【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第3節 新帝リヒャルトの課題①~高い経済力を有する領主貴族の台頭

 父帝に「強堅」との諡号を贈った新帝リヒャルトは、その選定理由として「皇祖ルドルフ大帝陛下が創成した銀河帝国の支配体制を強固に確立したのみならず、敵対国家や反帝国勢力を討滅、その体制を揺るがす叛徒らを悉く鎮圧し、帝国の基を堅牢と為さしめた事、余人の及ぶ所に非ず」と発表している。新帝リヒャルト、後の享楽帝リヒャルト1世に対して、辛辣な評価を下しがちな歴史家皇帝・文華帝エーリッヒ1世も、この諡号選定は「ジギスムント帝の勲を表現するのに、これ以上の言葉は存在しない」と、最大級の評価を与えている。

 

 この諡号を選定したリヒャルト自身が認識していたように、ジギスムント崩御時、銀河帝国の支配体制は確立されており、その統治を揺るがす反帝国勢力はほぼ皆無、まさに盤石と言っても過言では無かったが、将来の不安要素が皆無だった訳ではない。その1つが高い経済力を有する領主貴族らの存在だ。

 プラグマティックな性格だったジギスムントは、先帝ルドルフが創始した配給制度を新付の領土、即ち旧敵国領でも完遂するため、滅亡した汎オリオン腕経済共同体から持ち込まれた、銀河連邦の遺産とも言える高度な生産・流通システムを導入するなど、例えそれが帝国の国是たる統制経済と相容れない、自由経済由来の制度や文物であっても、政治的に統制可能だと判断した限りにおいて、採用する事を躊躇わなかった。

 

 しかし、この事は、それらのシステムや、運用のノウハウを熟知、運用できる人材をも、帝国の支配体制内に取り込む事に他ならなかった。彼らは主に経済共同体やシリウス出身の官僚や企業家、技術者達だったが、その出自から、経済共同体総裁から転身した大諸侯、カストロプ公マクシミリアンの強い影響下にあった。

 

 前述した通り、同公は、彼ら自由経済に由来する技術やシステムを熟知する人材を帝国に斡旋、彼らの存在を通じて、帝国政府内で勢力を伸ばしてきた財務官僚や国務官僚らと結託し、自身の影響力を帝国政界に広げていった。さらに、彼らを中央政府に送り込んだだけではなく、公爵家の従家、また自身の従臣としても取り込み、彼らをして、自領及び自家の一門に属する貴族領の経済開発にも当たらせている。

 元々、自由経済を国是とする経済共同体の総裁だったカストロプ公は言うまでもなく、同公爵家の一門に属する領主貴族達も、同様にシリウスや経済共同体の有力者から転身した者も少なくなく、やはり自由経済体制への抵抗は無かった。

 

 その結果、彼らの領内には、効率的で高い生産性を有する公営企業が多数生まれ、その産品は政府経営の国営企業のそれと比較すれば、高品質かつ安価な傾向が強かった。よって、これらの産品が帝国の経済市場で大きな存在感を発揮しない訳がなく、戦火が終息し、物質的に豊かな生活を希求し始めた貴族社会の風潮にも後押しされて、先端的な公営企業を経営する領主貴族の台頭は、既にジギスムント帝の治世末期から認められる。

 

 彼ら高い経済力を有する領主貴族が台頭し、彼らと結んだ文官貴族らが勢力を伸ばすと、経済と接点を持たない武官貴族達は「野蛮人」とも蔑まれ、政界及び貴族社会の非主流派に追いやられていったが、帝国軍という武力を占有する彼らの力は決して侮るべきではなく、彼らと同様に、経済との接点が薄い内務省や司法省を基盤とする文官貴族と結びついた武官貴族達は、統制経済を国是とした建国者ルドルフ大帝の存在を大義名分に掲げて、領主貴族、そして彼らと結んだ国務省・財務省を基盤とする文官貴族達と鋭く対立していく事になる。

 

 貴族社会を二分する、領主及び経済系文官貴族、武官及び非経済系文官貴族、これら両派の対立抗争が新帝リヒャルトの治世を彩る主旋律となっている。さらに、先帝ジギスムントが長子相続の祖法化を断行した結果、統治の実務には携わらない、立憲君主的皇帝たる事を余儀なくされ、自身の優れた才能を発揮する術を持てないリヒャルト帝は、その多彩な女性関係と同様、両派の均衡を巧みに維持する、まさに「綱渡り」じみた政局運営を強いられる事になる。

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