【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第7節「シリウス人の美とは人工調味料の類か?」

 方面軍総司令官ノイエ・シュタウフェン公爵閣下の命で、生活に困窮する人民への配給事業が開始されたのだが、財務省から派遣されてきた担当官と最近知り会って、食事を共にする機会があったのだが、彼の愚痴が酷くて、食事の味がまともに分からなかったな。

 

 彼の話によると、比較的富裕層に属していたシリウス人の多くは、配給を販売だと思っているらしく、盛んに電子端末を振り上げて、金ならここにあるぞ、儂の口座にはこれだけの金が預金されているのだ、この口座情報を見てみろ!だから、ここにある食料を全部、儂に売ってくれ!と喚き散らして、配給の順番を守らないのだとか。滅亡した国の金に、何の価値があるのだろうか?まして、電子頭脳中のデータでしかない預金情報など、運営側の都合でどうにでも改竄されるだろうに。それを絶対的に信じられる心性が私には信じられない。大帝陛下が喝破された如く、生命を繋ぐのは金ではなく食料なのだ。そんな常識さえも忘却したから、シリウスは滅亡したのだろうな。

 

 しかし、シリウスの首都ロンドリーナとは、どうにも好きになれない都市だ。人工物だらけで、全てが人為、娯楽や癒しさえも作り物を喜ぶ感性は全く理解できない。テーマパークとかいう遊興施設に行ってみたが、騒音が激しく、何が面白いのか理解できないどころか、その場にいる事さえ苦痛だった。イルミネーションと云うそうだが、健やかに育っている木々に、爛々と光る電飾を巻き付け、ロマンティックと称する感性は、人間として重要な何かが欠落しているのではないかと、深刻に懐疑せざるを得ない。熱と光が木々を傷つける事に思いを致す事はないのだろうか?

 

 とは言え、私は人工の美を全く否定する者ではない。熟練の職人が長期間に亘り、精魂を傾けて作り上げた工芸品や、天才的な発想と感性の持ち主が生み出した独創的な美術品、そして、人工の美の極致となるだろう新無憂宮など、我が帝国にも人為によって生み出された美は多々ある。

 

 だが、それは人類の長い歴史によって裏打ちされた美意識に基づくものであり、五感を占拠するかの如き、暴力的な刺激によって生み出された、即物的、いや動物的な快楽による美ではない。私には、シリウス人の喜ぶ美とは、後者でしかないように思えてならない。勿論、これは偏見なのだろう。ロンドリーナ占領時、我が帝国地上軍が接収した、この国の美術館や博物館には、私の審美眼を満たしてくれる、嘆賞に値する作品や遺物も存在したのだから。

 

 想像するに、いわゆる商業主義に毒されると、深遠な美意識に基づいた作品などは弊履も同然で、品性下劣で知性劣弱な大衆という名の愚者にも理解できる、動物的な美―私はそれを美と呼びたくはないが、便宜上、この言葉を用いる-が社会を席巻するのだろう。人工の調味料が齎す強烈な刺激に慣らされ過ぎて、素材そのものの繊細な風味が味わえなくなる類か。

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