【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

127 / 147
第4節 政治家アルフォンス・フォン・ノイラート①~生い立ちと少年時代

 アルフォンス・フォン・ノイラートは帝国暦20年、初代宮内尚書ノイラート侯マルクスの嫡孫として誕生、後に三代目のノイラート侯爵となっている。

 

 帝国暦24年、長姉アデルハイドが皇太孫ジギスムントの許嫁に選ばれた事で、幼少期からジギスムントの遊び相手を務め、学齢期に至ると、ジギスムントの従弟アンドレアスらと共に、学友の一人となっている。

 

 性格は良く言えば真面目、悪く言えば小心で、親や教師に叱責される事をひどく恐れ、規則に外れる行為を決してしようとはせず、勉学には真摯に取り組んだが、その反面、スポーツや野外活動は苦手、暇さえあれば部屋の中で書物ばかり読んでいる子供で、我が子の覇気の無さに業を煮やした父親ハインリッヒが「偶には外で遊んで来い!」と、書籍を取り上げて屋敷の外に追いやると、アルフォンスは庭の片隅に座り込み、ポケットに隠し持っていた文庫本を日が暮れるまで読んでいたと云う。

 自身も決して活発ではない、おっとりとした性格だった長姉アデルハイドでさえも「優しい性格なのは良いのですが、あの子も将来は侯爵家を継がねばならぬ身。殿下の従弟アンドレアス殿とは申しませんが、もう少し積極的な性格になってもらいたいのですが…」と、愚痴を零す事も屡々あったと、許嫁のジギスムントは即位後に語っている。

 

 その評価が一変したのは、アルフォンスが10歳の頃。当時、皇太孫ジギスムントの学友たちの中には、その謹直な性格を忌避する者もおり、彼らはガキ大将的気質の強いジギスムントの従弟アンドレアスを中心にグループを形成、ジギスムントを長とする集団とは、何かといざこざを起こしていた。大人の目から見れば、思春期を迎えた少年達の他愛無い悪ふざけに過ぎないのだが、当事者にとっては深刻な問題だったのだろう、特に、生真面目で、人一倍気が弱いアルフォンスのような子供にとっては。

 

 ジギスムントの事実上の弟、という立場から、アルフォンスはアンドレアスのグループに属する少年達から目を付けられて、しばしば揶揄いや些細な苛めの対象になっていた。目に涙を浮かべながらも、決して反撃も反論もしてこない姿は、周囲の悪ガキ達には格好の獲物で、その行為はエスカレートする一方だった。

 

 そんなある日、アルフォンスを揶揄っていた学友の一人が、思わず口を滑らせたのだろう、その当時、相思相愛の仲になり、本格的に交際を始めていたジギスムントとアデルハイドの仲に触れて、お前の姉と皇太孫殿下とは、もうそういう関係なのか、あの糞真面目で堅苦しい殿下がどういう顔で姉とやっているのか、お前は見た事があるんじゃないのか、などと肉体関係を仄めかす下世話な揶揄いをした瞬間、顔を紅潮させたアルフォンスが飛び掛かり、顔を引っ掻き、腕に噛み付き、何度振りほどかれても止めようとせず、相手が泣いて謝罪するまで続けたと云う。

 

 この一件が知れ渡ると、苛めや揶揄いの対象にはならなくなったが、同時に、本当に怒ると何をするか分からない、危ない奴だと見なされて、むしろ敬遠されるようになったと云う。元々、一人で読書する事を好んでいたアルフォンスにとって、その事自体はそれほど苦ではなかったようだが、今まで会話した事さえほとんど無かったアンドレアスから、唐突に弟分扱いされるようになった事には、後年著した回顧録の中で「心底閉口した」と書いている。

 

 この当時、アンドレアスは皇太孫になる事を強いる母アグネスに反発、母の手から逃れるため、皇太孫宮に住み着こうと、ジギスムントに忠誠を誓約、和解したばかりだった。他愛のない軽口なら兎も角、将来の主君たるジギスムントの名誉を汚すような輩は、流石に許す事はできなかったのだろう、ジギスムントとアデルハイドを性的な揶揄いの対象にした者を呼び出すと、自ら鉄拳制裁を加え、二度としない事を誓わせているが、その時、アルフォンスの振る舞いを聞き、自分のためには戦わないが、姉や義兄の名誉を守るために戦った姿に感銘を受けたのか、集団の長として、アルフォンスに正式に謝罪、それ以降、何かと気を配り、自分と共に行動させるようになった。

 

 アンドレアスからすれば、自身を疎んじる母アグネスに溺愛される実の弟エルマーと年々、疎遠になっている事から、弟と遊べない寂しさを紛らわせたいとの気持ちもあったのか、アルフォンスを弟同様に可愛がっているつもりだったのだろうが、生来のガキ大将的気質で、規則とは破るためにあるとでも言わんばかりに、無軌道ぶりを発揮するアンドレアスの行動に付き合わされるアルフォンスからすれば、身も心もやせ細るような、堪らない日々だったのだろう。

 

 しかし、面白い事に、この二人は以降、絶縁する事はなく、その死に至るまで、友人関係を続けている。後年、アルフォンスは、アンドレアスとの関係を「親友同士」と評されると、本気で嫌そうな顔をしたと云うが、両者から等距離にいた皇帝ジギスムントは「親友同士との評も間違いではないが、むしろ、腐れ縁という言葉の方がしっくりくる」と、苦笑交じりに評するのが常だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。