【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
帝国暦52年、敵対国家を全て討滅した事を宣言する戦勝記念式典を挙行、同55年、父親で後見人たるノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムが死去、さらに同59年、自身の腹心たるビューロー大将を総司令官に起用して敢行した、旧攻守連合領への再平定戦も帝国軍の圧倒的勝利に終わると、皇帝権の確立を達成し、名実ともに親政を開始した皇帝ジギスムントは、まさに満を持して、先帝以来の課題である、治安維持体制の大再編を断行している。
この時、皇帝ジギスムントが行った治安維持体制の再編成は、同帝が腹心たる軍務尚書ビューロー大将と共に遂行した帝国軍の軍縮と並んで、対同盟戦争を終結させた現ローエングラム朝の施策に資する面が大であると見なされ、軍務省・学芸省が共同設置した旧軍戦史編纂所で盛んに研究されている。以下、同所での研究成果に基づき、再編成事業の内実を概説したい。
まず、この再編成事業の目的が那辺にあったのかを明確にしておきたい。帝国暦60年、皇帝ジギスムントが発した勅令、俗に言われる「治安維持体制再編令」の全文を引用する。
今、全宇宙の現況を鑑みるに、銀河帝国の支配に服さぬ諸国家は既に亡く、民主共和主義との過てる思想を盲信する逆賊も根絶され、全人類の支配者にして全宇宙の統治者たる銀河帝国皇帝の御稜威に服さぬ者はおらず、全臣民は帝国皇帝の優渥なる恩寵の下、その生存と安寧を保障されて、君臣の秩序を守り、各々生業に励み、その生を充実させている事、全人類が有史以来希求した、恒久平和への光輝ある道を拓く、真の慶事と言えり。
銀河帝国皇帝たる余ジギスムントは、茲に治安維持を任とする諸司の原隊帰任を命じる。嘗て偉大なる先帝陛下は、逆賊らの跳梁が無辜の臣民を害する事を憂慮され、領内に遍く、治安維持を司る軍務・内務両省の諸司を配せり。狂猛なる逆賊が未だ強盛を恣にしていた先帝陛下の御代なれば、時宜を得た施策であれども、既に逆賊は討滅せられ、今や我が帝国は君臣ともに太平を迎えつつあらん。
万物は流転し、生者は必滅す、此れ人類史の根本法則なり。偉大なる先帝陛下すら、その理から逃れる事能わず。況やその施策に於いてをや。先帝陛下が常に念願するは、臣民の生存と安寧の守護なり。後継者たる余ジギスムントは、その根本精神を体し、より時宜に即した施策を断行せん。
既にして我が帝国の基は安固たる事、その論を俟たず。現況を慮るに、領内に遍く、軍務・内務両省の諸司を配する事は、帝国財政への過重な負荷であり、有能かつ忠勇な人材の浪費であり、なおかつ家郷を遠く離れ、数千光年先の異郷で独居する諸司らの心境を察するに、憐憫の情を抱かざるを得ぬものなり。
故に、原隊を離れ、遠き赴任地で勤務する諸司らは、悉く帰任を命じる。然る後、卿らの志望を容れ、家郷を請う者には退役を、更なる任務を求める者には新しき任地を与えん。さらに、忠勤の恩賞として領地を下賜された貴族達、卿らには特に申し渡す。自今以降、領内に住まう領民の生存と安寧を守護するは、偏に卿ら領主の責務である事、再々銘記せよ。此れ大帝陛下の負託に応える唯一の道と知れ。
茲に、銀河帝国皇帝たる余ジギスムントが特に命じるものである。卿ら拳拳服膺し、決して余が意志に違う事勿れ。