Who am I?   作:水代

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今更ですが、今作のバトルシステムは実機効果混ぜながらの基本アニポケ仕様です。
実機やってると『いやそうはならんやろ』と思うようなことでも気合とノリで成してしまうアニポケ仕様なのでその辺りはご了承ください。


中編

 

 実際のところ、ホップは友人のことを弱いなどと思ったことは無い。

 ()()()()()()()、友人に助けを求められ、それから互いの本心をぽつりぽつりと語り合って友人がどんな心境で過ごしていたのかを知って、自分がどんな気持ちで今日までを過ごしてきたのかを語って。

 

 その上でもう一度言うが、自分は友人を弱いと思ったことは無い。

 

 現にスクールの一年目くらいまでは腕前としては五分五分だったのだ。

 恐らく友人が思っているほどに自分と友人の間に才能の差というものは無い。

 そうして友人の話を聞いて思ったが、恐らく()()()()()()()()()()()()友人は多分今もトレーナーをやっていたのだろう、ということだ。

 

 単純に才能云々を語るならジムリーダーの中にはホップ以上の才能を持つトレーナーなんていくらでも居るのだ。

 じゃあ彼ら、彼女らに対して友人の心が折れるのか、と言われればきっとそんなことは無かった。

 きっと問題だったのは順番だけなのだ。

 

 自分たちの中で最も自分の才能に早く開花したのがユウリだった。

 それに負けじと自分の才能も一つ遅れて開花した。

 だがそのせいで友人の才能が開花するのが遅れてしまった。

 

 徐々についていく成績という目に見える差。

 

 焦燥に駆られ、自己を見失う友人。

 きっと自分やユウリがいなければ友人がのびのびと育ち、その才能を開花させ一角のトレーナーになっていただろう。

 二年前の時点でそう思っていたが今となってはそれは断言できる。

 

「ついにここまで来たんだな……」

 

 シュートスタジアムの客席から広がるフィールドを見下ろしながらそこに立つ二人のトレーナーを見つめる。

 

 たった二年、されど二年。

 自分や友人が迷っていた数年を加えれば実に五年以上。

 自分も友人もユウリもすっかりと成長してしまったけれど。

 

 それでも、それでも、それでも。

 

「ユウリ、待たせたけど、ようやくここまで来たんだぞ」

 

 フィールドの中央で対峙する二人の友人を見つめ、拳を握る。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 ジムチャレンジを経て、セミファイナルトーナメントでチャレンジャーたち相手に勝ち抜き、ファイナルトーナメントでジムリーダーを降して、そしてその最後の締めくくり。

 

 ガラル地方チャンピオン、ユウリ。

 

 チャンピオンとなって未だに無敗のガラル最強のトレーナー。

 

「そこに立つのはオレじゃないけれど」

 

 だとしても、きっとそこに立っているのは。

 

()()()()()()()()

 

 

 ―――自分一人じゃきっと勝てない。

 

 

 二年前、友人は自分を前にそう言った。

 

 

 ―――ホップ一人でもきっと勝てない。

 

 

 それはそうだろう、と思った。実際に勝てなかった。だからこそこの道を諦められたというべきか、諦めてしまったというべきか。

 

 

 ―――だから、二人で勝とう。

 

 

 約束があった。

 

 絆があった。

 

 後悔があった。

 

 挫折があった。

 

 でもそれは、全て自分一人のものではなかった。

 

 きっとユウリは待っていた。

 友人を、そして自分を。

 

「ごめんな、ユウリ。オレはもうトレーナーにはならない。オレにはオレの道があるから。でもな、お前の幼馴染が、オレの友達がそこに立ってる。だからさ……そこにはオレもいるんだぞ」

 

 多分、友人一人でもここまでは来れただろう。

 だがここから先にはきっと自分の力は必要だったはずだ。

 

 ―――自分一人じゃきっと勝てない。

 

 友人はそれを二年前から分かっていた。

 だから二人で力を合わせた。

 実際にトレーナーとしてその腕を奮うのは友人だが、それでもそこにホップの力添えは確かにあったのだ。

 

「けどそれだって、本人の力あってのものなんだぞ」

 

 今となっては確信できる。

 何度も言うが、昔から自分は友人を弱いと思ったことは無い。

 だが今となってはこう思っている。

 

「オレの友達は『すごいトレーナー』なんだぞ!」

 

 ―――自分の友人は『すごいトレーナー』だ!

 

 

 * * *

 

 

「あ、あは! あははは!」

 

 何年も、何年も……ずっとずっと心が暗い場所に沈んだままだった。

 勝って、勝って、勝ち続けて……なのに心にぽっかりと空白があった。

 足りない、足りない……ガラルの頂点たるトレーナーとして多くの物を手に入れてきた自負がある。

 けれど、けれど……それでも足りない。

 

 どうしても、足りないのだ。

 

 一番大切だったはずのものが手のひらから零れ落ちてしまったような、そんな感覚。

 

「あはははは! 楽しい! 楽しいよ!」

 

 そして今、欠けていた何かがぴたりと心にはめ込まれていた。

 

 ユウリが出したゴリランダーの『ドラムアタック』を相手のフシギバナの『はなふぶき』が撃墜する。

 お返しとばかりに出した『ヘドロばくだん』は『ばくおんぱ』を使って撃ち落とす。

 

「もっと! もっと行くよ!」

 

 ゴリランダーが『グラスフィールド』によってフィールドを握れば、フシギバナは『にほんばれ』によって天候を変える。

 そうして『つよいひざし』を受けたフシギバナが『ようりょくそ』によってスピードをぐんと上昇させ『はなふぶき』を撃ちだせば、ゴリランダーが『ウッドハンマー』で弾き飛ばす。

 

 ユウリのゴリランダーはチャンピオンの一番手として数々の強敵と戦ってきた歴戦のポケモンなのだが、あのフシギバナはそのゴリランダーに全く力負けしていない。

 それがどれだけ凄いことなのか、この会場にいる多くの人間に刻み付けるように攻防が続く。

 

 同じ『くさ』タイプ同士ではあるが、フシギバナは同時に『どく』タイプを持つ故にこの対面は『ゴリランダー』がやや不利となる。

 とは言え、その『どく』タイプを加味した上で互角という事実が鍛え上げられたゴリランダーの強さをはっきりと示しているのだが。

 

 ユウリとてすでに何年もガラルのトップで戦い続けるトップトレーナーなのだ、自分のポケモンの弱点くらいは把握している。

 故に『ヘドロばくだん』が直撃することだけは避けようと注意を払っている。

 どれだけ強力な技でも撃ち落とすか弾き飛ばして直撃を避ければ大したダメージにはならない。

 そして強力な技を出せばこちらも一撃を当てるチャンスなのだ。

 

 『ようりょくそ』によって『すばやさ』が猛烈に上がったフシギバナではあるが技の出が倍になるわけでも無い以上、ある程度注意を払えば直撃を避けることは容易い。

 もっとも、突然先ほどまでの倍近い速度で動く相手にそう簡単に順応し、対処できるトレーナーが一体どれだけいるのか、という話ではあるが。

 

 撃ちだされた『ばくおんぱ』に『はなふぶき』が弾かれ、『ヘドロばくだん』は『ドラムアタック』によって届くこと無く四散する。

 同じようなやり取りを繰り返し時間が経つにつれて『にほんばれ』が弱まって来る。

 

 その事実にユウリが気を取られた、瞬間。

 

 ほんの僅かな隙をつかれて放たれたのは()()()()だった。

 

「っ!」

 

 もし他の技ならば、もう何度も見て出も覚えた故に一瞬の隙があったとしても迎撃しただろう。

 だがここに来て初見の技に、ユウリの対処が僅かに遅れる。

 

 『にほんばれ』に気を取られた僅かな隙。

 そして初見の技に対するほんの一瞬の初動の遅れ。

 

 どちらも片方だけならばユウリの才能と経験なら対処できただろうが、その両方が合わさってしまえば手遅れとなる。

 

 フシギバナから放たれた奥の手の『ウェザーボール』は『にほんばれ』の影響を受けて燃え盛る火の玉となってゴリランダーを燃やす。

 

 弱点となる『ほのお』タイプの技を受け、ここまでの攻防により僅かなダメージの積み重ねも合わせてゴリランダーが崩れ落ちる。

 

 6:6のバトルのまだ一体目。

 

 けれど先に倒された、という事実はユウリにとって大きい。

 何せそれは、未だかつてのチャンピオンにしてユウリの先代たるダンデにしか成せなかったことだから。

 けれどそれ以上の事実にユウリは気づく。

 

 フシギバナの強さや覚えている技のチョイスなど違和感はあったのだが、今の『にほんばれ』と『ウェザーボール』の組み合わせではっきりと理解した。

 

 これは幼馴染のやり方ではない、と。

 

 昔の幼馴染はどちらかというと直情的、というか前のめりな育て方をしていた。天候を変え、その天候によって効果が変わる技、なんて手間のかかるやり方は無かった選択肢だ。

 勿論ユウリの知らない間に……という可能性もあったが、こういう『技の組み合わせ』を好んだトレーナーがかつていたことをユウリは覚えている。

 何せそれは当時のユウリにとって一番のライバルだと思っていた相手だったから。

 

「……ホップ」

 

 見上げる観客席。すでに満席となったそこにその姿を見つけることはできなかったが、きっとどこかにいるのだろう。

 

 同時に理解する。

 

「あはは……あはははは。来たんだ、来てくれたんだ」

 

 今更、だとか、どれだけ待たせているんだ、とか。

 思うことが無いわけでは無い。

 それでも。

 

 幼馴染と友人が力を合わせて今目の前に立っている。

 

「……懐かしいなあ」

 

 懐かしい感覚が蘇って来る。

 暗く黒い澱の底から心が浮き上がってくる錯覚すら覚えて。

 

「次、だね」

 

 ―――来ないのか?

 

 そんな言葉すら聞こえてきそうな幼馴染の表情を見て、笑う。

 

「行こう、ウーラオス」

 

 そうして次のポケモンを繰り出した。

 

 

 * * *

 

 

 ウーラオス。

 ホップ曰くヨロイ島にあるマスター道場の『秘伝』たる『ヨロイ』、らしい。

 その辺りのことは良く分からないが、かなり珍しくそして強いポケモンである。

 少なくとも自分はユウリ以外が使っているのを見たことが無い。

 そしてユウリの使うウーラオスは平然と対戦者のポケモンを2,3体持って行くのをよく見る。

 

 実際ユウリと対戦したトレーナーはその大半……実に8割以上が3体目のエースバーンを倒すことができていない。

 少なくとも二年以上、ユウリは対戦の面子を変えたことがないにも関わらず、いつも三体で相手を降している。

 そして初手のゴリランダーで圧をかけ、二番手のウーラオスで打ち砕き、打ち漏らしをエースバーンが刈り取るというのが必勝パターンになっている。

 

 要するにウーラオスというポケモンはユウリの使うポケモンの中で最も多くの敵を倒している最強格のアタッカーなのだ。

 当然ながら要注意ポケモンとしてホップとどうやって戦うかを考えた。まあユウリのポケモンに注意を払わずに済む相手など一体も居ないのだが。

 

 ウーラオスは実は進化先が派生し、その進化先ごとにアタッカーとしてのスタイルやタイプが変化するらしいのだが、ユウリの使うウーラオスは『一撃』を重視したスタイル……進化でありタイプとしては『あく』と『かくとう』になる。

 

 見た目通りの近づいて強力な一撃で相手を倒すパワータイプのポケモン。

 

 真っ向勝負では分が悪いのは分かっている。

 

 だからフシギバナをボールに戻し、次のポケモンを準備する。

 

 そうして投げたボールから飛び出したのは―――。

 

「ルカリオ! 確か昔も使ってたよね、その子」

 

 ユウリが言う通り、自分が出したのは『はどうポケモン』ルカリオ。

 ジムチャレンジの頃に仲間にしたリオルを育て進化させたのだがジムチャレンジの断念、そしてトレーナーの引退と共に他のトレーナーに預けていたのだ。

 一方的な別れだったとは思うが直接会いに行き、もう一度一緒に戦って欲しい、という自分の言葉に迷うことなく頷いてくれた大切な仲間だ。

 預けていたトレーナーもまた突然のことだったはずなのに、『おや』である自分に返すことに同意してくれて感謝しか無い。

 

「行こう……ルカリオ」

 

 そんな自分の言葉にルカリオがぐっと拳を突き上げる。

 任せろ、まるでそう告げるように……否、きっとそう言っているのだ。

 ルカリオは生物の『波動』を感じ取れるポケモンだ。

 『波動』というものがかなり抽象的でそれを感じ取れない自分たちにはいまいち理解しづらい概念ではあるが、人の感情の波などもそれで分かるらしく、ルカリオには他者の気持ちを理解できるポケモンだ。

 故に今の自分の情動を感じ取り、それに応えようとしてくれているのだろう。

 

 ルカリオが戦闘へ意識をスイッチする。

 

 それを感じ取ったのか対面のウーラオスもまた拳を握り、構える。

 

「ウーラオス!」

「ルカリオ!」

 

 同時、互いのポケモンが動き出す。

 同じ『かくとう』タイプ同士、確かめ合うように『インファイト』で殴り合う。

 ほとんど密着するような距離での殴り合い、だがポケモンの膂力から放たれる一撃一撃がぶつかり合うたびに火薬が弾けたかのような炸裂音が鳴り響いた。

 

 僅か十秒にも満たない交差。

 

 形勢はウーラオスにやや有利だった。

 とは言えそれは分かっていた。同じ『かくとう』タイプであり、単純なパワーで上を行かれている以上、先も言ったが真っ向勝負は分が悪い。

 だからウーラオスには無く、ルカリオにはある武器で戦うのだ。

 

 ルカリオがバックステップで距離を取る。

 同時にその両手の間に青い光が集まっていき……『はどうだん』が撃ちだされる。

 

 そしてこれがウーラオスとの違い……つまり『射程』だ。

 『はどう』を操ることのできるルカリオはともすれば直接的な殴り合い以外のほうが強いのだ。

 

 『あく』タイプの弱点を突くその一撃にウーラオスが飛び退って躱そうとするが、『はどうだん』はルカリオが操って相手を追尾することのできる必中の一撃だ。

 躱した先に飛んで来た『はどうだん』にウーラオスが一瞬面食らい……。

 

「撃ち砕け、ウーラオス!」

 

 直後に飛んで来たユウリの言葉にその右手から突き出された『あんこくきょうだ』が『はどうだん』を消し飛ばした。

 多少のダメージにはなっただろうが痛手と言う程ではない。

 そしてウーラオスの一撃はその全てがこちらにとって痛手、どころか致命傷となる以上、『ひんし』でなければ問題無いとばかりにウーラオスが飛び出す。

 

 再び突き出された『あんこくきょうだ』がルカリオへと突き刺さる。

 

「えっ」

 

 そのことに何よりも指示を出したはずのユウリが驚いた。

 それはそうだろう、その一撃はウーラオスが当てたのではない、最初からルカリオが躱さなかったのだから。

 『ふかしのこぶし』によって一瞬霞のように消えたその手先がルカリオの『きゅうしょ』を的確に捉える。

 弱点となるタイプではないが、ウーラオスが得意とする『あく』タイプの一撃がその『きゅうしょ』を捉えたのだ、大ダメージは間違いなく、下手をすれば致命傷となり得る一撃だった。

 

 だが、それでも。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 ルカリオが歯を食いしばってその一撃に耐える。

 

 そのために何度も何度も、特訓を積み重ねてきたのだ。

 この一撃を撃たせるために、この一撃を耐えるために。

 ホップとの特訓で『あく』タイプの攻撃を何度も何度も、プロレスのようにその身に受け続け耐えるための特訓を重ね続け。

 

 そして『せいぎのこころ』は今『あく』の前に燃え上がるのだ。

 

 『ひんし』寸前の重い体で、けれど燃え盛る炎のように強い意思をその目に宿し。

 

 ―――ルカリオの放った反撃の『きしかいせい』がウーラオスを打ち抜く。

 

 絶叫しながら身もだえるウーラオスと息も絶え絶えのルカリオのどちらもが、それでも倒れない。

 

 負けてなるものか、と闘志を震わせて。

 

 ―――ふいうち!

 

 ―――しんそく!

 

 ほんの一瞬の差が勝敗を決めた。

 

 

 * * *

 

 

 楽しい!

 楽しすぎる!

 

 もう何年も感じていなかった感情の昂りにユウリのボルテージが上がっていく。

 正直もうここまで来てくれただけでも良かったのだ。

 もう諦めていたから、ずっと独りなんだって、正直諦めていた。

 だからここまで来てくれただけで嬉しかった。

 

 今更、そんな言葉も引っ込むくらいに嬉しかった。

 

 けれど、今は違う!

 

 楽しい、のだ!

 

 嬉しいだけじゃない。

 幼馴染は、そして友人は、トレーナーとしてのユウリを研究し、確実に勝ちに来ている。

 しかもプロの流儀に沿って、だ。

 普通に考えてゴリランダーにフシギバナを、ウーラオスにルカリオを当てる意味など無い。

 相性が悪いわけでは無い、が相性を考えるならもっと良いポケモンがいるだろう。

 傾向的にユウリのパーティの面子に合わせてポケモンを揃えているようなので多分『リザードン』と『カメックス』もいるはずだ。そして自分に『相棒(トモダチ)』がいるように幼馴染にも『相棒(トモダチ)』がいるはず。

 だとするなら対面ももっと工夫できたはずなのだ。

 

 少なくともリザードンがいるならゴリランダーにリザードンを当てない理由は普通は無い。

 

 けれど()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ユウリはこのガラルで最強のトレーナーだ。

 だがチャンピオンとはそれだけではないのだ。

 ガラルのチャンピオンとは、ガラルのトップトレーナーとは同時に最高のエンターテイナーで無ければならない。

 

 即ち『盛り上がり』。

 

 ガラルのポケモンバトルは『興行』である以上これは必須となる。

 

 相手のポケモンに対して弱点となるポケモンを投げて、弱点をついて順当に勝つ、これではダメなのだ。

 トレーナーとしては良くてもエンターテイナーとしては二流だ。

 同じタイプのポケモンでぶつかり合い、激しいバトルを演出しながら一手間も二手間も加えた上で勝利を奪う。

 これこそがガラルに最もふさわしいトレーナーの勝ち方と言える。

 

 今幼馴染が目の前でやっているのがそれだ。

 

 故にこそ今このスタジアムは揺らいでいる。

 何年も勝ち続け、無敗の二つ名を引き継いだ常勝のチャンピオンユウリの人気が、かつてのダンデとユウリのバトルのように、新しい光に観客が惹かれ始めていた。

 

 そう、これはプロの流儀だ。

 

 観客を盛り上げる、その上で勝つ。

 

 これこそがガラルのプロトレーナーの在り方だ。

 

 だからこそ、楽しいのだ。

 

 幼馴染が、友人が自分と同じ領域で戦ってくれているという事実。

 そしてその上で今自分を圧倒しているという事実。

 

 その事実にユウリの心が沸き立っていた。

 

「ポケモンバトルは、楽しいね」

 

 いつの間にかその口元には昔のような笑みが浮かんでいた。

 その事実にユウリは未だ気づかない。

 

 

 * * *

 

 

 対面、エースバーン。

 とにかく素早く、そして一撃が重い、典型的な速攻タイプのアタッカー。

 当然ルカリオを引かせる。あの燃え盛る炎を前に『はがね』タイプのルカリオができることなどたかが知れている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 例え『ひんし』寸前だろうと、まだ大きな役割がある。

 故に入れ替わりに出したのはリザードン。

 ユウリも知っていたとばかりの表情。多分こちらの面子もほとんど割れたと見てよい。

 

 このガラルにおいて特定の誰かへと対策をしたパーティというのは受けが悪い。

 

 受けが悪い、というのは盛り上がりに欠ける、ということであり、ガラルのトレーナーとしてはそれはある意味致命的な欠陥となる。

 だがそのためにこんなパーティを組んだわけでは無い。

 

 自分もホップも、人気のために戦っているわけでは無い。

 

 ()()()()()()()()()

 

 ユウリはいつだって同じ面子で戦っている。

 誰かに対策を取られても、誰に対策を取ることも無く、同じ面子で戦い、そして勝ち続けてきた。

 だからなるべく対等に戦いたかった。

 自分たちはただユウリと戦いたいのではない。ユウリを独りにしたくなかったのだ。

 

 だから同じようなポケモンたちを選んだ。

 

 ゴリランダーにはフシギバナを。

 ウーラオスにはルカリオを。

 そしてエースバーンにはリザードンを。

 勿論全く同じわけでは無いが、少なくとも()()()ではないだろう面子を。

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 フシギバナに仕込んだ『ウェザーボール』のように、ルカリオの『きしかいせい』のように、どうやって戦い、どうやって倒すのか、それを考えろとホップに言われた。

 それは多分昔の自分には無かった思考だった。

 ただ精一杯育てて、目いっぱい戦えば勝てると思っていたから。

 

 そうじゃないのだと、ホップと共にポケモンを育てる中で理解するようになった。

 

 勝つための明確な道筋、それを示し、組み立てることこそトレーナーの役割なのだと。

 

 故にリザードンがエースバーンに勝利するのもまた当然の流れなのだ。

 離れての『エアスラッシュ』で怯ませ、近づけば『ドラゴンクロー』で引きはがす。

 『ひこう』タイプの利点を生かして『そらをとぶ』ことで相手の攻撃を躱し、『ほのおのうず』で囲んでしまえば相手の素早さも封じ込めることができる。

 ユウリが『勝利のためのプロセス』を放棄し続けている限り、この流れは変わることは無い。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 * * *

 

 

 こちらの残りポケモンは3体。

 幼馴染の6体。しかも接戦だった先ほどまでとは異なり、空中戦を強いられて一方的だった今の戦いでリザードンはほとんどダメージを負っていない。

 

「うーん、やられちゃったなあ」

 

 かなり一方的な展開である。

 だがここまで一方的な展開となって、それでも尚、ユウリの勝利を信じる人間は多いだろう。

 今この手に握っている、このボールの中に入っている一体のポケモン。

 チャンピオンユウリという存在をガラル中に知らしめたその一体。

 

 このポケモンがいる限り、真に自身の有利は覆らない。

 

 逆に言えば、このポケモンが敗北するようなことがあれば……ユウリの敗北が現実を帯び始めると言える。

 

「どうするのかな?」

 

 ここまで完璧にユウリを対策してきた幼馴染と友人だが、ユウリ自身、このボールの中にいるポケモンに対してどんな対策があるのか想像もできない。

 

「ねえ……どうするの?」

 

 問いかけるように幼馴染を見つめ。

 

 

 そのボールを投げた。

 

 

 * * *

 

 

 ソレが目の前に出てきた瞬間、全身が硬直した。

 

 濃い青紫色の骨格標本のような体とその内側でぼんやりと輝く赤い光。

 恐らく目に当たるだろう部分は空っぽで無機質に塗りつぶされており、何の感情も見受けられない。

 全長20mを超える巨体は宙を泳ぐようにゆらゆらと浮き上がっており、その全身からは迸るような赤いエネルギーが弾けていた。

 

 ―――ムゲンダイナ。

 

 かつてこのガラル地方においてその猛威を振るった伝承の怪物。

 そして時のチャンピオンダンデをたった一体で打ち破り、その後ユウリとホップ……そして伝説に語られたポケモンたちが共に戦い、ユウリの手によって捕獲された存在。

 

 何もできなかった自分にとってそれはまさしくトラウマの象徴といって過言ではないだろう。

 

 分かっていたはずだ、ユウリが公式試合でムゲンダイナを使用することは。

 

 その圧倒的な力こそがまだチャンピオンになったばかりのユウリを最強のチャンピオンに押し立て、勝利への渇望に欠けた今のユウリをそれでも今尚チャンピオンに押しとどめている何よりの要因なのだから。

 

 極論を言えば残り五体を倒していたとしても、ムゲンダイナさえ残っているなら勝利への道は決して途絶えることが無いのだ。

 

 当然……ホップと真っ先に話し合った対象でもある。

 

 どうやって勝てば良いのか、どうやって倒せば良いのか。

 

 ジムリーダーが手持ちの全てを使ってようやく打倒できるレベルの怪物を、いかに最小限の犠牲で持って打ち倒すか。

 そのための道筋は存在する……のだが。

 

「は、はは……これは、困ったな」

 

 手が動かない。

 恐怖が、トラウマが、体を凍らせて、思考すらも徐々に止まりつつあった。

 だがエースバーンを倒して戦意を上げたリザードンが場に出たままで、そこにユウリがポケモンを出せばバトルは続行される。こちらの意思を無視したまま。

 

 こちらの指示を待つリザードンにムゲンダイナが咆哮を放つ。

 圧倒的な強者の威圧に震えあがったリザードンがこちらの指示を待たずそのまま『エアスラッシュ』を放つ。だが直撃したはずのその一撃にムゲンダイナは僅かに身じろぎしただけで終わる。

 代わりとばかりにその胸の当たりにある赤いコアへとエネルギーが集中し。

 

 ―――『ダイマックスほう』

 

 放たれた赤い光線が柱のように太さとなってリザードンを狙う。

 直撃すれば一撃で落とされかねないその砲撃にリザードンが死に物狂いで逃げ出す。

 

 だが。

 

―――『ダイマックスほう』

 

 そんな強力な砲撃もムゲンダイナからすれば連射できる程度のものでしかない、と再度エネルギーが充填され放たれる。

 さらに先ほどは避けられたから、と横に薙ぐような起動で放たれたその砲撃は同じように避けようとしたリザードンを確実に捉える。

 避け切れないと悟ったリザードンが咄嗟に『ほのおのうず』で迎撃しようと劫炎を吐き出すが、一瞬すら均衡することも無く燃え盛る炎ごとリザードンが赤い光の奔流に飲みこまれ……落ちた。

 

「あっ……うぁ……」

 

 最早『ひんし』となったリザードンを見つめ、震える手でゆっくり、ゆっくりとボールを向けリザードンを戻す。本来なら数秒にもならない作業にたっぷり三十秒近くかけて。

 

 次のポケモンを出さなければならない。

 

 それが分かっていても体が動かない。

 思考が止まる、誰を出せば良いんだっけ……誰を出してもあのビームで一瞬で薙ぎ払われる未来しか見えなかった。

 倒す方法は……あったはずだ。アレを? どうやって?

 

 違う、アレは倒せるのだ、ホップと散々話あったはずだ。一体何を?

 

 逃げたい、今すぐに逃げてしまいたい。違う、戦え! ユウリをまた独りにするのか!

 

「あ、くっ……」

 

 次、次、次……何だっけ、何を出すんだっけ。

 えっと、えっと、えっと……。

 グルグルと思考が空回る。

 

 対面でユウリがどうした、とばかりに首を傾げる。

 

 どれを、何を出す、誰を、誰を、誰を?

 

 一向に動かない自身に観客たちがざわめきだす。

 

 どうやって、手順……何かあったはず、何だっけ?

 

 審判が怪訝な表情をして、こちらを見る。

 

 ぐるぐると、ぐるぐると思考が空回って、焦りばかりが増して。

 

 それで、それで、それで。

 

 

 

「■■■ハーーー!!!」

 

 

 

 誰かが、自分を呼んだ気がした。

 

 

 * * *

 

 

「オレたちがやってきたことは!」

 

 誰かが。

 

「オレたちが積み重ねてきたことは!」

 

 誰かが。

 

「オレたちが苦しんできたことは!」

 

 誰かが。

 

「絶対に、絶対に! 絶対に無駄なんかじゃないぞ!」

 

 振り向く、その先に。

 

「だから、負けるな! お前はもうあの時のお前じゃないんだぞ! 挫けて、苦しんで、それでも立ち上がって、戦ってきたんだ!」

 

 最前列の席から身を乗り出すかのようにしてこちらへ叫ぶ友人の姿を見て。

 

「勝て! お前なら、勝てる! だから、だから!」

 

 思いだす。

 

「勝てええええええええええ!!!」

 

 思いだした。

 

 

 

「ユズリハーーー!!!!!」

 

 

 

 それが自分の名前であったと。

 

 

 * * *

 

 

 何度も、何度も、何度も繰り返した動きだった。

 故に意識せずとも勝手に手が動き、腰に巻き付けたホルスターからボールを一つ掴み。

 

 そして投げた。

 

 

「レジギガス!」

 

 

 飛び出したのは錆びついた機械のように動きの鈍い巨人だった。

 レジギガス。カンムリ雪原に存在する『巨人伝説』の主。

 それがユウリのムゲンダイナという圧倒的な暴力に対抗するために自分が選んだ同等の暴力だった。

 

 各地の伝説に語られる巨人。

 

 その存在にさしものユウリも驚いたのか、一瞬動きが止まる。

 

「今! ボディプレス!」

 

 その僅かな隙にレジギガスが動き出す。

 まだ本調子ではないからかその動きは鈍いが、それでも一瞬動きを止めたユウリが再び動きだすより早く技のモーションに入り……飛び上がった。

 

 4メートル近い巨体が飛びあがり、ムゲンダイナへと降り注ぐ。

 

「そのまま掴まって!」

 

 実際のサイズはともかくサイズ比としては長細い形状のムゲンダイナの首元に降り注いだレジギガスがそのまま両手足を使ってムゲンダイナへとしがみつく。

 

「振り払って!」

「しがみつけ!」

 

 体を回転させてレジギガスに振り落とそうとするムゲンダイナと振り落とされまいと必死にしがみつくレジギガス。

 

「そのままずつき!」

 

 両手足はしがみつくのに使えないにしても頭は空いているとレジギガスが『しねんのずつき』でムゲンダイナへとダメージを与える。

 『どく』タイプの弱点となる『エスパー』タイプの攻撃にムゲンダイナが身を捩る。

 だが反撃しない……いや、できないというべきか。

 ムゲンダイナの持つ技は基本的に胴のコアや顔の前を起点として発射する技ばかりであり、自分の首にしがみついた相手に攻撃できる技が無いのだ。

 

 人の形をしたポケモンでなければこの避け方はできない。

 しかもムゲンダイナに振り落とされないだけの力も必要だ。

 何よりこうして密着しているとは言え、ムゲンダイナに対してダメージを通せるパワーが何よりもいる。

 

 その全てを兼ね備えたポケモンはレジギガスだけだった。

 

「コアのエネルギーを暴走させて!」

「っ! 離れて!」

 

 ユウリの『じばく』染みた指示によって荒れ狂うムゲンダイナに、それに巻き込まれる直前に咄嗟の指示で離れさせたレジギガスは無傷だった。

 とは言え、距離は離された、もうしがみつかせてもらえないだろう。

 

 ならば。

 

「撃て!」

「守って!」

 

 ―――『ダイマックスほう』!

 ―――『まもる』

 

 放たれたビームをレジギガスの出した半透明の盾が凌ぎ切る。

 

「これで……四手」

 

 冷静に、冷静に、心を落ち着かせながらゆっくりと指を折る。

 一つ、二つ、三つ、四つ。

 

「二度目はどう防ぐのかな?」

「もう一度守る!」

 

 ―――『ダイマックスほう』!

 ―――『まもる』

 

 再度放たれたビームを、レジギガスがまた半透明の盾で守らんとする……が。

 

「二度目は脆くなる……知らないはずが無いよね」

「っ!」

 

 盾があっさりと割れてビームがレジギガスを撃ち貫く。

 悲鳴染みた音を鳴らしながらレジギガスがそれでも耐え抜いて。

 

「五手」

 

 ―――『スロースタート』!!!

 

 直後、レジギガスの全身から放たれる圧が増す。

 見た目には変わったようには見えない、がその力が大きく増したのは理解したらしいユウリが警戒した様子でこちらを見つめ。

 

「踏み抜け! 『じだんだ』!」

 

 『まもる』が失敗したことによって技の威力が大幅に増した渾身の『じだんだ』にムゲンダイナが絶叫した。

 一度技を失敗させてから出すことで威力が大幅に上がるという変わった技である。

 当然ここまでの流れもホップと決めてのこと。

 

 威力の上がった『じだんだ』は『じめん』タイプの中でも最大威力を誇っていた『じしん』をも上回る威力を持つ。そして『じめん』タイプはムゲンダイナの『どく』タイプに対して弱点となるタイプでもある。

 

 そんな強い技をレジギガスのパワーで放つことでムゲンダイナを突破しよう、というのがこの作戦の肝……だったのだが。

 

「浅かった、か」

 

 大きなダメージは受けている、というか先ほどまでの攻撃と合わせて『ひんし』一歩手前というところまできている、がそれでもまだ『ひんし』にはなっていない。

 そして『ひんし』にできなかった以上、反撃を食らうのは当然の流れであり……。

 

「ムゲンダイナ! 確実に倒して!」

 

 ユウリのそんな言葉にムゲンダイナが咆哮し、その姿が変じていく。

 あの時と同じ……巨大な手のような姿へと。

 

 ―――『ムゲンダイビーム』!

 

 手の中心部から放たれた先ほどまでの比ではないほどの強烈な赤紫色の光線がレジギガスを飲みこみ、軽々とその巨体を吹き飛ばした。

 

「―――ッ!」

 

 機械音のような悲鳴を上げながら、レジギガスが崩れ落ちる。

 さしものあの圧倒的破壊力には耐えきれなかったか、痛手ではある……がそれでもレジギガスが残した傷は深い。

 そしてさしものムゲンダイナもあの全力を絞り尽くすような砲撃の後ですぐに動けるわけでは無いらしく、元の姿に戻りはしたものの虚脱状態のまま宙にふわふわと浮いている。

 

 チャンスだった。

 

「ルカリオ!」

 

 『ひんし』寸前で戻していたルカリオを投入。

 動けないムゲンダイナへと技を出させる。

 

 ―――『きしかいせい』!

 

 現状のルカリオの出せる最大火力。例え『どく』タイプに半減されたとしても、これ以上は無い。

 反動で身動きのできないムゲンダイナへとルカリオの一撃が突き刺さる。

 悲鳴を上げながら身を捩り……。

 

 それでも耐えた。

 

 どう考えても耐えられるはずの無い一撃を、それでもムゲンダイナは耐える。

 トレーナーをやっているなら時折あるはずだ、本来耐えられないはずの一撃をポケモンをただの精神論で耐えてしまうことは。

 よりによってここで起きた、それだけの話。

 

 他のポケモンだったらそれが致命的な問題となっていたかもしれない。

 

 だが元より()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ―――『しんそく』!

 

 フラフラのムゲンダイナが動きだすよりも早く、文字通り神速の一撃がトドメをさす。

 さしものムゲンダイナとて二度目は無い。力無く崩れ落ち、ユウリのボールへと回収されていく。

 

 

「たお、した……?」

 

 

 その光景を見ながら、呆然と呟く。

 

 それはまさにトラウマの象徴だった。

 

 ただ見ているだけで身震いするほどに。

 

 対峙すれば体が凍り付くほどに。

 

 そんな絶望が、倒れ伏した。

 

 その事実に、心が追いついていないのか、どうしても実感はなく。

 

 気づけば、ユウリは次のボールからポケモンを出していて。

 

 ―――『ねらいうち』!

 

 狙いすましたインテレオンの指先から放たれた水弾がルカリオを撃ち抜き、ルカリオが崩れ落ちた。

 

 

 * * *

 

 

 対面のカメックスと目の前のインテレオンが激しくぶつかりあう。

 ユウリとて矢継ぎ早に指示を出しているのだが、幼馴染は……ユズリハはまるでそれを読んでいるかのようにあっさりと対処してくる。

 

 否、きっと読んでいるのだろう。

 

 トレーナーとして数多く戦ったホップの経験則、さらにずっと昔から一緒にいたユズリハの幼馴染としての関係性、自身の感情や思考まで計算に含めて何をするのか、どうしたいのかを大よそ事前に考慮されてしまっている。

 

「『かげぶんしん』からの攪乱して、『ねらいうち』!」

「惑わされずに『こうそくスピン』! 『ねらいうち』を弾き飛ばして『ハイドロポンプ』!」

 

 先ほどから『かげぶんしん』での攪乱を狙ってもあっさり対処される。

 『ふいうち』してもまるで分かっていると言わんばかりにあっさりと『からにこもる』。

 『ねらいうち』は手足や首を引っ込めての『こうそくスピン』に弾かれ、お返しとばかりに『ハイドロポンプ』が飛んでくる。

 

「それでも……やられっぱなしは癪だよね」

 

 ―――『れいとうビーム』!

 

 インテレオンの指先から水弾の代わりに冷気の光線が放出される。

 勿論『みず』タイプのカメックス相手にただ当てたところで大したダメージにはならないだろうが。

 くい、とその指先を地面へと向ければ話は別だ。

 

「さっきから『みず』技撃ち合ってフィールドも濡れてるから、良く凍るでしょ?」

 

 放たれた冷気はフィールドを凍らせていく。

 素早さの高いインテレオンがカメックスの周囲を走り回りながら足元を完全に凍らせていく。

 

「インテレオン、『ねらいうち』」

 

 ―――『ねらいうち』!

 

 放たれた水の弾丸をカメックスが『こうそくスピン』で躱そうとするが、足元がツルツルと滑ってしまって弾丸を弾いたは良いもののそのまま滑って行ってしまう。

 

「っ! カメックス!」

 

 ふんばりが効かないため自分でも予想外の動きをしましまい、態勢を整えるのに一手、カメックスに隙が生まれる。

 

 ―――『ねらいうち』!

 

 その瞬間をインテレオンが見逃さずに『スナイパー』のような正確さでその『急所』を撃ち抜けば、カメックスが大ダメージに悲鳴を上げる。

 だがさすがに二人に鍛えられているのか、痛みを堪えながらその甲羅の砲をインテレオンへと向けて。

 

 ―――『ハイドロポンプ』!

 

 放たれた激流がインテレオンを圧し潰す。

 ここまでの戦闘のダメージに積み重ねにトドメをさされたのか崩れ落ちるインテレオンをボールに戻し。

 

 同時。

 

 カメックスもまた限界が来たか、直後に目を回して倒れる。

 

 つまり、相打ちだった。

 

 

 * * *

 

 

「これが最後、かあ」

 

 残り一つになったボールを片手にユウリが先ほどまでの楽しそうな表情から一転した寂しそうな表情で呟く。

 

「楽しかったなあ……ホントに、楽しかったんだ。ここ何年かで、一番って言っていいくらいに、楽しかった」

 

 くすり、と笑う少女の表情はけれどどこか物悲しい。

 

「私がチャンピオンになって、ホップも、ユズリハも居なくなって。何のために戦ってるのか分からなくなっちゃって……」

 

 嘆息一つ。

 

「ホントはね、こんなの嫌だったんだ」

 

 目の前で片手にボールを握ったまま、幼馴染の少女がニヒルな笑みを浮かべた。

 きゅ、と手を握りしめる。少女にそんな顔をさせてしまったことを、このバトルの始まりからずっと後悔し続けていた。

 

「昔は楽しかったよね……二人で一緒にただ無邪気に遊んでいられたころは」

 

 そんな少女の言葉に頷く。

 ああ、そうだ。楽しかった、まだ幼かった頃、幼馴染の少女と共に親からもらったボールに初めて手に入れた『トモダチ』と一緒に遊んでいた記憶。

 

 ただ技を出すだけですごいすごいとはしゃいでいて。

 

 互いに『トモダチ』を対峙させるだけでまるで本物のトレーナーになったかのような錯覚すら覚えて高揚した。

 

「いつから、なんだろうね、楽しくなくなっちゃったのは」

 

 ああ、本当にいつからだっただろう。

 

「いつから……なんだろうね。こんな風になっちゃったのは」

 

 いつから、なんて尋ねたところで、結局のところそれは過去でしかなく。さらに言うならば、きっとどうやったところで自分と少女はこうなっていただろう、不思議とそう確信できた。

 

「何がダメだったのかあ……どうして上手くいかないんだろう。私はこんな風になりたかったわけじゃないのに。どうしてこうなっちゃったのかなあ」

 

 何がダメだったのか、なんて問う少女の言葉はまるで暗に自分を責めているようだった。

 きっと少女にそんなつもりは毛頭ないのだろう。逆に言えばそれを聞いている自分がそう感じているのだ。

 自分の中にある罪悪感のようなものが、チクチクと自らを苛んでいる。

 

 ああ、本当は分かっている。

 

 そんなもの簡単すぎるくらいに明白で。

 

 結局のところ。

 

 やる気も無いのにこんな地位(さいきょう)になってしまうくらいに少女には才能が溢れすぎていて。

 

 そんな少女と比べた時、自分が余りにもちっぽけだった、それだけの話なのだ。

 

「時々思うんだ……ユズリハと一緒にただ素直に遊んでいられた頃に戻れたら、ホップも入れて三人でスクールの帰り道に美味しいもの食べて、一緒にはしゃいで、時々バトルして……そんな頃に戻れたら」

 

 自分もまた同じように思っていたことがあった。

 いや、きっと今でも心の片隅ではそう思う気持ちがあるのは否定できない。

 

「それでも」

 

 そう、それでも。

 

「時間は戻らないんだよ」

 

 悔やんでも、苦しくても、辛くても、焦がれても。

 それはもう全部『過去』なのだから。

 

「ユウリ」

 

 目の前でこちらを見つめる幼馴染の目を見つめ返し。

 

「今日は、勝つよ」

 

 『相棒(トモダチ)』の入ったボールを握って突き出せば、ユウリがふっと笑みを浮かべ。

 

「負けないよ、ユズリハ」

 

 ユウリもまた同じように『相棒(トモダチ)』の入ったボールを突き出す。

 

 もうすっかり時間は経ち、自分もユウリも成長して姿は変わってしまったけれど。

 

 ここはいつも遊んでいたハロンタウンの空き地じゃなくて、大勢の観衆に見守られたシュートスタジアムだけれど。

 

 それでも、気持ちだけはあの頃に戻ったかのような気分だった。

 

 それはきっと、ユウリも同じ。

 

 

「「勝負だ!!」」

 

 

 ニィ、と笑みを浮かべ、互いがボールを投げる。

 

「ピカピー!」

 

 自分のボールからは自分のトモダチのピカチュウが飛び出し。

 

「ブイブイ!」

 

 ユウリのボールからはユウリのトモダチのイーブイが飛び出す。

 

 そうして。

 

「「戻れ!」」

 

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 視線の先、こちらを見つめるユウリに分かっていると頷き返す。

 このバトルの決着を付けるならば、これ以外にあり得ない。

 右腕に巻いたダイマックスバンドが自身の意思に呼応するかのように輝き、赤い光を放つ。

 赤い光……ダイマックスパワーがボールへと伝わり、ボール自体もまた同じ輝きを放ち始めて。

 

「ピカチュウ!」

「イーブイ!」

 

 ボールを投げた。

 

 

「「キョダイマックス!!!」」

 

 

 




アニポケ見てると『こうそくスピン』がとんでもない強技に見えてくる法則あると思います。
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