【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第10節 皇族の日常生活⑤~皇子達への教育【指導方法】

 各種教科の指導方法だが、まず基本的な知識の記憶から開始された。これは「学問の体系を一軒の家に例えるならば、その学問を構成する基本的な知識は、家の土台にも等しい」というルドルフの学問観に基づくもので、例えば帝国語の辞書や初学者向けの学問事典は、暗唱できるほど習熟する事が望ましいとされた。そのため、初等段階(6~12歳ごろ)は、教授が選定した辞書や事典、教科書の朗読と筆記を集中的に行い、内容の記憶に努めた。教授達は生徒の記憶状況を勘案して、適宜、その内容を解説していった。

 

 知識の習得と並行して、文章の読解力と計算能力の指導が行われた。文章は古今の名著が選ばれ、教授は生徒に一般的な解釈をまず教え、続いて異なる解釈も成立する事が説明された。これは、人間社会の多様性を教え、物事の考え方、捉え方は一面的であってはならない、とのノイエ・シュタウフェン公の考えに基づくと云う。

 また、計算能力は習うより慣れろと、例題の解法を教授されたら、後は類似問題の演習に終始した。

 

 教育内容が中等段階(12~18歳ごろ)に達したら、論理的な思考能力と創造性を育むため、教授が特定のテーマを設定し、学友(詳しくは第12節を参照)達とのディベート(議論)を盛んに行わせると共に、その内容をレポートにまとめて客観視する事、そして自説を証明する論文を執筆する事が教育内容の中心になってくる。

 

 言語を操り、事象を過不足無く表現し、自説を論理的に展開し、他者を説得する事は、皇帝として、数多の臣下に対して、自身の政策を指示する上で必須の能力だと見なされ、皇太子には特に厳しく指導された。後世、旧帝国の皇帝は理も非もなく、自らの意思を臣下に強制していたと言われる事が多く、確かにそのような人物も少なくなかったが、名君・賢君と称えられた皇帝は、御前会議を頻繁に開催し、臣下との対話を重視していた。それは、この少年時代に受けた教育が基になっていると言えるだろう。

 

 なお、設定されるテーマは、当時の帝国が直面する政策課題、政府や軍組織の現状と改革点、経済状況の現況と今後取るべき方針など、極めて同時代的な内容が選ばれた。そのため、この段階に至ると、知識の習得は学問的な内容だけにとどまらず、現実政治や行政などに関する内容も要求されるようになり、覚えるべき知識量は増加の一途を辿るのが常だった。

 

 この時点で教授内容に付いていけなくなる者も現れ始め、理解力が著しく劣ると判断された生徒は、容赦なく皇太子の学友から外された。また、皇太子自身が悪い評価を得ると、帝位継承者に相応しくないのではないかと見なされ、父帝の意向によっては、廃嫡される事も無しとは言えなかった。逆に、帝位を狙う異母兄弟(寵姫の息子)などは、自身が皇太子以上の評価を受ければ、立太子される可能性もゼロではないので、教育を通じた帝位継承レースが始まる事もよくあった。

 

 その結果、皇太子と学友達の成績は、当人以上に周囲の大人、母親たる皇后や寵姫、さらにはその実家の当主らの方が敏感だった。彼らにとっては、自身の血を引く者達の評価は、自分達への評価に直結しかねず、それは自身や自家の浮沈に関わるからだ。彼らは、自分達の子や孫が悪い評価を得る事が無いよう、そして周囲の学友よりも良い成績が取れるよう、必死の勉学を強制した。

 地球時代、自身の子供が将来、少しでも良い人生を送れるようにするため、幼少期から勉学を強制し、有名校への進学と有力企業への就職を強いた親がいたとも伝えられるが、時代が変わっても、人間のやる事には大きな変化は無いという事なのかもしれない。

 

 この段階をクリアして、高等段階(18~20歳ごろ)に至ると、教授から一方的に指導されるという形ではなく、将来就くべき職業を実際に行う、現任訓練が中心となる。皇太子であれば、父帝の政務秘書官となり、皇帝の業務を実際に体験する事になる。

 他の皇族男子も、自身の志望する職場、例えば国務省や財務省、内務省などの有力省庁、軍務省や統帥本部等の軍組織、さらには皇帝直轄領を治める総督府など、それぞれの職場で実際にポストを与えられて、上司の指導を受けつつ、実務を処理していった。この段階に至ると、すでに教育という内容ではなくなり、研修先の職場に正式採用されて、そのまま働く事も珍しくなかったが、中にはより専門性の高い学問を修めたいと、国立大学に進学、卒業した後、就職する者もいた。

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