【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第5節 幻に終わったクーデター~新帝ジギスムントの「初仕事」

 帝国暦42年2月16日10時23分、ゴールデンバウム朝銀河帝国の建国者、大帝ルドルフ1世は崩御した。旧帝国史上初の国葬として、貴族と文武百官は葬儀への出席が義務付けられ、国葬当日は新無憂宮を一般開放。平民の弔問も受け付けるとして、一般参列者は数十万、一説には数百万人に及んだと伝えられる。

 

 だが、盛大な国葬に先立ち、平民はおろか大部分の貴族も知らないまま、宮中内部では密やかな、しかし激烈な権力闘争が開始され、既に終了していた。カタリナ一派が画策したクーデターの先手を取り、皇太孫いや新帝ジギスムントと、帝国宰相ノイエ・シュタウフェン公爵の行動は、まさに電撃的と言えた。以下、関係者が残した日記や報告書等に基づき、クーデター鎮圧の状況を整理してみた。

 

 ルドルフ崩御当日、カタリナは腹心ノルデンを密かに呼び、3月1日に予定される国葬に先立ち、2月25日を決行日と定めた。同日夜、国葬の打ち合わせと、新帝即位に際し、家族の和解と親睦を図りたいとの名目で、ジギスムントとノイエ・シュタウフェン公、そしてアデルハイドを皇宮に呼び寄せて、その席上、潜ませていたノルデン男爵家の私兵を使い、彼ら3人を拘束するとの手はずを再確認した。

 だが、この事は、その日の内に、ジギスムントとノイエ・シュタウフェン公の耳に入っている。その情報経路は複数あったようだが、ノルデン家の私兵の中にさえ内通者がいたと言われる。

 

 翌26日、ジギスムントは、今や腹心の部下となった従弟アンドレアス・フォン・ビューローと、許嫁アデルハイドの弟アルフォンス・フォン・ノイラートの両名を従え、近衛兵一個連隊を率いて、母カタリナと妹テレーゼが住まう皇宮に突入、両名に軟禁を宣告すると共に、首謀者の一人・宮内尚書ノルデンを逮捕している。この時、許嫁アデルハイドと、その父親ノイラート候ハインリッヒは、不測の事態に備え、統帥本部次長ローエングラム中将が手配した屈強な装甲擲弾兵部隊に守られて、帝都オーディン郊外の御料地に避難している。

 

 皇宮に突入したジギスムントは、普段の礼儀正しさを放擲し、今までの憤懣を曝け出すかの如く、母と妹に激語している。同行したアルフォンスが日記にその時の言葉を書き記しているが、尊敬する祖父ルドルフ大帝の後継者になった気負いと、青年皇帝らしい自信と理想に満ちている。当時のジギスムントの為人をよく表わすものとして、ここに記載したい。

 

「母上、何故、私がここにいるか、すでにご存じでありましょう。全て明らかになっているのです。今の私は、貴方の息子としてではなく、銀河帝国の建国者、偉大なるルドルフ大帝陛下の後継者、人類社会を統治するゴールデンバウム家の新当主として、話をしに参りました。

 

 母上、恥をお知りなさい!嫉妬に駆られ、下らぬ小人の讒言に惑い、夫を追放し、義理の娘を殺害し、息子を傀儡として、国政を恣にしようなどと、偉大なる大帝陛下の娘たる御方が為すべき事ですか!

 

 母上、私を産んで下さった事には感謝致します。愛情を注いで育ててくれた事も理解しております。だが、貴方の愛は私人の愛です。何の責任もない平民ならば、母子が互いの事だけ考え、仲睦まじく暮らすのも良いでしょう。だが、我々は、人類社会の統治という、この神聖な責務を家業として継承するゴールデンバウム家の一族です。我が一族は、自身の事よりも、広く臣民の事を考えねばなりません。統治者として相応しい人物となり、子孫を統治者に相応しい人物に育てる義務があるのです。だからこそ、御祖父様と父上は、私が当主に相応しい人物となれるよう、優れた教師をつけ、切磋琢磨できる学友を与え、厳しくも温かく善導して下さった。それこそが公人の愛なのです。母上、貴方はこの事を理解しておられない。新当主として命じます。母上、新無憂宮内に別邸を用意します。そこで独り、心静かにお過ごしなされませ。時が来れば、私がお迎えに参ります故。

 

 そしてテレーゼ、お前もだ!子たる者、親に誤りがあれば、それを諫める事が真の孝行だ。それを怠り、母上の邪な心を徒に増長させる言動を取るなど言語道断!我ら兄妹の祖父、偉大なる大帝陛下の遺訓に、貴族への訓戒として「人類社会を統治する支配者階級である事を常に自覚し、支配者に相応しい言動を取れ」とある事は存じておろう。お前にも別邸を用意する。そこで独り、御祖父様の訓戒を学び直せ!兄が良いと言うまで、それを続けよ!」

 

 母と妹に事実上の軟禁を宣告すると、侍従長ボーデン子爵以下、宮内省の全職員を召集し、宮内尚書ノルデンは帝室に不敬の行為があった。よって、摂政皇太孫たる自分が宮中の秩序維持のため、自ら兵を率い、彼を処断した。新たな宮内尚書を任命するまで、卿らは侍従長ボーデンの指示に従うようにと訓令。母と妹が軟禁状態に置かれた事を確認すると、逮捕したノルデンを刑場に引き連れ、自身の眼前で銃殺刑に処している。ジギスムントが貴族の名誉たる自裁を許さなかったのは、母や妹を唆したノルデンへの怒りの激しさを窺わせる。この後、ノルデン男爵家は不敬罪を適用されて、家族は死刑、親類縁者は悉く流刑、家門は廃絶、族滅となっている。

 

 なお余談ながら、同男爵家は驕軍帝レオンハルト2世の御代、皇后イザベラが宮内省の規模を拡大するため、多くの下級貴族を宮内官僚に取り立てた際、その内の1人に、恩賞としてノルデン男爵の家名を与えた事で復活している。その後、同家は宮内省内の権力闘争に敗れたため、武官貴族に転身。軍務省や内務省社会秩序維持局の官僚を輩出する貴族家となり、そこで功績を挙げた事で、子爵位に陞爵している。

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