絶死ちゃんは冒険者になりたい   作:なら小鹿

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お待たせいたしました。第2話です。
前回、名前だけでていたフォーサイトが今回から登場してきます。絶死ちゃんの活躍にびっくりしていってもらう予定です。





第2話 絶死ちゃん、浮遊都市へ

 

 

 

 漆黒聖典。法国が誇る最強部隊であり、メンバーは全員が英雄の域に達している。

 だから、大抵の要望(わがまま)は通る。

 番外席次であるアンティリーネも例外ではない。それこそ、思い付きで冒険者になりたいと言っても三日で準備を整えてくれる。このミスリルのプレートもそうだ。神官長たちは揃って頭を抱えたらしいが。

 

 ここまでの経緯を思い出していたのはひとえに暇だったからだ。壁にもたれ掛かったまま受付の奥をのぞく。手続きをしにいった受付嬢が戻ってくる気配はまだない。

 

(……この待ち時間、皆なにしてるの?)

 

 いつもならルビクキューの新しい手順を試すところだが、失くしてはいけないと今日は部屋に置いてきてた。

 ラウンジには大勢の冒険者がいる。少し様子を探ろうとした時だ。

 

「おい、そこの紫の全身鎧(フルプレート)のあんた。本当にあのギガント・バジリスクを倒したのか」

 

 いかにも戦士然とした男が声をかけてきた。首から下げているプレートは(ゴールド)。テーブルを囲んでいる他の男たちは冒険者チームのメンバーだろう。

 

「あのモンスターは戦士にとっての天敵だぞ。よく生きて帰って来られたな」

「ええ、それなりに骨のある相手だったわ」

 

 さも当然というようにアンティリーネは返す。

 おいおい随分と余裕だなと好戦的な笑みを浮かべたり、ミスリルのプレートならと納得したりと反応は様々だった。

 

(まぁ、本物は勝てなかったようだけど)

 

 法国の部隊が到着した時、()()()紫紺(しこん)の花』の二人は既に息絶えていた。肉塊になっていた、と表現した方がいいかもしれない。装備していた鎧も回収できる状態ではなかったと聞いている。

 だから、アンティリーネが今身に付けている鎧は法国お抱えの魔法工匠に特注で作らせたものだ。

 

 存在自体が秘匿されているアンティリーネにとって、死んだ冒険者がいるのは好都合だった。

 作戦行動中は魔法の仮面で顔を隠すのが常套手段だが、今回は〈認識置換〉の魔法で容姿から声色まで、相手が知覚するものを本物のそれに置換している。

 鎧や武器は対象外なので、そちらは自前で揃えないといけないが。

 

 しばらくして受付嬢が戻ってきた。

 

「紫紺の花の方々、手続きが済みました。出発はいつにされますか」

「今から出るわ。急いでるの」

 

 ワーカーたちは既に出立している。日数からして到着していても不思議ではない。

 しかし、カウンター越しに受付嬢は困った顔をする。何かまずいことを言ったか。

 

「申し訳ありません。馬車や支援物資の準備もありますので、今すぐというわけには」

 

(ああ、そんなこと。意外に手厚いのね)

 

 モンスター退治の傭兵と聞いて、組合から出るのは依頼達成後の報酬だけとばかり考えていたが、求めれば色々と用意してくれるという。

 とはいえ、法国(うち)のように魔封じの水晶はないらしい。それを聞いて、なぜか少しだけ誇らい気分になった。

 

「早くとも明日の正午までは待っていただくことに……」

 

 さすがにそれはできない。例のワーカーチームは帝国でも上位に入る相手だ。ぐずぐずしていては先を越されてしまう。

 

「それなら問題ないわ。もう準備してあるから」

 

 

 

 仮に八足馬(スレイプニール)でも今から出立してワーカーたちに追い付くのは無理だ。それでも受付嬢を言いくるめることはできた。

 冒険者ギルドを出るなり、アンティリーネは足速に人気のない路地へ入る。

 

(ここなら、問題なさそうね)

 

 両手をにぎって、左右それぞれに指輪があるのを確かめる。ファッションではなく、どちらもれっきとしたマジックアイテムだ。

 アンティリーネ自身、〈転移〉の魔法は使えない。しかし、右手の指輪は〈転移〉の使い手にそちらまで引っ張ってもらえる優れものだ。

 

 エ・ランテルの町に、正午を告げる鐘が鳴る。

 そろそろだ。

 塔を見上げると二度目の鐘が鳴った。そして三度目を聞かずに、アンティリーネはエ・ランテルから姿を消した。

 

 

 

  ●

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国の南方。地平の彼方まで続く砂漠のただ中に、島ひとつ分もある大地が浮かんでいる。

 

 浮遊都市エリュエンティウ

 

 地上二百メートルの高さに白亜の都市が建ち並び、そのさらに上に豪奢な王城が、またしても浮かんでいる。

 城壁には四つの滝があり、その水量は無尽蔵。城下にある都市の水路を常に潤し、そこから流れ落ちた水が下の砂漠に巨大な滝壺を作っている。

 吟遊詩人(バード)たちは遠方から見たその様を、幾つもの滝に支えられた幻の王都と歌ったという。

 

 そんな幻想的な光景の上空に、アンティリーネは転移していた。本来なら都市の一角で合流する手筈だったが、と眉をひそめる。

 

(……転移阻害?)

 

 エリュエンティウには都市と王城を含め、魔法的な結界が張られている。直接結界内に転移しようとして弾かれたのだろう。

 

 もっとも、それを見越して両手に指輪をはめてきたのだが。

 瞬時に左手の指輪が魔力を放出する。右手が転移補助だったのに対し、こちらは一度だけの使い切りではあるが魔法結界を突破してくれる。

 もったいない、とは思わない。力があるなら振るわないと。

 

 ピシリ、と薄氷の割れるような音がする。

 

 景色に亀裂が走り、間髪入れずに轟音が耳をつんざく。こうなると耳がいいのも考えものだ。

 わずかに不快感を抱きながらアンティリーネは白亜の都市へ落下していった。

 

 

 

  ●

 

 

 

 同時刻——

 ワーカーチーム『フォーサイト』は突如現れた敵に苦戦を強いられていた。

 

(くそっ、なにが単なる遺跡調査だ!)

 

 チームのリーダー、ヘッケランは記憶の中の依頼主に毒づく。

 フォーサイトが依頼を受けたのは十日前だった。

 調査対象は砂漠のただ中に浮かぶの古代都市。無人になって数百年は経っている。財宝、それも超級のマジックアイテムがあると噂されるが、真偽のほどは不明ときた。

 

『未知への挑戦っていうのか、こういうの』

『まさに冒険ですね。しかし浮かれすぎはよくありませんよ』

 

 ロバーデイクの言う通りだ。できることなら今から十日前に戻って、そのアホをぶん殴ってやりたい。

 

 今回の依頼でヘッケランが警戒したのは冒険者や他のワーカーとの鉢合わせだ。

 この手の噂は嫌でも耳に入ってくる。財宝を奪い合って同業者と、あるいは独り占めしようとした仲間に。罠は見抜けても人間の心の中までは見抜けない。

 未踏破の遺跡といわれ、ヘッケランは真っ先にそのリスクを推し量った。

 

 地図を広げれば、浮遊都市はちょっとやそっとで行ける場所でないのは一目瞭然だ。となると先客がいればキャンプ跡ですぐ分かる。加えて罠への対策も念入りにしてきた。

 

 危険は先んじて回避できるはずだった。

 

 それが——いざ来てみればどうだ。

 

「はあぁっ!」

 

 両手に握ったカットラスを敵めがけて振り下ろす。武器と防具のぶつかり合う音。腕が痺れるほどの衝撃だった。

 だが、敵は片腕の円盾(ラウンド・シールド)でヘッケランの斬撃を受け流す。こっちは〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉もあるのに傷ひとつ付いていない。

 

「おいおい、ゴーレムってのは皆ああなのか」

「ここにいるのは特別頑丈なようです。全身が大理石、というのは聞いたこともありませんが」

 

 軽口を叩いたヘッケランに、ロバーデイクもいつもの調子で返す。しかし、戦況はかなり不味いものだった。

 

 立派なプレートアーマーの歩兵を、兜の中まで緻密に模したゴーレム。ここが帝国の博物館だったら、じっくり拝みたいぐらいの精巧さだが、観覧している余裕は微塵もない。

 兜のトサカ飾りを抜いても背丈は二メートルに達する。そんな大理石の兵士が二体。しかも防御力はさっき見た通りだ。 

 

「二人とも伏せて!」

 

 叫ぶ声に身を屈める。死角だった所からイミーナが二本の矢を同時に射た。狙いすましたように矢は兜のスリットに吸い込まれる。味方ながら()()()()()。人間どころかオーガですら致命傷だ。

 

 しかし、歩兵型のゴーレムはわずらわしそうな動作で顔に刺さった矢を抜き捨てた。ボロボロと大理石の破片がこぼれ落ちる。ただ、それだけだった。

 二体は何もなかったかのようにヘッケランたちへ迫ってくる。

 

「歩兵型もだが、あっちも厄介だな」

 

 後退しながらヘッケランは背後に陣取った敵を見やる。

 

 そのゴーレムに呼び名を付ける砦型だろうか。

 腕や脚はなく、城と表現していい立派な外壁に巨大な人面が埋まっている。大理石でできているせいで、王族貴族を風刺した彫刻にも見えた。

 

(やっぱり、こっちもダメか)

 

 もしかしたらと希望的観測にすがったが、状況は開戦直後と変わっていない。

 ヘッケランたちが交戦しているのはパレードができるほどの大通りだ。しかし、砦型が自身の左右に展開した〈骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)〉によって道は塞がれている。

 さらにいえば、その壁はフォーサイトというチームを分断してもいた。

 

(無事でいてくれ、アルシェ……)

 

 

 

  ●

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ」

 

 アルシェは全力疾走していた。魔法詠唱者(マジック・キャスター)は距離を詰められれば、それだけで不利になる。

 仲間と分断されたのも痛手だ。逃げれば逃げるほど引き離されていく。だが足を止めることはできない。重々しい響きに反し、足音は着実に近づいてきている。

 

 頭上に鋭い影が差す。身をかわしたのは、ほとんど直感だった。直後、突き出された槍の矛先が石畳を穿った。わずかにだが槍の動きが止まる。

 

(反撃するなら今しか……っ⁉︎)

 

 しかし、アルシェの判断は即座に覆された。

 歩兵型は矛先が刺さったままの槍を横薙ぎに振う。膂力にものをいわせた力業だ。それでもアルシェにとっては不可避の一撃だった。

 

「う、ぐっ!」

 

 槍の柄が脇腹に直撃する。えぐられた石畳の破片と一緒に、アルシェは通りに転がった。肩や腰、胸に背中。打ちつけたところが痛む。

 だがそれも脇腹に比べればかすり傷だ。息をしただけなのに、ズキリと鈍痛が走り、アルシェは顔をしかめる。

 

 間を置かず、またしても頭上に影が差した。

 見下ろしてくる大理石の兵士は意外にも鎧の胸部に女性らしさがあった。ただし温もりは微塵もない。

 

(う、動けない……)

 

 無言のまま歩兵型が槍を構える。あれだけ乱暴に扱っていたのに欠けてすらいない。その切っ先が冷徹に光る。

 

(もう……っ!)

 

 アルシェは目をつむった。

 家に残してきた妹たちの笑顔が頭をよぎる。帰ったら一緒に本を読んであげると約束をしていたのに——

 

 ズドン、と重量感のある音が体の芯にまで響く。

 腕が切り落とされていた。槍を持った大理石の腕だ。

 

(…………え?)

 

 目にしたものを頭が理解しきれない。

 何が、いったい何が起きたのか。痛みすら忘れて、アルシェは周囲に目を走らせる。

 

 片腕を失くした歩兵型が音をたてて崩れ落ちる。

 その手前、敵と自分との間に、陽光を煌めかせる紫の全身鎧(フルプレート)が立っていた。

 

 

 

「——あなたは敵? それとも味方?」

 

 

 

 戦鎌(ウォーサイス)を手にした全身鎧は、少女の声で問うた。

 

 

 

 

 

 




第1話からお読みいただき、ありがとうございます。
また前話から誤字脱字の修正をしてくださった方々ありがとうございます。

浮遊都市は原作では名前と外観、八欲王の都市、あと強めの守護者がいるくらいしか描かれていなかったので、脚色させてもらっています。

ふらっとアインズ様に来られると(原作との齟齬という意味で)非常にまずいです、はい。

第3話は12/3(土)、12/4(日)くらいの投稿を予定しています。
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