【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第3章 クーデター未遂事件「二月事件」
第1節 歴史の陰に女あり~皇女カタリナの嫉妬


 以下の内容は、宮中の秘事に属する事で、旧王朝時代はごく一部の人々を除いて、全く知られる事が無かったが、新王朝開闢後に公開された新史料、特に強堅帝ジギスムント1世の日記や、当時の関係者の覚書や書簡、日記等に記載された断片的な記述を総合し、再構成したものである。

 

 ジギスムントとアンドレアスの帝位継承を巡っての鞘当て、両者の優劣が如実に分かる学友制度を巡って、カタリナが夫ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムと対立、夫婦仲が険悪になった事は既述の通りだが、その後、同公爵邸を半ば出て、皇太孫宮に泊まり込む息子ジギスムントに倣うか如く、ヨアヒムもまた、政務多忙を理由に帰宅を避けるようになり、この夫婦は事実上の別居状態に陥る。

 

 夫や息子から露骨に避けられたカタリナは、自身の態度を反省する事も無く、彼女にとっては「不実」な男たちを非難し続けた。ただ1人そばにいた娘テレーゼは、生真面目に成長した兄と異なり、我儘で享楽的な性格が露わになってきており、その放縦さを父親から厳しく叱責された事を恨みに思っていた。

 また、幼い頃は自分を可愛がってくれた兄が、思春期を迎えると、許嫁のアデルハイドに夢中になり、全く構ってくれなくなった事から、兄の許嫁へ嫉妬を募らせてもいた。それらの感情と、母親への迎合で、盛んに父や兄の悪口を言い募った。それがカタリナの苛立ちに拍車をかけ、自身の悪感情を正当化する根拠になった事は想像に難くない。

 

 帝国暦34年、息子ジギスムントとアデルハイドの間に、長子リヒャルトが産まれた事で、カタリナの苛立ちは頂点に達した。俗に「母親にとって、息子の恋人とは、嫉妬の対象でしかない」などとも言うが、当時、帝国で最も尊貴な貴婦人となったカタリナにとっても、その事は例外ではなかったようだ。

 

 もともと、母親エリザベートに似て、気が強く男勝りな性格だったカタリナは、帝国女性の嗜みとされた家事一般が得意ではなく、その点が密かなコンプレックスになっていた。

 一方、幼少期から貴族令嬢として厳しく躾けられ、帝国女性の嗜みは悉く身に付けて、性格も淑やかで従順、なおかつ自身を上回る美貌の持ち主だったアデルハイドは、父ルドルフ・母エリザベートの意向で、息子ジギスムントの許嫁に選ばれた時より、何かと癪に障る存在だった。事実、アデルハイドは次代皇后に相応しくないのではと、父ルドルフに讒言めいた事もしていたようだ。当時のルドルフの書簡には、自分が思うに、あれほど非の打ち所がない貴族令嬢は滅多にいないが、何故カタリナはそのような事を言うのだろうと、訝しく思っていた事が書かれている。

 

 そのアデルハイドに大切な息子ジギスムントが夢中になり、その情熱の赴くまま、正式な結婚前に子作りまでしてしまった。カタリナにとって、会いに来る事さえ稀になった息子が、自分が気に食わない小娘と愛し合い、あまつさえ子供まで作るとは!と、これほど忌々しい事は無かっただろう。また、夫ヨアヒムがこの件でジギスムントを弁護し、ルドルフに取り成している事も気に入らなかった。

 

 ヨアヒムにすれば、その能力と資質を高く評価し、次代皇帝に相応しいと確信している息子が、こんな事で義父ルドルフの不興を買い、万が一にも廃嫡される事態となれば、自分の立場が危うくなるだけではなく、帝国の将来にも大きな損失だと考えての行動だったのだが、嫉妬の虜になったカタリナの目には、自分への当てつけ、そしてアデルハイドとかいう小娘と共に、息子ジギスムントを囲い込もうとしている、としか映らなかった。

 

 しかし、母親エリザベートとは異なり、皇后でも皇太后でもなく、公式な立場はノイエ・シュタウフェン公爵夫人でしかないカタリナは、崩御した母親に代わり、皇宮の女主人的立場になったとは言え、それはあくまでも皇太孫ジギスムントが新帝として即位、許嫁アデルハイドが新たな皇后になるまでの繋ぎ、代理でしかなく、国政に影響を及ぼす事など出来ないはずであった。だが、ここに運命の悪戯が生じた。

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