営業時間間際まで粘っていた常連客を帰らせて、
バーテンダー兼オーナーの男はグラスを一つ一つ拭いて片付ける。
街中の影に隠れて目立たない店は潰れるほど人が集まらない訳ではなく、
静かな一時を味わいたい人々が店内に一人二人と常に入っている、
それだけでガランとした気配が無くなる小さなお店だ。
カランカラン
クローズを出してある入り口から誰かか入ってくる。
「疲れたアニキ飯」
「日中仕事の私がこんな夜更けまで残業しないといけないなんて
労基に訴えてやらないと」
男女二人がオーナーに気安く話しかけていく。
「姉上お疲れ様ですどうぞ」
お酒より白湯がいいだろうとそっとカップに入れて差し出す。
「ちょっとアニキ俺には?」
何も出されなかった男が文句を言う
「ここはめし屋じゃないといつも言っているだろう
ほらつまみでも齧っていろ」
深皿いっぱいに盛ったナッツ類をドンと目の前に置く。
カウンター席で対面形式で二人の愚痴を聞いていく店主。
「あの狂雷こっちが結婚してないからって、
友好の証として共同で新しい眷属作らないか*1とか言ってきて
奥さんもそんな戯言で切れるわ切れるわ、
もー接待の宴の席がぶっ壊れたわよ」
主催者として逃げるわけにもいかなかったし。
弟は頬張ったナッツを飲み込むと、
「俺の方は大陸の方から砂嵐を運ぼうとして来てな、
ご丁寧に放射能と毒付与のプレゼントだ
一粒残らず水底に鎮めるのが面倒でならなかったぜ
ああ、やりやがったやつはしっかりケジメを付けさせてもらったぜ」
イラつきを隠さずそういった。
僅かでも国土に触れさせたらそこから汚染される可能性があったから
面倒なのに気が抜けなくてな、
飯食う暇もなかったぜ。
「二人ともお疲れ様、
スープが温まったからどうぞ。」
飯屋ではないと言いつつ二人の食事の用意していた店主。
わーいとそこは姉弟らしく声をそろえていそいそと食事を開始する。
それだけでは足りないだろうと
店主はバゲットとそれに付ける鳥レバーのパテを用意する、
店に出すときにはお洒落によそって少量だが、
今はあるだけ出した方がいいだろう。
「終末を乗り越えてもまだ地上には平穏は遠いか、
やはり私も動くべきでは?」
「「いいから休んでろ」」
「アニキ今戦闘担当高位分霊殆どいないじゃねえか、
式紙ボディーも高級品は軒並み修理中だろ」
「こっちに来た信仰心分けるから大人しくしてなさい、
これ以上のマグ消費したら、
分霊利用した大和の国のセキュリティーまで不具合発生するでしょ」
もうお分かりだろうがこの三人日本神話の三貴子である。
店主としてやっているのは月詠の超劣化分霊である、
仮にアナライズしたらこういったデーターが表示されるだろう。
怪異 桂男 LV1 耐性 呪殺弱点 スキル ネゴシエイト
もう戦闘等は考えておらず、
魔界奥深くの本霊と話すための人型電話替わりの端末兼
人と交流しながら僅かずつでも感情マグを回収していくための
個体になる。
日本神話の高位神格がなぜと思うかもしれないが、
日本が地元ゆえの避けられない悲しさと事情がある。
日本にはその地位の高さに比べて月詠を主神として祭っている神社が驚くほど少ない、
祭られても別宮や摂社としこれでは霊能力者ではない一般信者からの信仰マグは
殆ど神社の主神に向けられ回収し辛い、
霊能力者からの供給もこの日本は戦前はまず八咫烏が統括していたため、
天照に信仰が向かいその後各祭神達にも向けられる。
それでも戦前は良かった、
ツクヨミは月読、月齢を呼んで暦を作る。
日本古来の暦が太陰暦、
月の満ち欠けをの周期を基にした年間表で長年祭祀の運営をしていた実績がある以上、
陰陽師たちを始め、日本古来の霊能集団達は儀式を行うとき、
月の運行を考慮に入れない訳には行けなかった。
直接的な氏子以外にも間接的に入ってくる信仰マグは豊富であった。
しかし戦後は変わった。
古来より続く霊能力者の組織達は虐殺され継承してきた術式は消滅していき、
祭礼はまともに行われなくなっていった。
封印を解かれた神々は戦前と比べれば燃えカスと呼べるほどとなったわずかな
財産で必死に立て直しをすることとなるのだが、
当然他神にまでマグを支払う余裕などない。
自給自足で強制節約生活を強いられてる土地で外食産業が流行るかという話だ。
さてそれならツクヨミも主神の補佐業務するなり、
自分の氏子と組織を立て直ししていくことに専念できればよかったのだが、
目覚めたときには特大の爆弾が存在していた。
日本の大企業が邪神にチョッカイかけられニュクスを刺激、
日本に影時間が発生するようになった。
放置すれば終末の進行が進むにつれて拡大していくだろうその災害、
原因たるニュクスの本体は月、
ならば月の神たるツクヨミがその災厄を抑えなければならない、
ツクヨミは消耗した霊能組織の再編成する間もなく、
日本存続の最前線に立たなければならなくなった。
ニュクスの持つ時を支配する力をツクヨミの暦、時間の運行を管理する力で抑え
ニュクスの世界中の人々の死に対する負の信仰力を
本拠地ゆえの地域補正で力負けをやり過ごし、
主に被害が広がらないよう、ガイア連合でも上澄みの強者がニュクスを
再封印するまでの時を稼いだ。
、
愉悦に笑う邪神の狂気の浸食を何処からともなく月光仮面が殴り飛ばして
被害者を正気に戻し、
ムーンビーストを強制送還させ、
歪んだ欲望で生まれたパレスを説法で改心の補助をし、
サギリンの招集無視/とっとと来いコールを
日が沈んだ後姉から引き継ぎ夜間中の鬼電を行い、
派手なことができないよう牽制する。
これを終末まで休まず行う。
ガイア連合の支援もありキツイと感じながらもやっていけた、
しかし
東京大破壊時に想定外の大物の顕現
黄泉の女神伊邪那美が現れてしまった。
幸いガイア連合の神主の式の機転によりその影響は荒神として現れたにしては
極めて軽微な物を残し、
自ら作り上げた異界に引きこもり小休止となった。
だがまったく影響がないわけではない、
認知世界で黄泉の女神が現れて何の対処もしないなら、
神話通り死の呪いが日ごとに大和の民の命を奪っていくだろう、
それも集合無意識と繋がりが深いペルソナ使い達に、
避けられぬ死の運命として。
対抗するための大神は行方不明ゆえに誰かが代わりに対処するしかなかった。
ツクヨミは月黄泉、月の世界は汚れなき浄土の一つ、
根の国の穢れで傾いた認知世界をフラットに戻すことも
高位分霊を一つ柱として派遣すれば可能だ。
そのしわ寄せがニュクス封印後の展開に直撃したが。
ニュクスが再封印されたあと空白になった死と月の支配権、
権能として所有している大悪魔や神々はこぞって取り合いとなった。
ツクヨミは本来ならこの取り合いで
ニュクスに封印中乗っ取られていた大和の地においての月の権能を取り戻し、
余計な干渉を防ぐための防衛に使うはずだった超高位分霊を消費してしまい、
本霊に限りなく近い分霊が、大和における月の主権を奪還、
そのまま余計な手出しされないよう守りに専念することとなった。
「せめて母さんが完全にあの聖人に堕とされてたら、
認知世界浄化用の分霊回収できるんだが」
「無理じゃね、運命レベルで別れが発生してるから、
せめて地上で異界作っていたらともかく
寄りにもよって認知世界なんて
概念や認識の影響がより顕著になる世界に居座ってるんだから」
「寧ろ父さんどこにいると思う?
あの神日本の国土に紐づけされてるから外国は無いだろうけど、
大和全体に母さんの影響あるから、結界が強固なところに
引きこもってるか、異界の奥深くにで寝てるのか」
「今は外国でもかつて日本の国土だったところとかはどうだ?
大陸の方とか、試される大地の方とか」
政治的にやばめの会話に移行し、
話をそらしていく二柱の神。
「私もだいぶ回復してると思うんだがな」
「月の美の概念や導きの概念を濃く入れた劣化分霊以外
碌に残ってないんだから
大人しく夜の帝王やっていなさい」
「アニキには変若水販売の元締めツー大事な仕事があるだろ、
今の大和の貴重な霊能力者達を出来る限り長生きさせる仕事が」
なお世界規模の食糧問題解決のために時間加速電脳空間での現地民の農奴化、
そこから発生した老化問題解決のために、
老化遅滞処置に回復したリソースを当てていかなければいけないため
2柱に合流し大和の諸問題解決に携われるのはさらに先の話となる。