必死に後方へと誘導しながらも、その群衆を掻き分けつつヒュージとの戦闘に突入していた。
四輪が特徴的なマーキュリー型魔導戦闘車が霊式43㎜単装魔導砲塔から軽い発砲音が幾つも鳴り、前方のヒュージに着弾して幾つもの爆煙を上げる。
「よし、初弾命中!ざまぁみろ!」
しかし、ヒュージ──バスター種カステロ型はヘルメット形状の胴体から伸びる太く短い手が破壊された程度で本来の機能に影響は無かった。
胴体を上下に開き、反撃とばかりにその中から現れた砲身から青白い光を灯してレーザー砲を撃ち放つ。
地球において現代戦車の装甲を貫徹してきたそのレーザーが装甲車程度の装甲しか持たないマーキュリー型を貫徹するのは造作も無く、狙われた全てのマーキュリー型があっという間に動かない塊と化す。
それに動揺した一部のミリシアル軍兵士が持っていた半自動小銃をカステロ型に狂ったように撃ち続けるも、傷一つ付くことなくその四肢を八つ裂きにされる。
「ひぃ……!やめろ、死にたくない死にたくない」
「まさか、魔帝が復活したんじゃ、そうだ復活したんだ……!」
射線から逃れた兵士達がうずくまり、死や謎の存在に対して恐怖を覚える。
その存在に気づいたカステロ型は鈍重な個体をゆっくりと歩を進めていく。
だが、突然一体のカステロ型がマギの弾丸を叩きこまれて爆発する。
それに反応して2体のカステロ型が向いたのは上空だった。
「あれは魔法帝国なんじゃない。私たち、人類の敵よ」
唐突に聞こえてきたその声もまた、上空から聞こえていた。
1人の兵士が空を見上げると、そこには赤髪サイドテールの少女が大きい武器を抱えて空を飛んでいた。
カステロ型からレーザーが打ち上げられるが、少女は瞬時に避けカステロ型の一体へと肉薄し、その胴体を根元から断ち切った。
もう一体のカステロ型もその背後からいつの間にか胴体を貫かれて沈黙する。
「大丈夫?ここは私たちに任して、人々を守って」
「は、はい!」
赤髪の少女──
兵士が立ち去ると共に、橙髪ミディアムショートの少女──
「ここも掃討完了したね」
「美由希先輩、ミリシアル陸軍と共に戦う事にはなったけど、もっと防衛軍みたいな装備であれば満足に戦えた気がしますよ」
「無い物ねだりしても仕方ないから、諦めるしかないと思うよ?」
その二人の会話が聞こえない距離で、先ほどの若い兵士がその光景を眺めていた。
「あんなに強いのに人間……まるで戦乙女だ……」
その呟きは戦場の喧騒の中に消えていった。
■次回
第四話【転機】