エピソード4
鬼のボス
山の中腹ダークサマナーの集団が潜伏していると予想されるアジトに、
ガイア連合の黒札を筆頭とした精鋭は襲撃をかけていた。
ダークサマナー集団の実質的リーダーの男は、
ついに来たかと己の終わりを悟った。
終わりは見えていた、俺たちは分かり切った運命に抗い
当たり前に負けようとしている。
喧騒と破壊音がこの場所が落ちる事を示していた、
大切だった居場所が無残に壊されようとしているのに、
鬼の一柱、ここのナンバー2の自分の心は凪いでいた。
⦅昔みたいに一人落ち延びるより、家族と共に戦って死ぬ方が断然いいな⦆
転生体特有の自分が生まれる前の経験からの思いを感じながら
「さて、俺を殺す英雄様はどんな奴だ?」
その言葉に答えるかのように静かに歩む足音が聞こえてきた。
⦅こりゃ、横面ぶん殴れたら奇跡だな⦆
自分などネズミ程度にも思っていないだろう絶対的な
「お前が、ここのボスか」
若い、いや幼さがある声が鬼の耳に届いた、
⦅見かけだけでなく、ほんとに若造だな⦆
だからと言ってそれが勝機に繋がるような甘ちゃんでない事も
その佇まいだけで思い知らされた。
「お前は俺の子分たちを皆殺しにしてきたのか?」
そうでない事は、血の匂いがしない事で分かり切っていたが
少しでも時間を稼ぎたい思いと、
自分が命令していたと主張する為に言葉を交わした。
⦅親父は逃げ延びれたらいいんだが⦆
筋肉を弛緩させる、降伏する為でなく
一瞬に勝負をかける為に。
その気配に英雄の男も迎え撃つ構えを取った。
空気が張り詰める中、英雄はこちらの出方を待つようだ
⦅け、余裕綽々かこっちは逃げないだけでも必死なんだけどな⦆
自分の中の鬼の魂が即座に逃亡を図れと命じる、
人の心が親父を守り抜けと奮起する、
矛盾する思いを自分の中の人と悪魔が主張する。
⦅ああ、生かすために抗うさ⦆
現実にして数秒、敵として対峙しているだけで精神が消耗し
これ以上は戦わずに心が降伏してしまうと判断し、
覚悟を決め真正面から突っ込んでいった。
⦅俺は此処で死ぬが、一発位は当てさせてもらうぜ⦆
敵対行動が己の死刑執行サインと理解しながら、
死兵として決死の一撃を繰り出す。
≪マッスルパンチ≫右腕から繰り出す拳は、首を捻るだけで躱される
そんなことは承知済みと、
利き腕の左で≪怪力乱神≫を放つ、
⦅心臓をぶち抜くなり、首刎ねるなりしやがれその代わり一発は当ててやる⦆
喰われるだけの弱者として終わらぬと意地の一撃の結果は、
鬼の死という形では終わらず、
代わりにその拳が弾け、肉片となる結果になった、
⦅何、が? いや ま 生きて なら⦆
至近距離に迫ったならと英雄の首筋にに≪食らいつき≫にかかるも、
鬼の腹に前世の鬼同士の喧嘩でもなかった衝撃が走る。
ドシャ
吹き飛ぶなど衝撃を逃がす行為は許されずその場に崩れ落ちる鬼。
シェイクされる内蔵の悲鳴を無視し顔を上にあげる、
残身を解かずこちらの様子を観察する人の子の内心を読むことはかなわない。
⦅右手に血、てことは俺の技をただの人間の拳で打ち砕いたってか
どっちが怪物なんだか⦆
戯言が浮かぶがすぐに状況の拙さに
⦅一撃で即死してないってことは生け捕り狙いか、
殺されないのはまずい、
≪自爆≫なりなんなり自死しねえと⦆
このままでは情報を吐かされる
殴られた衝撃で霊体が≪緊迫≫≪魔封≫状態になってるが、
そんなことは関係ないと無理やりでも
発動させる、最悪マグを全部体外に出せれば魂も消滅すると
実行しようとした時。
「俺の息子たちに手を出すな」
部屋どころかアジト全体を揺るがすような怒声と共に、
巨漢が壁を壊し部屋に乗り込んできた。
その姿は半分牙むき出しの鬼にも関わらず、
もう半分は精悍な人間の男であった。
半人半鬼のその男はすぐさまこの住処の異物の排除に取り掛かった。
自分の息子と可愛がっていた仲間達を打ちのめした人間に、
その剛腕を振るうのだった。
⦅だめだ、親父逃げろ⦆
一方的に攻撃している鬼に声を出せない体で必死に伝えようとする。
英雄が様子見を終えた瞬間自分の親代わりの恩人が死ぬと
分かっていたから。
だか、体は心を裏切り限界をむかえていた。
暗くなる視界に映る最後の景色は
半人半鬼の男の首を刎ねる英雄の姿であった。