【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

120 / 147
第16章 皇帝ジギスムントの政治②~治安維持体制の大再編
第1節 ルドルフ時代の治安維持体制


 建国者ルドルフは、連邦首相時代より、「人民(臣民)の生存と安寧」を政治の果たすべき役割としていたが、この姿勢は皇帝即位後も変化していない。この政策の二本柱を実行するために、連邦では雇用確保と治安維持を掲げ、帝国では統制経済の導入と配給制度の実施、そして、共和主義者ら反帝国勢力の討滅と社会秩序維持局に代表される治安維持組織の拡充を実施している。

 

 建国当初は、辺境域に位置する敵対国家も未だ強盛で、彼らの支援を受けた、帝国領内の共和主義者ら反帝国勢力の活動も盛んだった。内務尚書ファルストロングや司法尚書キールマンゼクら、帝国の重臣も共和主義者のテロによって非業の死を遂げている事からして、彼らの勢力は決して侮れないものだった事が分かる。

 

 治安維持を帝政の最重要課題とした皇帝ルドルフは、反帝国勢力の逮捕、撲滅を任務とする内務省公安局を拡充、国内軍的な性格を強化した社会秩序維持局に昇格させた事は周知の通りだが、これと並び、ルドルフは帝国領内の治安維持を徹底させるため、皇帝直轄領・貴族領とを問わず、帝国全土に内務省警察局が所管する治安警察組織の設置を断行した。

 

 前巻でも触れたが、旧帝国の警察機構は、星系首都(州都)―惑星首都(郡都)―惑星内の自治体(町)で系列化されており、それぞれに警察本署―警察分署―派出所が置かれた。これは貴族領も同様で、臣民が暮らす惑星・衛星・人工天体には、必ず警察組織が配置された。

 

 臣民に擬態したテロリストやゲリラが領内各地で蠢動、また貴族制度も成立直後とあって、領主らの支配体制が確立していなかった当時、内務省が直轄する強力な警察組織を帝国全土に張り巡らせる事は、確かに効率的かつ効果的な治安維持に繋がった。

 

 しかし、旧帝国には警察局以外にも、社会秩序維持局や憲兵隊など、治安維持を任務とする組織が存在し、彼らとの役割分担、責任の所在を巡って、現場レベルでは混乱と対立が起こる例もあった。

 特に、皇帝ルドルフの勅命によって創設された社会秩序維持局は、連邦政府や連邦軍から横滑りした警察局・憲兵隊よりも優越するとの意識が強く、本局の威光を笠に、警察官や憲兵隊員に対して、横柄な態度を取る同局職員も多かった。建国期の荒々しい気風にも助長されて、感情の縺れから殺人事件さえも起こっており、円滑な行政執行を阻害していると、司法省監察局から屡々、内務省と軍務省に対し、是正勧告が出されている。

 

 さらに、平定戦役が進展し、領内の反帝国勢力も撲滅されていった、皇帝ルドルフの治世末期に至ると、帝国各地の領主貴族も、自領の支配体制を確立させていった。各家は自領防衛のため、その規模に応じて私兵や警備員を雇用、独自の防衛・治安組織を創設した。

 彼らは、貴族領の統治は各領主の専権事項であり、帝国皇帝と雖も、特段の理由なく、その施政方針に容喙する事は出来ないと定められた貴族法の条文を盾に取って、自己の行為を正当化したが、その実、農奴の配分数が予定よりも縮小された事などから、帝国政府に不信感を抱いていた領主らは、自領に駐在する警察局や社会秩序維持局の職員を決して信用しておらず、むしろ自家の粗探しをする密偵だと半ば敵視する者も少なくはなかった。領主たちの意識がこうである以上、貴族領の防衛・治安維持部隊と、内務省派遣の警察官・社会秩序維持局職員とが相容れない存在になる事は、自然の流れであった。

 

 内務省や軍務省、帝国軍からは、内乱防止のため、各地の領主らに過度の軍事力・警察力を持たせるべきではない、という意見もあったが、有力な領主貴族で構成される枢密院は反対の論陣を張り、その職責上、枢密院とは円滑な関係を維持したい国務省が同調。また、平定戦役終結を見据えて、財政健全化の観点から、戦後の軍縮を政治日程に乗せたい財務省の思惑も絡み、絶対的権力者たる皇帝ルドルフが体調不良のため、政務を十全に遂行できないとの事情もあって、議論百出、容易に結論が出ない難題となっていた。

 

 先帝ルドルフの摂政皇太孫を務めたジギスムントは、自身がルドルフの政務秘書官として、領内各地に出張、現地を統治する総督や領主と親しく言葉を交わしていた経験も手伝い、これらの事情を熟知していた。だが、治安維持体制の堅持に拘り、枢密院を「領主らの増長の産物」と否定していた皇帝ルドルフが在位している以上、問題の根本的な解決は自身が皇帝となり、親政を開始する時まで待たねばならないと、当時のジギスムントは見切っていたのだろう。この時期、ジギスムントが領内の治安維持体制について、特段の発言をした記録は残っていない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。