【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第2章 摂政皇太孫へ就任~ルドルフ崩御まで
第1節 皇太孫ジギスムントの生活


 帝国暦24年、ジギスムントは7歳の時、祖父ルドルフ大帝から皇太孫に立てられ、旧帝国史上初の立太子式を挙行した。正式に帝位継承者と認められたジギスムントは、新無憂宮内に皇太孫宮が与えられ、日中は同宮内に設けられた学問所で、選抜された学友たちと共に過ごし、父親ノイエ・シュタウフェン公が選抜した教授らの指導を受け、本格的な帝王教育を受けるようになった。

 

 指導に当たった教授らが作成した評価報告書によると、ジギスムントの成績は当人を含めた学友全15名中、常に5番程度を維持しており、祖父ルドルフ、父親ノイエ・シュタウフェン公が士官学校で常に首席だった事と比較すれば、こと成績の面では劣っていたと言わざるを得ない。身体能力は平均程度で、特に優れていた訳でも、酷く劣っていた訳でもなかったようだ。

 

 ただ、学習態度は、どの教授も口を揃えて「真面目すぎる程に真面目」と評価している。およそ手を抜くという事を知らないかのように、出された問題は全て回答、分からない問題は分かるまで質問を繰り返し、一度覚えた事は二度と忘れないよう、飽きる事なく復習した。

 

 初等教育段階でのエピソードとして、国語(帝国語)の教師から、辞書の項目を全て筆記する課題を出された時、周囲の学友の中には、単調な作業に嫌気がさして、私語をする者、教師の目を盗んで逃げだそうとする者もいたが、独りジギスムントのみ、終わるまで一言も口をきかず、完璧にやり遂げたと云う。

 

 後年、親政を開始したジギスムントは、重要な政策課題に対処しなければならなくなった時、ただ独りで執務室に籠り、食事も取らず、休憩もせず、自分の考えがまとまるまで、何時間でも考え続ける癖があったというが、その萌芽は少年期に生じていたと言える。

 

 後に、ジギスムントを理想的な専制君主として称揚した文華帝エーリッヒ1世は、この資質を評して「強堅帝ジギスムント1世を名君ならしめたのは、如何なる難題でも、倦まず弛まず、あらゆる角度から考察して、最適と思える回答を発見するまで、只管に考える事が出来る、思考の集中力と持続力にある。その為人の本質は、天才でも秀才でもなく、努力の人であった」と書き残している。

 

 そして、基本的な生活習慣を身に付けるために課された掃除や洗濯、簡単な調理は率先して取り組んだ。掃除などを怠ける学友がいれば必ず注意したが、皇太孫の立場を利用して相手を叱責、否定するのではなく、何故、そんな事をするのかを質し、それに対する自分の意見を主張し、相手が理解するまで、または根を上げるまで議論した。時として、相手が感情的になり、暴力に訴える事もあったが、ジギスムントは決して自分から手を挙げようとはせず、例え喧嘩になっても、何故そうなったのか、教師や父親に対して、出来る限り客観的に報告するように努めた。

 

 良く言えば冷静沈着、悪く言えば子供らしく無い、可愛げの無い態度はどうして育まれたのか、当人は「御祖父様の御言い付けだから」と答えるのが常だった。幼少期からジギスムントは祖父ルドルフに懐いていたが、立太子後も、折に触れてルドルフの下を訪れていた。当時のルドルフの書簡にも、訪問してきたジギスムントと会話を楽しんだ事が書かれている。

 

 想像するに、ルドルフの遺言たる大帝遺訓は、この時点ではまだ作成されていなかったが、新皇帝に与える訓戒である、第4条「欲望と快楽に溺れる事無く、不断に切磋琢磨し、臣民の手本たり得る人物となれ」、第5条「臣民に対する際は、恩威並びに行い、清濁併せ呑む度量を持て」など、少年期のジギスムントの態度に照応する内容がある事からして、ルドルフは、自身が考える理想的な君主像を折に触れてジギスムントに話したのだろう。ルドルフを尊敬していた幼いジギスムントがその教えを自身の行動指針にしたのではないかと思われる。

 

 ただ、キャンプなどの野外活動や、フライングボールなど娯楽性が高いスポーツでは、普段の生真面目な態度が影を潜めて、周囲が意外に思う程、楽しそうに取り組んでいたと、当時の学友の一人が書き残している。幼児期、妹テレーゼと皇宮内を走り回って、母親カタリナにしばしば叱責されていた事を考え合わせると、身体を動かす事が好きな活発な性格こそが生まれ持った気質で、生真面目で自己抑制的な為人は、祖父ルドルフ、父親ノイエ・シュタウフェン公による躾で、後天的に育まれたものだと言えるかもしれない。

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