【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第2節 ノイエ・シュタウフェン公の政治的業績

 さて、軍人政治家ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムの政治的業績だが、前節末の宣言とは、早速矛盾すると思われるかもしれない。実は、筆者の見解では、軍事上の功績と比して、同公の政治的業績に特筆すべきものは無い。だが、それこそ同公が守成の人たる証左だとも考えている。

 

 建国者ルドルフ大帝の治世末期、具体的には、同帝の体調不良が著しく、政務遂行に支障をきたしたため、後継者ジギスムントが摂政皇太孫に就任した頃から、ジギスムントの父親ノイエ・シュタウフェン公は軍務尚書のまま、国務尚書を兼任し、国政の主導権を握っている。

 しかし、例え病床に臥しているとは言え、今上帝ルドルフが厳然として在位している以上、その方針に逆らう政治を行う事は出来なかった、この時期のノイエ・シュタウフェン公、そして摂政皇太孫ジギスムントの施策は、ルドルフが創始した各種制度―例えば配給制度など-の完全かつ円滑な遂行を目指し、それを阻害する要因を1つずつ取り除く、という手法に終始している。

 

 だが、この親子2人の姿勢は、ルドルフ崩御後、ジギスムント即位後も、一貫して継続されているのだ。ジギスムントが開始した拡大戦役、即ち敵対諸国の討滅戦も、先帝ルドルフが自身の死後を見据えて、後継者ジギスムントと後見人ノイエ・シュタウフェン公に実行を指示した、密かな構想だった可能性がある事は、既に前巻で指摘している。そして、その拡大戦役でも、敵国人民を農奴として確保する事が主要目的に定められているが、これも先帝ルドルフが創始した配給制度の完全実施を目指すための方途、との側面が強かった。

 

 つまり、政治家としてのジギスムント、そしてノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムは、建国者ルドルフが創始した銀河帝国という国体を継承し、その長所を伸ばし、短所を改め、綱紀を粛正して国家組織を活性化させ、敵対国家及び共和主義勢力を鎮圧して帝権と臣民を守り、強大な指導力を発揮して、揺るぎない集権的統一体制を維持する事を目指しており、なおかつ、それに成功した為政者だったと言える。

 

 そこには、先帝ルドルフが持っていたような、創造性に溢れた政治構想などは必要なかった。彼らに必要だったのは、ルドルフが構想し、策定した通りに、銀河帝国を動かしていける官僚的緻密さだった。故に、その治世は、外見的には平々凡々たるもの、十年一日の如き様相を呈さざるを得なかった。だが、それこそ彼ら2人が目指したもので、また目指すべきものであった。

 ノイエ・シュタウフェン公は帝国宰相就任後、初代国務尚書ハーン伯ヘルマンを自身の範としたい、と側近らに語っているが、同伯は前巻の評伝で述べた通り、卓越した調整型政治家で、ルドルフ以下、他の尚書達が、全人類社会を専制的に統治する銀河帝国という新国家の建設事業に邁進できるよう、巧みに人間関係と利害関係を調整しつづけ、帝国政界、また貴族社会に動揺や混乱を惹起させなかった人物だった。この一事からしても、ノイエ・シュタウフェン公が自身の立場と責務をどう考えていたのか、明確に看取できると言えよう。

 

 だが、この点を以て、同公は先帝ルドルフの構想や政策をただ墨守するだけの人物だった、と断じる事は正しくない。当時、共和主義勢力の多くは社会秩序維持局の密かな監視下に置かれて、敵対国家も辺境域で余喘を保つのみ、銀河帝国の支配は安定化しつつあったが、外敵の喪失は、帝国貴族や軍人、官僚たちの間から、共通目標の為に邁進する事の必要性を失わせ、それは必然的に内部抗争の深刻化、という形となって現れた。

 その1つが、ノイエ・シュタウフェン公が領袖を務めるシュタウフェン派に対して、先帝ルドルフの長女カタリナを盟主とする反シュタウフェン派が画策したクーデター未遂事件だったと言えるが、同公は先帝ルドルフが見込んだ通り、強力な指導力を発揮して自派閥を完全に掌握。反対派の策謀を未然に防ぎ、ルドルフ崩御による政治的混乱を最小限に留めて、皇太孫ジギスムントによる円滑な帝位継承を成し遂げた。

 同公の本領は、入念な情報収集に基づき、敵対勢力の先手を打ち、具体的な事件発生前に処理できる危機管理能力だった。それもまた、守成の人たるに相応しい能力の1つだと言えるだろう。

 

 また、責任ある為政者ならば、自身の死後を想定し、後継者の育成を考えない者はいないだろう。先帝ルドルフは将にそのような為政者だったが、この点はノイエ・シュタウフェン公も同様だった。

 次代皇帝たる事を義務付けられた息子ジギスムントに「対等の友人を与えてやりたい」と、同年代の皇族・貴族子弟を集めて、互いに切磋琢磨させる学友制度は、同公の発議によって創設されており、ジギスムントが学友達と比較されて、帝位継承者に相応しくないのではと、皇太孫を廃嫡される可能性を危惧する妻カタリナが制度の中止を訴えても、頑として受けつけず、ジギスムントが成人し、教育期間が終了するまで、同制度を実施させている。

 その結果、本人の資質もあるが、皇帝ジギスムントは自然にリーダーシップを発揮できる人物に成長、学友たちは同帝を補佐する腹心、重臣となっている。また、少年期に他者と切磋琢磨して過ごした経験は、ジギスムントを自己客観視の出来る思慮深い為政者へと育てる貴重な糧となった。

 

 主観的には、息子ジギスムントを深く愛していた母カタリナだが、市井の男子ではない、帝国皇帝という公人中の公人に息子を育てねばならない事を自覚し、学友制度を創設して、それを貫徹した父ヨアヒムの方に、この「子育て議論」の軍配は上がるだろう。

 また、この父親は、自身が領袖を務める派閥・シュタウフェン派の暴走を敢えて看過し、それを危惧した息子が皇帝権の確立を図ろうと、自前の政治勢力を構築し、最終的には自分自身を権力の座から追放する事も予測して、我が子の政治的「親離れ」を促してさえいる。私見だが、ゴールデンバウム朝の歴代諸帝の中でも、名君の1人として称えられる強堅帝ジギスムント1世を育て上げた事、これこそノイエ・シュタウフェン公が果たした、最大の政治的業績ではないかと思っている。

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