ウマ娘 レディパイロ
名古屋地方競馬場8
レディ「ときにトレーナーさんや」
トレ「何かねレディパイロちゃん」
レディ「朝日杯フユゥーチュリイ・・・」
トレ「・・・」
レディ「朝日杯フィュ・・・」
トレ「・・・」
レディ「あ、さ、ひ、は、い、」
トレ「うん、朝日杯・・・」
レディ「・・・フィ、フュ・・・フュウー・・・」
トレ「・・・」
レディ「朝日フューち、チュリイ・・・あ、朝日杯、杯がいる・・・」
トレ「・・・」
レディ「すぅー・・・はぁー・・・ん、んんんん、テステス、あ、あ、あめんぼあかいなあいうえお、あ、あ、あ、あ」
トレ「・・・」
レディ「朝日杯フューチュリチィ、チュリティステークス・・・」
トレ「惜しいっ!次いけるぞ!」
レディ「うん・・・ふぅ・・・朝日杯フューチュリティステークス・・・っ!」
トレ「っし!」
レディ「いよっしゃあっ!」
力強いハイタッチを交わすトレーナーとレディパイロ、2人の顔には為すべき事を成し遂げた者だけが浮かべることの出来る達成感に満ちた表情があった!
レディ「んで、トレーナーはどうすんの?」
トレ「んー・・・下馬評通りならドルチェとダノンの2頭軸でいいとは思うんだけどさぁ・・・」
レディ「去年は7番人気だっけ?」
トレ「うん、けど2着3着は2番1番人気なんだよなぁ・・・他の年を参考に考えると1番人気の複勝は固いだろうけど、1着固定にするには不安すぎる・・・」
レディ「3連単ボックスを幅広く?けどそれだと当たってもあまり旨味が少ないよね。下手すりゃトリガミかぁ・・・フォーメーションにしても同じかなぁ?」
トレ「だよな、と言うことで1人決め打ち勝負といこう」
レディ「ふむふむ・・・どの娘でいくの?」
トレ「当日のパドックに返しウマで決めるけど、基本ダノン軸で行く!」
レディ「・・・おい違うだろ」
トレ「ん?え?ダノン軸っておかしいか?固いところだろう?」
レディ「そこはレディパイロちゃん軸でって答えて、私がイヤーンって返しだよね?」
トレ「あ!・・・しまったぁ・・・つい本気で答えちゃった・・・」
レディ「まあ、頭を回す所だから仕方ないけどね・・・さてさてトレーナーの運命や如何に!お楽しみに!」
トレ「また財布をパンパンにしてやるぜっ!」
レディ「んで、最終レースでスッテンテンになると」
トレ「マジでトラウマだから止めて」
ヒカリノプリンセス
それが地方競馬ウマ娘である私の名前、なかなか可愛い名前でしょう?
まぁ、今はロートルもロートルなんだけどねぇ・・・若い頃は東京なんかをウロウロして行ったり来たりで今は名古屋に落ち着かせて貰ってる。
レースにはなかなか勝てないけどね。
それでも私は最高齢クラスとして色々な記録を保持している。
私としてはレースに勝てなくても地方競馬を盛り上げる一端になっているならば其れで良し。と考えている。
地元警察の1日署長もやったし。色んな写真を撮って防犯ポスターにまでして貰ってる。地方競馬ウマ娘としては上等な部類じゃないかな?
まあ、それだけレースを重ね、色々な事を経験し、色々なウマ娘達を見てきたので私なりに人やウマ娘を見る目はそれなりにあると思う。
そんな私が判断しかねて首を捻っているウマ娘が名古屋地方競馬場に出てきた。
そう、レディパイロ。
とても気になっているウマ娘。
私、とても気になります!
なんてね。
普段、練習しているレディパイロの姿を見掛けると、ボンヤリとした雰囲気を漂わせているかと思えば、日本刀の刃の上を素足で歩いているような気迫を撒き散らしたり、かと思えばヘラヘラ笑って坂路をスキップで走り込んでいたりとイマイチ性格がよく分からない。
レディパイロは挨拶はちゃんとするし、他のウマ娘と普通に世間話もしている、年上の私を立ててもくれるし敬語も綺麗だ。破天荒とか気性が荒い訳では決してない。
でも私はレディパイロを見て、皆がそうしているから自分もそうしているだけという印象を拭えない。・・・考え過ぎとは思うし、皆と同じ様にという事はある意味、団体生活や集団社会生活の基本だけど。上手く表現できないけど何かが違う。
レディパイロの脚質も同様でデータ的には先行型とされてはいるけど、あの娘は先行型に留まらず追い込みはするし差しもする、この前なんか逃げまで打ってた。
自在?いやそんな脚質、どうにも予想しかねるウマ娘に対して困った予想紙が適当に書く時の言葉だろう。
脚質自在とは。
とまあ、この程度の話だけなら私もレディパイロの事がそれ程気にはならなかったと思う。
けど1度同じレースを走ってからは奴を見る目が変わった。
その日、私は先行勢の中程をキープしたまま第3コーナーへと突入してた。
最高齢クラスのウマ娘としては上出来でしょう?上手く行けば入賞かもと期待する位置。
そんな私に後方から容赦の無い、ブワァッとした気配やら気迫、熱気なんかのごちゃ混ぜの塊を叩き込んできたウマ娘がいた。勿論レディパイロよ。
私はコーナーを曲がりながらゾワッと背筋が凍り付いちゃって、思わず後方を振り返ってしまいそうになったよ。
・・・幾多のレースをこなしてきた矜持に掛けて振り向きはしなかったけどね。
私の背後から浴びせる何か・・・今思えば殺気が1番表現として近いかもしれないかな?
その質量まで感じさせる塊は右回りコーナーを曲がる私の左側、つまり私の外ラチ側から近付いていてね、私は引き寄せられる様に外ラチ側に膨らませられた。
怖い塊がいる方に私は進んだってことよ、不思議でしょう?普通はそんなのが近付いてきたら避けるよね?けど自分でも分からないけど私はその塊の方に行ったの。
ガード?
私にそんな意志があったかなぁ・・・?
そして結果としてカーブで膨らんだ私の内側を奴は、レディパイロはさっさと駆け抜けて行ったよ。
呆然とする私なんかには目もくれずに。ロートルウマ娘の私なんかにはね。
・・・私はレディパイロに首根っこを掴まれて奴の邪魔にならない所に投げ捨てられたのよ、勿論実際にそうされた訳じゃないけど、レディパイロは入賞上出来のロートルウマ娘の私をテクニックを駆使して跳ね除けて悠々と自分の最適解のコースを突き進んだってわけ。
容赦無いよね。
考え過ぎ?勘違い?
・・・そうかもね。
あんな気迫・・・いや殺気か。交流レースで走ったURAのウマ娘からも感じなかったしね。
そんな殺気をフェイントのテクニックとして使うウマ娘とか人外、娘外だよね。
そんなの居ないって思いたい。
因みにレディパイロに困惑してたのは私だけ、そこそこの地方重賞取った娘でも、ん?といった違和感を少し感じたぐらいかしら。
奴は思い通りの内ラチギリギリを突っ切って勝利よ。
あ、けどね。
レディパイロの事で納得がいったこと、成る程と腑に落ちたこともあるのよ。
レディパイロがトレーニングしていた時の事なんだけど、あの娘、自分のトレーナーと何かギャアギャア騒いで楽しそうにしてたのよ。お互いに何かふざけあってるみたいにしてね。
へー、あの娘でもトレーナーとはあんな風に楽しそうにするんだぁ・・・なーんて少し納得出来ない気持ちで私はそれとなく見てたのよ。
けど遠くからでもあの娘のトレーナーの顔を見て私は合点がいった。
あんな光の無い腐乱死体みたいな、地獄みたいな目のトレーナー、初めて見たわ。
そのトレーナーと本当に楽しそうにじゃれてるのがレディパイロ。
納得しか無かったわ。
ふふふ。