絶死ちゃんは冒険者になりたい   作:なら小鹿

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——番外席次“絶死絶命” vs 青ポーション

オバロ二次創作でも初の対戦カード……だと思います。先駆者さんがいたら、むしろスゴいです。






幕間 絶死ちゃん、ポーションの食レポに挑戦する

 

 

「これは?」

「あの時もらった分の埋め合わせだ。受け取ってほしい」

 アンティリーネはアルシェから手渡されたものを揺らす。薬瓶の中には青いポーションが入っている。

 

(……ああ、あの時の)

 

 浮遊都市に転移してきてすぐ、アンティリーネは歩兵型ゴーレムに襲われていたアルシェを助けた。その時——恐らく歩兵型にやられたのだろう——傷を負っていたので、手持ちのポーションを一瓶あげたのだった。

 

「ありがとう。いただくわ」

 

 冒険者は回復に治癒のポーションを用いる。戦闘中に飲んでいる暇はないので、今のような空き時間に回復すると聞いている。

 

(〈重傷治癒(ヘビーリカバー)〉は……ここでは使わない方がいいわね)

 

 王城からの〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉や〈火球(ファイアーボール)〉の遠距離攻撃を飛ばしてくる敵だ。こうしている間も自分たちを監視している可能性がある。手札はまだ伏せておくべきだ。

 再び手の中のポーションに目をやる。

 

(思えば、ポーションなんて随分と飲んでなかったわね)

 

 秘中の秘であるアンティリーネが戦線に呼ばれることは滅多になく、仮に戦闘で負傷したとしても治癒魔法で回復できる。法国は神の血の開発にいそしんでいるが、アンティリーネ個人としてはあまり必要性を感じてはいなかった。

 

 それこそ最後にポーションを飲んだのは……母に訓練された後、だったか。

 あの時はナズルおばちゃんがハチミツを混ぜて、幼い自分にも飲みやすくしてくれていた。

 

(本来はどんな味なのかしら……。それこそ飲めば分かるわね)

 

 どこかで見ているだろう敵に虚偽の情報をつかませるためにも、回復が必要なフリをしておこう。人間離れした姿ばかり見せて、神人だと見破られてもいけないし。

 

 キュポッ、とコルクの栓を抜き、瓶に口を付ける。

 そしてひと口。

 

(……にっが、何これ)

 

 道端に生えている雑草をすり潰した時に出る汁の味がした。もしくは野菜の食べられない部位を、誤って口に入れて思いっきり噛んだような味。

 どっちにしろ、舌の上に残すものではない。

 

 ……ごくり。

 

 喉を鳴らして飲み干す。

 ほんのわずかだが、体力が回復した気がする。

 だが、まだ終わってはいなかった。

 

(うわ、これ後味も……。しかも喉に粉みたいなのが貼り付いて……)

 

 もう一度飲み込もうとして、歯の隙間に残っていた沈殿物をなめてしまった。ぼろっ、と粉の塊が崩れる感覚。舌の上に広がるえぐ味。不覚にも鳥肌が立った。さっきと違うのは何種類もの材料を混ぜ合わせているせいだろう。

 

 ぴゅっ、と口の中のものを吐きだ——しかけてアンティリーネはすぼめた頬を押しとどめる。発射まで2秒を切っていた。

 

(私は法国の切り札。漆黒聖典・番外席次)

 

 だから、ポーションが不味かったぐらいで吐き出したりはしない。

 

「? どうかしたか」

「いえ、何ともないわ」

「そうか。なら残りも今のうちに飲んでおいた方がいい」

「…………」

 

 薬瓶を見る。

 まだ半分ほど中身が残っていた。

 

『ダメージを受けた時に取っておくわ』と体のいい言葉が頭をよぎる。コルクの栓だって捨てていない。脳内に直接悪魔が囁きかけてくる。

 

 だが、それはできない。

 アルシェがが持っていたのなら、このポーションは恐らく帝国産だ。否定材料を探そうとして、ガラス面にレリーフされた帝国の国璽(こくじ)が目に入ってしまった。

 

 アンティリーネは法国の最高戦力だ。

 その自分が帝国産のポーションから逃げたなら、それは法国が帝国を前にして尻尾を巻いて逃げたも同然。敗北するよりも無様だ。

 アンティリーネは薬瓶を握りしめる。

 

(——逃げられないわ)

 

 まだ口の中に後味が残っている。それでも構わない。

 アンティリーネは薬瓶をあおった。一気にポーションを口に流し込んだ瞬間、後悔が押し寄せてくる。底の方にあったからか沈殿物も多い。苦味もさっき以上に濃縮されている。

 

 しかし、あえてその苦汁を味わう。一から十まで、不味さのすべて舌で受け止め、むせ返りそうになるもの我慢して——ひと息に飲み干す。

 

 ……ごくっ。

 

 薬瓶は空になった。しずくの一滴さえ残っていない。

 

(か、勝った……)

 

 辛勝だった。冒険者は依頼の度にこんなものを飲んでいるのか。そう考えることで湧き上がってくる気持ちから意識をそらそうとしたが、できなかった。

 

 アンティリーネは笑みを深くする。

 笑みは便利だ。あたかも余裕があるように相手に見せ、こちらの本心を隠してくれる。アルシェもアンティリーネの表情を見て、どこか嬉しそうにする。

 

「助かったわ。お陰でこの後も問題なく戦えそう」

「そうか、よかった。実は——」

 アルシェは何か話していたが、そこまで耳を傾けている余裕はなかった。

 

(早く口直しがしたい)

 

 無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)は置いてきてしまったし、ここにはコップすらない。ダメ元で〈痛覚鈍化〉の武技を発動したが味覚は鈍化しなかった。

 かくなるうえは——

 アンティリーネは無限魔力を見る。睨んだ、と表現した方がいいかもしれない。

 

「い、いかがされましたか、絶死様」

 同僚が肩を跳ね上がらせる。

 まだ何も言っていないのに、と思ったが今回はいい。早急に本題に入る。

 

「生活魔法に水を生み出すのがあったわよね。あれ、使える?」

「はい、あの程度の魔法ならいくらでも……」

 よかった。これで実は修得していないと言ったら、この場で模擬戦をしていた。

 

「出して」

「…………はい?」

「水、出して」

 

 木枯らしでも吹きそうな沈黙が降りた。

 何を思ったのか、無限魔力は目を合わせないように視線を泳がせている。その顔は汗でびっしょりだった。

 

「あ、もしかして暑かったですか。すぐに涼しくいたしますので、し、しばしお待ちを——」

 他の魔法を発動しようとする無限魔力の手を、アンティリーネは逸脱者ですら回避不能な速度でつかむ。

 涙目の同僚は今にも失禁しそうな顔をしていた。悪いが今は手加減していられない。

「水、出して。あと別に暑くはないから」

「は、はひぃい!」

 

 ——じょぼ、じょぼぼぼぼ。

 

 無限魔力が両の手のひらを合わせると、そこから水が湧き出してきた。びちゃびちゃとこぼれた水が地面を濡らす。今は手を洗ったか確認している時間も惜しい。

 アンティリーネは手からあふれる水に口を付ける。そして思った。

 

 ああ、水っておいしい。 

 

 

 

 

 




絶死ちゃんが勝てなさそうな相手を考えた時、子ども舌でお薬系が苦手だったら、という小話です。
今後も思いつけば幕間で投稿していきたいです。

本編は12月17日(土)、12月18日(日)を予定しています。
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