【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
第1節 仮説・立憲君主を志向した帝国皇帝が存在した?
ノイラート候アルフォンスの評伝中で述べたように、名君と言っても過言では無い強堅帝ジギスムント1世の治世において、ほぼ唯一の失政とされているのが長子相続の祖法化、法制化に固執した事だ。
皇帝ジギスムントが少年期からの腹心、友人でもあったノイラート候アルフォンスや、ビューロー侯アンドレアスらの諫言を退け、事実上の追放処分としてまで、長子相続の祖法化、法制化に固執した理由は何か、旧帝国末期の歴史学界では、次子ルードヴィヒの英明なる事を見抜けず、長子リヒャルトの甘言に迷ったジギスムントの愚かさの故だとして、同帝凡君説の根拠の一つとなっている。
同盟では自身を含む先帝ルドルフの血統、即ちゴールデンバウム家の血筋で帝位を永遠に独占したいと願った妄執の表れ、などと酷評されていた。同帝を専制君主の理想と称揚した文華帝エーリッヒ1世さえも、流石にこの件は弁護が困難だったのか、「英明な強堅帝と雖も、晩年に至り、判断力が衰え、子故の闇に惑ったのだろうか」と述べるにとどめている。
筆者の見解はどれでも無い。そもそも、皇帝ジギスムントにとっても、意中の後継者は次子ルードヴィヒだった。己の意思を枉げてまで、同帝が長子相続に拘った理由が何かあったのではないか、この問題意識に基づき、公開された新史料の分析を進めた結果、長期的には、銀河帝国の安寧とゴールデンバウム家の存続を、そして短期的には、妻子が権力闘争に巻き込まれ、骨肉の争いを強いられる悲劇を未然に防ぎたいという、同帝の真摯な願い、そして強い家族愛の存在があったのだ。
そして、明確に意図されてはいなくとも、同帝が目指した方向性は、敢えて言うならば、現ローエングラム朝でも、主に新領土(旧同盟)領内で盛んに議論がなされている、帝国皇帝の立憲君主化への道を拓くものだった可能性がある。
これは、公開された新史料の分析を通じて得た、現時点での筆者の私見、着想のレベルでしかないが、旧王朝の歴代諸帝の中には、専制君主という自身の立場をただ無批判に受け入れた訳ではなく、建国者ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが皇帝に即位、銀河帝国を建国した事の法的根拠は、連邦市民による国民投票の結果であるという歴史的事実、そして支配者階級である貴族、ひいては平民一般の動向を踏まえて、帝国社会の安定と臣民の生存、そしてゴールデンバウム家の存在を保障するため、帝国皇帝という存在を、より「民意」に即した地位へと変化させる試みを随時行っていた人物もいたのではないか、と考えている。
つまり、民意を顧慮しない専制君主への志向、民意に立脚した立憲君主への志向、この2つの潮流が時には対立、時には調和して、描き出していった複雑な流れこそ、旧王朝史に伏在する思想的潮流だったのではないか、これが筆者の着想である。
また、この流れが存在したからこそ、法的なチェック機能を持たない専制君主制に、ある種の緊張状態が生まれ、疑似的なチェック機能が行使された結果、旧王朝は500年近い命脈を保つ事が出来たのではないか、とも考えている。今後の研究の進展に順じて、本叢書内で発表していきたいと考えている。