【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第7節 長子リヒャルトを皇太子に

 前節の小説じみた皇帝ジギスムントの独白は、無論、史料上の根拠など無い。しかし、帝国暦60年代後半以降、その崩御に至るまで、同帝の言動を調べてみると、これまで新無憂宮はおろか、帝都オーディンにさえ居ない事があったリヒャルトを膝下に留め、自分と行動を共にさせている事例が増えている。また、公職に就いていなかったリヒャルトに対して、皇帝政務秘書官への就任を厳命、自分が先帝ルドルフの御代にそうしたように、皇帝の「見習い」をさせるようになっている。

 

 さらに、今まではリヒャルトとルードヴィヒの兄弟が公式の場で親し気に会話をしていても、何も言わなかったジギスムントだったが、この頃から屡々ルードヴィヒを叱責、臣下の前で弟が兄に対し、砕けた言葉を使うのは、長幼の序を乱す行いであると、態度を改めさせている。

 その事を不満に思った皇后アデルハイドが控えめに苦言を呈すと、常には妻に甘いジギスムントが「長幼の序は君臣の定めと共に、我が帝国の支配体制の根幹である!それを疎かにせよとは、皇后として有るまじき不見識!反省せよ!」と、怒りを露わにした事があったと、アデルハイドからの直話として、側近のフリードマン男爵夫人ソフィアが書き残している。

 

 これらの事例から、後継者問題に直面したジギスムントは、内心、長子リヒャルトを皇太子に定め、帝位継承への準備をさせ、かつ次子ルードヴィヒには、お前はあくまで弟、長幼の序として、兄を立てねばならないと、改めて躾けると共に、臣下達の前で敢えてそれを行っている事が看取できる。

 また、ルードヴィヒを偏愛、心中密かに皇太子になる事を望んでいただろう皇后アデルハイドを叱責、後継者はリヒャルトであって、ルードヴィヒは弟として兄に仕える身であると、家族そして臣下達に周知させる振る舞いをしている事が分かる。

 実際、当時のジギスムントの言動は、皇后や臣下達のみならず、当のリヒャルトやルードヴィヒにとっても意外だったようで、リヒャルトは即位後、側近らに「余は、相手の心中を察する事が出来る方だという自負はあるが、あの頃の父上が何を考えていたのか、正直な所、理解できなかったな。父上の意中の後継者は、弟だとばかり思っていたからな」と語っている。

 

 皇帝ジギスムントが自身の死後、残された妻子が帝位を巡って相争う事態を心底恐れていたと仮定すると、同帝が後継者として相応しいと考えていた次子ルードヴィヒを排して、敢えて長子リヒャルトを後継者とする動きを始めた理由が理解できるように思う。

 

 自身の死後、疑心暗鬼に駆られたアデルハイドがリヒャルトを排除しようとする、もしくはリヒャルトが自己防衛のため母や弟を打倒しようと反逆する、この最悪の予想が的中してしまえば、帝国の支配体制は乱れる、即ち乱世に突入し、臣民の生存と安寧も毀損される、ゴールデンバウム家の存在さえも危うくなるかもしれない、その時、生真面目で温和なルードヴィヒでは、その混迷を鎮める事は困難だと判断したのではないか。

 

 帝国の支配が一度乱れれば、才能豊かで、乱世の英雄児の資質があるリヒャルトに、才乏しきルードヴィヒ、そして箱入り娘のアデルハイドが敵するべくもない、必ず二人とも殺害される事、火を見るより明らかだ、ならば、敢えてリヒャルトに帝位を譲り、自分の死後、母と弟を保護下に置けと因果を含めれば、幸い、リヒャルトはルードヴィヒを敵視していないし、アデルハイドとは疎遠になっているとは言え、追放、殺害する程の憎悪を抱いてはいない、リヒャルトの器量なら間違いなく二人を守れる、家族同士が相争う最悪の悲劇は回避できる、これがジギスムントの狙いだったのではないかと、筆者は想像している。

 

 だが、これではゴールデンバウム家の内部抗争は回避できるとしても、才能豊かで、その点では皇帝に相応しいが、為人は傲慢で傍若無人、放蕩者として人望が無いリヒャルトを帝位に就ければ、群臣は納得せず、不平不満を抱き、やはり帝国の支配体制が乱れる原因となるのではないか。現に、義弟ノイラート候アルフォンスは、リヒャルトの帝位継承に異を唱え、ルードヴィヒこそ新帝に相応しいと明言している。だが、明哲で責任感の強い為政者ジギスムントがその点を考慮しないはずは無い。その解決策として、ジギスムントが唯一見出した方途、それが長子相続の祖法化、法制化だったとするのが筆者の見解である。

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