【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
続いて、ノイマン侯爵家の行く末だが、家祖アルベルトが夢想した繁栄は、一瞬の儚い幻影でしかなかった。末子ギルベルトと皇妹テレーゼが婚約、これで自分を嫌悪、排斥したノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムに代わり、自らが帝国最大の権力者になれると、野望を滾らせていたアルベルトだったが、帝国暦55年、ヨアヒムの死に先立ち、自邸内で泥酔した結果、階段から足を踏み外して転落、頚椎骨折と脳挫傷により死去している。
一説には、自分の死後、アルベルトが台頭し、息子ジギスムントの親政を阻害しかねない事を嫌ったノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムがノイマン侯爵家の使用人を密かに買収、主人を泥酔させて階段から突き落とさせたのだ、または、暴力的な性癖の持ち主だったアルベルトは、女性の首を絞めながらの性行為を好んでおり、絞殺される事を恐れた愛人の1人が、言葉巧みに強い酒を勧めて泥酔させると、寝室へと通じる階段に空の酒瓶をそっと転がしておいたのだ、などの風聞が当時の貴族社会に流れたが、真相は不明である。
自分が死ぬ事など考えてもいなかっただろうアルベルトは、当然ながら遺言など残しておらず、後継者を定める当主代行の権限を持ちえる正妻ドロテーアは既に亡く、そのため、侯爵位は皇帝ジギスムントの裁定で、嫡出の長子ハインリッヒが継承する事になった。
だが、嫡出子、庶子を合わせれば、十数人にも及ぶ息子達は、父親譲りの粗暴で傲岸な性格の持ち主が多く、ハインリッヒの爵位継承に反発。彼らは密かに領地のリューゲン星系に戻ると、それぞれ私兵を集め、新当主として領地を訪れたハインリッヒを襲撃、遺体が人間の形を留めないまでに惨殺すると、今後は互いに領主の地位を巡って、武力抗争を始める有様だった。
当時、皇帝ジギスムントの勅命で、重臣ビューロー大将が旧攻守連合領の再平定戦を遂行中だった。リューゲン星系での騒乱が再平定戦に悪影響を与える事を懸念した同帝は、貴族の不品行や不行跡を嫌悪する為人だった事もあり、遠征中のビューロー大将に即時鎮圧を下命、騒乱を起こしたアルベルトの遺児達は全員、拘束して、生かしたまま帝都オーディンに連行せよと厳命した。
ビューロー大将の麾下、ザウケン少将が指揮する艦隊が派遣されると、救いがたい事に、遺児達は自分が父親の後継者に選ばれるため、先を争ってザウケン少将に連絡。自分は皇帝陛下と帝国に忠誠を誓う者である、他の者達は旧攻守連合の残党どもと通謀して、陛下への反逆を企図している、陛下の忠臣たる自分はそれを座視できず、反逆者どもを討伐すべく義兵を挙げたのである、是非、自分に援軍願いたいと、まるで判で押したかのように、全員がほぼ同じ口上を繰り返したと云う。
ザウケンから報告を受けた遠征軍総司令官ビューロー大将は、遺児達の醜態に失笑を禁じ得なかったと想像されるが、優れた戦略家でもあった同大将は、これは各個撃破の好機であると考えたのだろう、ザウケンに指示して、全員に承諾したとの回答を送らせると、援軍の第一陣との名目で、艦隊所属の装甲擲弾兵部隊を派遣、遺児達全員を拘束してしまった。
帝都に連行された遺児達に向かい、皇帝ジギスムントは「卿らに割く時間は余には貴重すぎる。皇帝たる余の勅命に従わぬばかりか、兄弟の情愛も忘れ、一身の欲望を満たすためだけに、互いに争闘を繰り返し、我が帝国軍の遠征を妨げ、あまつさえ無辜の臣民を無用に殺傷するなど言語道断!貴様らの如き愚者が生存できる場など、この銀河帝国の何処にも無い!天上(ヴァルハラ)に赴き、父親ともども、先帝陛下にお詫び申し上げよ!」と激語。全員を銃殺刑に処した上、妹テレーゼの婿になった末子ギルベルトを除いて族滅、絶家とした。
ただし、ビューロー大将の麾下に属し、再平定戦に従軍している同侯爵家の縁者や従臣らは、領地での騒乱に関与していない事が明白であるとして、不問に付している。これは、再平定戦の遂行に支障が出る事を恐れた皇帝ジギスムントの意向だと思われるが、或いは義弟ギルベルトから、密かな助命嘆願があったのかもしれない。以降、旧帝国の滅亡に至るまで、同侯爵家の家名が復活する事は無かった。