アインズ様ほどでないにしても、無限魔力っていうくらいだから魔力量も使える位階もスゴいと思うんですよ。
前回と同じくタイトルに「幕間」とあると世界の理がゆがんでギャグ多めになります。
「皆には心配をかけた。すまない」
時間にして三、四十分ほど。分断されていた『フォーサイト』が再集結し、アルシェはメンバー三人に頭を下げる。元々この依頼も、皆がアルシェのために高額な報酬金を見て参加を決めてくれたものだった。
「なに言ってんのよ。そんなに
「はい、イミーナの言う通りです。心配といえば、我らがリーダーは気が気でなかったようでしたが」
「おいおい、よしてくれよ」
ロバーデイクに目を向けられ、ヘッケランは誤魔化すように苦笑いを浮かべる。
「まぁ、何はともあれ、こうして『フォーサイト』が再び集まれたんだ。よしとしようじゃないか。でだ——アルシェ、魔力の方は大丈夫か」
ヘッケランはチームのリーダーとしての顔になる。
「問題ない。それより皆は」
合流するまでの道中——壁を突き破って進む間も含め——アルシェは浮遊都市で出会った紫の
したことといえば『あなたのそれ、顔にかかるから持ってて』と言われ、邪魔にならないようマントをつかんでいたぐらいだ。
だから、魔力どころか体力の消耗もほとんどない。
(しかし、ヘッケランたちは……)
こちらへ落ちた雷撃や火球を思い出す。あれは間違いなく魔法攻撃だった。それに分断される前には歩兵型が二体いた。
無傷でいられる状況ではなかったはず。
「安心しろ。あそこの美人……あ、いや、天才
なぜ言い直したのだ。それにイミーナの視線が心なしか鋭い気がする。
あそこにいるだろ、とヘッケランは親指を立てて背後を示す。
その女は気怠げな態度でアルシェの方に首を向けた。
(あの人が。確かに格好は魔法詠唱者だが……)
三角帽子はよれよれ。紺のローブはダボっとしていて、強さよりだらしなさを感じさせる。何より
(…………)
半信半疑でアルシェは
虹色のオーラが見えた。燃え上がるような光はあくまで視覚情報でしかないのに、暴風級の衝撃となって襲いかかってきた。少なくともアルシェにはそう感じられた。
信じがたいほどのオーラを目の当たりにして、アルシェは——
「うっ……ゔぉえっ!」
リスのような顔になった。咄嗟に両手を口にもっていく。リスは少し美化しすぎた。他人からすれば今の自分は水を口いっぱいに含んだフグだろう。
「……人の顔を見て吐きかけるんじゃないわよ。で、その眼はなに。魔眼、それとも義眼のマジックアイテム?」
(み、見抜かれた⁉︎ 私のタレントが)
魔力量だけでも、この女はアルシェを大幅に上回る。第四位階どころか第五位階まで行使できると見て間違いない。
こんな経験は、かのフールーダ・パラダインと会った時以来だ。
帝国の魔法学院に入学した際、かの大魔法詠唱者を目の当たりにしたアルシェは今と同じリス——あるいはフグ——のような顔になった。フールーダが直々に魔法で洗面器をクリエイトしてくれた時は感激で心臓が止まるかと思った。
……ごくっ。
「ふはぁ……はぁ」
危なかった。
昼食のポリッジを胃の中へ押し戻し、アルシェは再び女性魔法詠唱者に向き直る。
あの気怠げな見た目は
(いつの日か、第四位階に至るため)
弟子にしてほしい、と願い出ようとした時——
「お、お待ちしておりました、
師匠が紫の全身鎧にすり寄った。しかも揉み手までしている。
(…………え?)
これは、高度な幻術の類か。
魔法の中には相手の認識を別のものにすり替える〈認識置換〉というものがあると聞く。もしかして、自分は今それに引っかかっているのではないか。
アルシェは生まれて初めて現実を疑った。
「なに、さっきまで私の陰口でも言ってた?」
「滅相もありません。武勇伝は語っても陰口なんて
師匠はこれでもかと下手にでる。うちに来るような、上っ面だけで媚びる商人の比ではない。
あれは本物の媚びだ。
何でもしますので、許してくださると嬉しいです——と言い出したところで、アルシェは思う。
(あれほどの魔法詠唱者がかしずくのなら、もしかして……)
紫の全身鎧は、実はさらに格上の大魔法詠唱者ではないのか。
見た目は完全に戦士職。だが人は見かけによらないと、つい先ほど教えられたばかりだ。
次は嘔吐しないよう注意しつつ、アルシェは再びタレントを発動する。
ぶわっと鎧姿の背に、虹色のオーラが立ち昇る。
(す、すごい……!)
戦士でありながらアルシェを上回るオーラ。正確な位階までは見分けられないのは魔力系以外——信仰系か精神系。全身鎧を着ているなら神官戦士だろうか。例えば『蒼の薔薇』には女性の神官戦士がいると噂で聞いたことがある。
(だが、第五位階の魔法詠唱者が仕えるには……いや、このオーラも十分すぎる領域)
とはいえ、紫の全身鎧から発せられるオーラは明らかに女性魔法詠唱者のそれと比べて小さい。行使できる魔法の位階も低いはず。
そこでアルシェは閃めく。
(能ある鷹は爪を隠す……なるほど、そうか)
〈認識置換〉の魔法で実力をあえて低くみせている。そうに違いない。もしこれで嘔吐したアルシェを気遣い、咄嗟に本来の力を隠したのだとしたら、いくら頭を下げても足りない。
いずれにせよ、言うべきことは決まっている。
アルシェは紫の全身鎧の前へ行く。背筋を伸ばし、そして——
●
「どうか、あなたの弟子にしてほしい」
腰を直角に曲げて頭を下げてくるアルシェに、アンティリーネは眉をハの字にする。
(弟子? なんの?)
アルシェとは出会ってまだ三十分と経っていない。自分が弟子入りを志願される理由など、とそこまで考えて手元に目を落とす。
(もしかして……これ?)
両手ににぎったハルバード。冷気を放つ斧の刃が仰々しく光っている。
実はここまでの道中でも歩兵型に遭遇し、急いでいたアンティリーネは身の丈以上もあるハルバードで敵を瞬殺していた。
(でも、あなた魔法詠唱者でしょ)
杖を持つ腕はまだ細く、両手でもハルバードを扱えるとは思えない。
こんな大振りな武器を持てばチームメンバーから過保護な視線を向けられるに違いない。想像してみたが、脳内イメージで既に危なっかしかった。
チームといえば『フォーサイト』のリーダーは二刀流の使い手だ。もしかして影響されたのはそこからでは、とフォーサイトの面々を見る。
『いや、俺は知らないぞ』
『私もよ』
『同じく。心当たりはありません』
ヘッケラン、イミーナー、ロバーデイクの三人が目で語ってくる。
(となると、残るは——)
何か吹き込んだ、とアンティリーネは無限魔力を見る。
『……!』
ぶんぶんぶんぶん。風切り音が聞こえるほど首を振られた。別にそそのかしていても怒りはしないのに。
「そう。とりあえず、頭をあげてくれない?」
「はいっ」
きびきびした動作でアルシェは気を付けをする。
溜め息が出そうになる。これでは模擬戦でボコった漆黒聖典たちと同じではないか。どうして自分の周りには、こういうのしかいないのだ。
「ごめんなさいね。残念だけど、あなたを弟子にすることはできないわ」
「そこを何とか。鎧磨きからでも構わない。だから頼む」
またしても頭を下げるアルシェ。薄っすらと予想はしていたが、一言一句違わず的中すると、もはや作為を疑ってしまう。
実は今の装備になった際に『えへへ、鎧磨きもしておきました』と媚びてきたのがいた。
やっぱり何か吹き込んだでしょ、と無限魔力を見る。
また、ぶんぶんと首を振られた。そろそろ首の骨が心配だ。
「はぁ……、あなたたちも何とか言ってくれない?」
魔法詠唱者としては優秀そうだし、チームとしては手放したくないはず。そう考えていたアンティリーネだったが。
「そうか、アルシェとも遂に……。いや、悲しい顔をするのは良くないな。よし、散々助けてもらっておいて言うのもなんだが、アルシェをよろしく頼むぞ」
「ありがとう、ヘッケラン」
(え?)
いやーな予感がする。アンティリーネはあわてて他のチームメンバーを振り返った。
「妹みたいに思ってたけど、将来のことにまで口出しべきじゃないわね。向こうに行っても頑張るのよ」
「イミーナ。週末には必ず手紙を書く」
(そこ、勝手に感動の別れをしない。私は里親か何かなの?)
子どもは自分より強い男との間で、と決めているのに。
「私は神官なので信仰系魔法なら教えられたのですが。アルシェは魔力系ですからね。同じ系統の方となら話も合うでしょう」
(いや、私も信仰系なんだけど? 言っとくけど〈
修得している魔法の数ならアルシェの方が多いまである。いや絶対そうだ。
しかし、フォーサイトのメンバーによるアンティリーネ包囲網は着実に狭まりつつある。さすがは帝国屈指のワーカーチーム。こんなところで自慢のチームワークを発揮しないでもらいたい。
ちなみに、こっちのチームメイトは首振り人形と化している。
「ねぇ待って。聞いてほしいのだけど」
「覚悟はできている。何でも言ってほしい、師匠」
誰が師匠か。弟子はとらないと決めているのに。
この後、誤解を解くのに三十分かかった。
アルシェは早熟の天才であれ以上の成長は見込めないそうですが、多分本人は真面目に魔法の訓練しそう、という小話です。
後半はフォーサイトがいらんチームワークを発揮しています。
本編は12月24日(土)、12月25日(日)に投稿予定です。