【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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【おわりに】

 ゴールデンバウム朝銀河帝国第2代皇帝、強堅帝ジギスムント1世とは、旧帝国史上、ルドルフ大帝の後継者と見なされる事が多く、そして、その評自体は決して誤りではないのだが、先帝が作り出した事を無批判に継承し、単に墨守するだけの為政者では全く無かった。

 

 俗に「創業の困難を克服した後は、守成の困難に立ち向かわなければならない」と言われる。守成の困難とは何か。古代地球、名君と謳われた皇帝に「創業と守成、どちらが困難だと思うか?」と問われた際、ある臣下は「守成の方が困難であります。何故なら、創業の御業とは、天命を受けた帝王が志を立て、前代の乱れを正し、賊徒を打ち破り、天下の泰平を取り戻し、新たな国家を打ち立てる事、よって人民は喜んで帝王を推し戴き、挙ってその命令に服します。然るに、一旦天下を手中に収めてしまえば、如何なる英傑と雖も、その精神が緩み、目先の安逸に流れ、欲望を恣にし、勝手気儘に政治を行うようになってしまいます。これでは、人民は静かな生活を望んでいるのに、帝王の貪りを満たすためだけの労務が続き、人民が食うや食わずの生活を強いられていると言うのに、帝王が贅沢をするための仕事は課せられます。国家が衰えて滅亡する原因は、将に守成を疎かにする事から生じるのです。それ故、守成の方が困難と申し上げました」と答えている。

 

 先に、ジギスムントの父親ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムを「創業の時代に生まれた守成の人」と評したが、それに倣って評するならば、皇帝ジギスムントは「守成の時代に生まれた守成の人」だった。

 

 幼少期から厳しく自らを律し、欲望を恣にする事を戒め、常に努力を怠らず、倦まず弛まず、自らを高め続けていった。即位後は、建国者ルドルフが生み出した銀河帝国を継承して、その国是を理解し、その精神に則り、長所を伸ばし、短所を改め、時代の変化を見据えて、新たに行うべき事が生じれば断固としてそれを行い、止めるべき事が生じれば、例え先帝が創始した事であっても、躊躇う事無く停止している。それは将に、守成の困難に敢然と立ち向かい、人生の全てを捧げた名君の姿だった。

 

 後に文華帝エーリッヒ1世が看破した様に、その崩御に至るまで、皇帝ジギスムントが帝国の繁栄と平穏、そして臣民の生存と安寧を念願する為政者だったのは、彼自身が家族や友人達の愛情と信頼に包まれ、彼らと共に生きている銀河帝国という場所を掛け替えのないものだと感じていたから、それを守り、より良くする事は、自分自身の幸福につながる事だったから。文華帝はジギスムントを「愛深き皇帝」と評したが、強堅帝ジギスムント1世とは、家族愛で育まれ、同胞愛で周囲を包み、その果てに人類愛さえも抱けるようになった為政者だったのかもしれない。

 

 そして、新帝国暦初頭に生きる我々は、数奇な運命によって発見された直筆の書簡により、ゴールデンバウム朝銀河帝国の建国者ルドルフ大帝が晩年、極度の絶望感と虚無感に苛まれ、人類種の安楽死さえも夢想した人物だった事を知っている。

 歴史にifはあり得ないが、虚無主義に陥った皇帝ルドルフの後継者が人類愛に満ちた皇帝ジギスムントでなかったならば、銀河帝国はルドルフを淵源とする虚無主義に犯され、臣民の生存と安寧、日々の細やかな幸福を約束する場所ではなくなり、彼らの信頼と敬意を失った結果、早晩自壊への道を歩んでいたかもしれない。空想的に過ぎる主張である事は自覚しているが、その意味でも、強堅帝ジギスムント1世は後世、ルドルフ大帝の最良の後継者、と称揚されて然るべき皇帝だったと思っている。

 

 しかし、愛が全てを解決する訳ではない。愛とは執着、妄執にさえ転嫁する可能性を常に秘めている。深い愛情と共に、卓越した知性と理性を有し、強固な克己心を持つ皇帝ジギスムントであれば、愛と執着、妄執の別をつける事は出来た。しかし残念ながら、同帝崩御後、銀河帝国には執着、妄執に堕した利己的な愛情を振りかざす女性達が台頭。最終的には、旧帝国史上初の権臣、奸臣エックハルトという怪物を生み出す母体になってしまった。次巻以降、彼女らの存在と言動を主旋律に、皇族や貴族たちが欲望のままに闘争を繰り返し、銀河帝国が悪徳の泥沼に沈んでいく様を描写したいと考えつつ、強堅帝の巻を擱筆する事としたい。

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