【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第1章 生い立ち~立太子まで
第1節 誕生~ルドルフ大帝の初孫として


 帝都オーディンの皇宮内で生まれる。父親はノイエ・シュタウフェン公ヨアヒム、母親はルドルフ大帝の長女カタリナ、同母兄妹に2歳年下の妹テレーゼがいる。男子に恵まれなかったルドルフ大帝の血を引く初の男性皇族として、祖父ルドルフ、そして祖母たる皇后エリザベートの愛情を一身に受ける。

 

 ただ、その愛情の質は両者でやや異なっていたようだ。子煩悩な性格だったルドルフは、愛娘カタリナの子、自身の初孫として、純粋に可愛がっていたが、ルドルフの息子を産めなかったエリザベートにとり、ゴールデンバウムとシュタウフェン両家の血を引くジギスムントは、自らの皇后としての権力、そして実家たるシュタウフェン家の権勢を守るためにも、何としても帝位に就けねばならない存在だった。この事がエリザベート、そして母親カタリナがジギスムントに過保護とも言える愛情を注ぐ事につながり、さらには、ルドルフの男子を孕んだ寵姫マグダレーナ暗殺の動機にもなったと思われる。

 

 また、曾祖父たるシュタウフェン公爵も、自家の権勢を守るため、そして後継者たる孫ヨアヒムを帝国最大の権力者とするため、ジギスムントの即位を密かに熱望。宮廷内外にいる自派閥の人材を動かし、ジギスムントの即位を妨げる恐れがあるものは、慎重に排除していった。マグダレーナの一件で示された社会秩序維持局長(後の内務尚書)クラインゲルトの動きはその典型例と言うべきで、一説には、軍務省調査局長を長く務めたグリューネワルトも、同公爵の意を受けて、麾下の工作員を宮内省職員として送り込み、反対派の手による暗殺、誘拐等に備えていたと云う。

 

 尤も、幼少期のジギスムントは、周囲の大人達の思惑など気にする事も無く、乳母の目を盗んでは、皇宮内を妹と一緒に駆け回るような性格で、怪我を心配する母親カタリナは屡々叱責したが、ルドルフはむしろ「男子たる者、あれくらい元気な方が良い。それに、ジギスムントは母親に似たのだろう。カタリナも幼い頃、家の中を走り回って、階段の手すりを滑り台代わりにした事もあった。儂やエリザベートは生きた心地がしなかったぞ」と笑って言い、カタリナを窘める事が多かったと、当時の侍従の1人が書き残している。

 

 ここで、当時の皇宮、後世の新無憂宮について一言しておきたい。ルドルフ即位後、ペデルギウス政府首相官邸をベースに、皇宮の建設が開始された。宮内省と学芸省合同で、西暦時代に建設された各国の宮殿や官邸等の事例が調査され、銀河帝国に相応しい皇宮の建設構想を策定。事業主体となったのは国土省で、同省に伝わる史料によると、帝国暦12年頃から本格的な建設工事が始まっているが、ジギスムントが誕生した帝国暦17年現在、国家の重要式典や朝儀等に使用される公的部分が一部、竣工した程度で、ルドルフ以下の皇族達が暮らす私的部分は、首相官邸時代と大差ない状態だったと云う。

 

 また、寵姫に与えられた別邸や別室は、例えば旧帝国末期、亡国帝フリードリヒ4世時代のそれと比較すれば、極めて小規模かつ簡素だったと伝えられ、この点からも、質実剛健を尊んだルドルフの気質が看取される。新無憂宮はこれから約150年の間、建設と中断を繰り返し、主要部分が現存する形に完成したのは、帝国暦170年代、美麗帝アウグスト1世の御代だった。

 

 なお、史上有名な「新無憂宮(ノイエ・サンスーシー)」との名称だが、命名者は誰なのか、実は不明なのだ。史料上、新無憂宮という名称の初出は、帝国暦10年頃、前述の皇宮建設構想案である。しかし、その時点では「(仮称)」とも書かれていて、誰がいつ、正式名称としたのか、現時点でははっきりと分かっていない。同12年に執り行われた起工式の記録には「新無憂宮」が皇宮の名称として記載されており、帝国暦10~12年の間に、正式な名称として採択されたと推測されるが、公開された新史料やルドルフの書簡等にも、命名の件に触れたものは、現時点では発見されていない。

 

 これは想像でしかないのだが、ルドルフは当初示された皇宮建設構想を「過大である」として、巨額の建設費用を理由に一度は退けたが、建設に伴う経済効果を当時の財務尚書クロプシュトックに説明され、やむなく裁可したと云われている。本エピソードが示すように、ルドルフは皇宮建設に対し、必ずしも前向きでは無かった、そのため、構想検討の段階で、宮内省か学芸省の職員らが「呼び名がないと不便だから」との理由で、記号的に用いていた仮称「新無憂宮」が次第に既成事実化して、皇宮の建設に無頓着だったルドルフが追認した、というあたりが真相なのではないだろうかと、個人的には考えている。

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