ウマ娘 レディパイロ
名古屋地方競馬場4
笠松競馬場ダート1800右回り、あたしレディパイロはスタートゲートをそこそこのスタートで出ると最内ラチへと寄りながら先頭集団の最後尾に位置取る。
皆のスタート直後特有の息を詰めた様な短めの呼吸音が溢れる。位置取りでの駆け引きと軽い接触。あたしはあぁレースが始まったんだなぁと今更ながら考える。
まあ、先頭集団っつても3人しか居ないんだけどね。残り7人は少し離れた後方で馬群を作る。
少し緩やかな坂を登りながら笠松の小回りコーナーを回り始め、あたしは力を入れすぎるとハナを取りそうになるので少しリラックスしながら走る。リラックスリラックス、ボンヤリボンヤリ。
先頭集団はあたし他2人のまま。
今度は緩やかな下り坂が始まり、あたしは更に流し気味にカーブを回りスタンド正面ストレートへと入る。
ゴールはもう1週回ってからのここ。今ラストスパートしたらウケんだろうなぁなどと考えつつチラッとスタンドに目を向ける。
うーん、お客の入りは4分の1くらいかなぁ、平日の朝だしね。この人達何やってる人なんだろう?
などと考えてる内に次のコーナーが迫ってくる。
あれ?
あれれ?
一緒にいた2人が正面ストレートでスピードを上げ過ぎたのかコーナーで膨らんじゃってら。内からイッちゃう?抜いちゃう?道中半分ってとこだけど。
あたしは折角乗ってきたスピードをわざわざ殺すのも馬鹿らしいのでそのままのスピードで2人の内側にコース取る。トレーナーの言う卑怯くさいコーナリングってやつね。
コーナーを曲がり終える頃、あたしは思いっきりハナを進んでいた。
残り向こう正面のストレート、カーブ、スタンド正面ストレートでゴール。
イケんのか?イケちゃうのか?何処で息を入れんだ?残りのスタミナは?他のやつらはどう出る?差しの奴って何人いた?マークしとかなきゃいけない子って誰だった?
向こう正面ストレートを進むあたしの頭がぐるぐると混乱していく。
その時トレーナーの顔が浮かぶ。あたしがURAのウマ娘に勝てると言ってくれたトレーナーの顔が。
レディ「っしゃあ!行ったらぁ!おりゃおりゃおりゃ!女は度胸じゃーい!」
トレ「チャンピオンズカップの席が予約出来ない・・・くそぅ、数少ない中京競馬場のG1なのに・・・」
レディ「あれ?こんな話だった?」
トレ「頑張ってスマホでポチポチしてるのに全然取れない、全席直ぐに埋まるぅ・・・」
レディ「あたしの笠松1800は?あれれ?」
トレ「このスマホのレスポンスが悪いのか?・・・なぁレディちゃんよ、どう思う?買い換え時なのかな」
レディ「知らないわよ・・・て言うかあたしのレースの話は?なんでトレーナーが地元G1の座席予約出来ない話になってんの?あたしのレースの話!」
トレ「・・・あぁ、向こう正面前のカーブでハナに出ちゃってテンパったかと思うと、開き直って向こう正面ストレート駆け抜け、最終コーナーを得意の卑怯くさいコーナリングでリード稼いで最後は半泣きになりながら正面ストレートを駆け抜けてヘロヘロになりながらもハナ差で逃げ切ってスタンドの大爆笑と暖かな拍手に包まれたレースの事?」
レディ「・・・」
トレ「ちなみに地元記者さんも面白いと思ったのかメインレースでもないのに記事にしてたな、お前の涙と鼻水でグチャグチャ顔のゴール写真付で」
レディ「・・・」
トレ「見出しは『やったねレディパイロちゃん!大号泣ゴール!!』だったよな・・・まぁ好意的な内容だったしお前のコーナリングを絶賛してくれてたから文句はないけど」
レディ「・・・」
トレ「実際良くやったと思うよ?最後のストレートでどうなるかと心配しちゃったけどよく粘れたよ、地道なトレーニングを続けた効果がちゃんと出たよな、偉い偉い」
レディ「えっへん」
トレ「うわ、こいつ素直だ」
レディ「誉められると素直に嬉しい。で、チャンピオンズカップの方はどうなのよ?席取れた?」
トレ「全然だよ・・・キャンセルが出たと思って予約取ろうとすると直ぐに取られちゃって駄目、の繰返し」
レディ「笠松なら当日いつ来てもウェルカムで入場できるのにね」
トレ「確かに」
レディ「うーん・・・取りやすい時間帯とかあるんじゃない?深夜とかは?」
トレ「どうだろう・・・深夜に座席キャンセルされる数は少ないだろうから・・・あ、キャンセル出た」
レディ「お、ポチってポチって!早く早く!」
トレ「よっしゃ任せろ!おりゃおりゃ!」
レディ「どう?」
トレ「・・・よっしゃ!取れた!」
レディ「おーやったじゃん」
トレ「任せとけってね、ぬはは、えっと入金許可して、これでよしっと・・・うわ、2700円っていつもの3倍以上じゃねぇかよ・・・屋外なのに、高いなぁ」
レディ「それ席代取り返そうとして負けるフラグ立ってない?」
トレ「勝ちゃあいいんだよ勝ちゃあ、4階席かぁ・・・最前列付近だけど・・・あ、これ当日雨だから濡れて座ってられない席だ」
レディ「あらら」
トレ「マジか、しまったなぁ」
レディ「まあ、雨を避けて見れる所もあるでしょ、競馬場に入れれば後は何とかなるわよ、あたし別に立ってるの苦じゃないし」
トレ「ん?」
レディ「ん?」
トレ「・・・」
レディ「・・・」
トレ「・・・席は1人分だけなんだけど・・・」
レディ「・・・あたしも直に見たいんだけど、いつかぶっ倒すURAの奴らを・・・」
トレ「・・・」
レディ「・・・」