【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
まず、皇帝ジギスムントが長子相続の祖法化を宣言した詔書を全文引用する。この中に、祖法化に込めた同帝の意図が表現されているからだ。
全人類の支配者にして全宇宙の統治者、銀河帝国の建国者、神聖にして不可侵なるルドルフ大帝陛下の血統を受け継ぐ、余ジギスムント・フォン・ゴールデンバウムは、全人類社会の統治という、この崇高なる責務を家業として継承するゴールデンバウム家の当主として、当主の地位は子々孫々に至るまで、先代当主の長子が継承する事、茲に定めるものなり。
顧みるに、大帝陛下は明哲英明にして、威武並びに表れ、常に臣民の生存と安寧を念願し、跋扈する逆賊を討滅して、世の混乱を鎮められた。また、君臣の身分を定め、社会に秩序を齎し、臣民に生業を与え、その生命を全うさせた。故に、大帝陛下は万民に賛仰され、その輿望を担い、全人類の推戴の結果、銀河帝国皇帝に登極せり。有史以来、未だ嘗て有らざる偉業である。
大帝陛下の偉業を継承する余は、その神聖なる教えである大帝遺訓を遵守し、祖法と人倫に従い、統治者の責務を怠らず、以て光輝ある大帝陛下の御稜威を失墜させぬ事を誓約し、既に二十有余年、孜々として皇帝の御業に励み、卿ら貴族の協賛を得て、ゴールデンバウム家当主の大任を全うせんと、夙に念願するものなり。
君臣ともに各々の任を果たさんと、日夜尽力せし結果、今や人類社会は平安を回復し、臣民は生業に安んじ、既に銀河帝国の支配は安固にして牢固、盤石の体制と成れり。その体制を損なう事なく、平穏を乱す事無く、大帝陛下が終生希求せし臣民の生存と安寧を毀損するが如き闘争を永遠に惹起させぬため、ゴールデンバウム家当主にして、銀河帝国皇帝たる余ジギスムントは、次代当主の地位を我が長子リヒャルトに継承せし事を決すると共に、リヒャルトの地位はその長子オトフリートに、オトフリートの地位はその長子へと、連綿と継承される事を決定するものなり。
全人類社会の統治を家業として継承するゴールデンバウム家の当主は、その責務に相応しき地位として、銀河帝国皇帝に即位する事、これ即ち偉大なる建国者ルドルフ大帝陛下が定めし祖法なり。かつ、皇帝を輔翼し、共に統治の任に当たる者達として、人格識見に優れた人材を選抜、子々孫々に至るまで、その責務を全うさせるべく、貴族階級を創設せし事もまた、大帝陛下が定めし祖法なり。
今、大帝陛下の深き御叡慮を拝察するに、ゴールデンバウム家の当主は、全人民の推戴により、全人類社会の統治に責任を負う銀河帝国皇帝となり、その地位を子々孫々に至るまで、連綿と継承させる事により、治世の永続性を確保し、かつ人民の生存と安寧を毀損するが如き権力闘争の因を除去せんと念願したり。然るに、大帝陛下の如き明哲無比の英傑と雖も、広大無辺なる銀河系の統治は、ただ皇帝独りで貫徹する能わず。故に、皇帝を輔翼し、共に統治の任を全うできる人材を貴族と定めし。これ即ち大帝陛下の御叡慮なり。
銀河帝国皇帝たる余ジギスムントは、揺るぎなき確信を以て宣言せん。統治大権を有するは皇帝独りであれども、統治の任に当たるべき者は皇帝独りにあらず、皇帝と貴族が君臣相和して、己が任を全うする事、これこそが大帝陛下の御遺志であり、かつ祖法なり。
故にして、皇帝の任とは、数多の貴族を統御し、各々がその責務を全うせしか否かを裁定し、適切に賞罰を下す事にあり。決して自らが煩瑣なる政務を行う事にあらず。従って、皇帝たる者は、区々たる才能を誇る要など無く、ただ臣下の言動を賢察し、是々非々の断を下す明知のみあれば良し。ゴールデンバウム家の当主は、己が長子を訓育し、ただ明知のみ得させよ。他の資質は問う所に非ず。長子は己を虚しくして、ただ臣下らを量る矩たるべし。次子以下は、長子を補佐し、兄帝を輔翼する臣下たるべし。それこそがゴールデンバウム家に産まれた者の責務と知れ。
そして、貴族達に申し渡す。己の言動が皇帝の定める矩に適うか否か、常に自省せよ。己が支配者の一員であり、皇帝と共に統治の任を分有したる事を常に自覚せよ。それこそが貴族家に産まれた者の責務なり。
余の存念は斯くの如きなり。卿ら、余の意思を体し、子々孫々に至るまで拳拳服膺し、決して違背する事勿れ。銀河帝国皇帝ジギスムントが茲に命ずるものなり。