【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第6節 皇帝ジギスムントの「恐怖」

 まず、この問題を考察する上で、再度確認しておきたいが、ジギスムントが長子リヒャルトよりも、次子ルードヴィヒが後継者に相応しいと考えた理由は、整理すれば以下の2点に集約できる。

 

 ① ルードヴィヒは、才能ではリヒャルトに劣るが、人望では勝っているから

 ② 銀河帝国の支配体制がほぼ盤石となった現行の政治状況を考慮すれば、才能豊

   かだが傲慢なリヒャルトよりも、生真面目で温和なルードヴィヒの方が望まし  

   いから

 

 上記の内容から、ジギスムントは、平穏な時代であれば、才能よりも人望が必要だと考えていた事が分かる。それは、リヒャルトを評して、連邦末期に生まれていれば、その才能を十分に発揮できただろうに、と嘆息している事からも裏付けられる。

 換言すれば、動乱の時代であれば、人望よりも能力が重んじられるべきという事であり、即ち皇帝に求められる資質とは、時代状況によって変化する、これがジギスムントの皇帝観だったと言えるだろう。

 

 故に、皇帝たる自分は、自分が崩御した後の社会状況を予測し、それに相応しい人物を帝位継承者として指名しなければならない、これが後継者の選定を行う上で、ジギスムントが自身に課していた事だと推測される。

 

 専制君主という存在を思想的に全否定する者ならいざ知らず、ジギスムントが後継者を選ぶ上で、強い責任感を持ち、可能な限り誠実かつ公正に行おうとした事は否定できない。そして、この選定基準それ自体に異を唱える者もまず存在しないだろう。

 

 だが、ジギスムントは気が付いてしまったのではないかと思う。選定されなかった者には、不適格者とのレッテルが否応なしに貼られてしまう事を。そして、ある時点での最適解が、永遠に最適解であり続ける保証など何処にも無い事を。以下は筆者の想像でしかないが、晩年の皇帝ジギスムントの心中に去来した思いとは、以下の如きものだったのではないだろうか。

 

 

 皇帝権を確立できた自分であれば、己の信念と判断に従い、最適と考えた次子ルードヴィヒを後継者に指名する事が出来る。対抗馬となる長子リヒャルトや群臣達を説得し、己の意に従わせる事も出来るだろう。

 

 だが、その後は?自分が崩御した後も、銀河帝国とゴールデンバウム家は連綿と続いていく。いや、自分が居なくなった後、残された妻アデルハイドや息子たちはどうなる?新帝として即位したルードヴィヒは良い。あれの性格からして、兄リヒャルトを粗略に扱う事などせぬだろう。皇太后となるアデルハイドにも孝養を尽くす事は疑いない。

 

 だが、自分の死後、リヒャルトはルードヴィヒに従い、臣下として身を処せるだろうか?あいつ自身は、その境遇を受け入れるのではと感じているが、周囲の人間がどう見るだろうか?先帝の長子でありながら、皇太子に選ばれなかった放蕩者よと、蔑みの目で見られるのではないか。

 

 どこか虚無的な雰囲気を漂わせるリヒャルト自身は、他人の評価など気にしないかもしれぬ。だが、あいつの取り巻き共は違う。必ず、リヒャルトを焚き付け、皇帝に相応しいのは殿下です、先帝陛下は判断を誤られました、などと言うだろう。あいつはそれに乗るような愚か者ではないと信じたいが、時の勢いとは恐ろしい、煙が充満すれば、火が無くとも火事だと信じる者は少なくない。むしろ火事だと言い立て、リヒャルトを擁立し、ルードヴィヒを打倒して、自身が帝国を牛耳ろうと野心を逞しくする権謀家が現れないとは断言できないのではないか、そう、例えば、あの油断のならないカストロプ公マクシミリアン…

 

 いや、違う、リヒャルトが野心家と組んで、反逆を企んでいるのではとの疑念を募らせたアデルハイドが、ルードヴィヒ愛しさのあまり、先手を打たねばと焦慮に駆られて、リヒャルト排除の策謀を巡らせるやも…優しい性格の妻がそんな非道を行うなど想像したくもないが、子への愛情は時として親を、特に母親を狂わせる。

 

 逆に、追い詰められたリヒャルトが自己防衛のため、本当に謀反を起こしたら…あいつが本気で母や弟と戦う臍を固めたら、到底、ルードヴィヒやアデルハイドが敵う相手ではない。そして、反逆者となった以上、リヒャルトは実の母と弟を手にかけざるを得ない。例え当人が助命を望んでも、周囲がそれを許すはずは無く、また、政略上だけで考えるならば、殺す以外の選択肢は無いのだ。

 

 …私の家族達が疑心暗鬼に陥り、骨肉相食む悲劇を演じるなど、絶対に嫌だ。何とか手を打たねばならない。そうだ、これはただ私だけの事ではない。ゴールデンバウム家が帝国皇帝の地位を世襲する以上、同じ事は何度となく繰り返されるはずだ。それは過去の歴史が証明している。何とかしなければ…皇帝の家に産まれた、ただそれだけで、どうして親子が、兄弟が互いに猜疑して、殺し合わねばならないのだ。何とか、何とかしなければ…例え先帝陛下の御遺志に背いてでも…

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