【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第2節 冒険商人ジャン・ピエール・アルドワン

 だが、ここに1人の人物が現れる。彼は自らをラグラン・グループの再来と見なし、かつての地球統一政府と同様、人民を抑圧して、専制的な暴政を行う銀河帝国の打倒こそ、我が一生の目標だと確信していた。彼の名はジャン・ピエール・アルドワン、共同体やシリウスとの密貿易も辞さない、冒険主義的な運送業者だった。以下の記述は、アルドワンとそのグループが社会秩序維持局に逮捕された後に行われた尋問調書、及び同グループに潜入していた軍務省調査局所属の諜報員が作成した報告書等に基づいている。

 

 彼の父カミーユ・アルドワンは連邦末期、星間運輸業を営む独立商人で、同業者が手を出さない、紛争が頻発している辺境域への運送業務を進んで引き受け、周囲からは「スリルが好きなだけの自己破滅型人間」と軽侮されていた。しかし実際は、物流が滞り、基礎的な食料品さえも届かない事で困窮する辺境域の住民を座視する事が出来ず、金銭を度外視して、敢えて危険を冒す義侠心ある人物だった。その性格は息子にも受け継がれたと言えよう。

 

 帝国成立後は、帝国領内での経済活動を許された共同体所属の企業に雇われ、その注文に応じて、共同体製品を帝国各地に運送する仕事を続けた。自由経済を当然とするカミーユの価値観からすると、この時点で自社の所属を共同体、或いはシリウスに移しておくべきだった。しかし、カミーユは世事に疎く、また興味も無い人物だったため、統制経済へと急激に舵を切る帝国政府の方針を全く理解できていなかった。帝国政府も、平定戦役が本格的に開始された情勢もあって、反帝国活動に従事している訳でもない、一独立商人の動向になど大して注意を払っていなかった。

 

 状況が一変したのは、ルドルフが共同体との協約を破棄し、帝国領内での経済活動を一切禁止した帝国暦32年だった。その影響を受け、共同体所属企業からの注文が無くなったカミーユは収入が激減。幸い、商売上の付き合いがあった或る領主貴族が拾ってくれ、貴族お抱えの運送業者として細々と食べていく事は出来た。

 

 しかし、宇宙船乗りにとって銀河系は自由なる海、全人類はユニバースから産まれた平等な存在だと、素朴なユニバース信仰を有していたカミーユ、そして当時すでに成人して、父親の仕事を手伝っていたジャン・ピエール親子にとって、貴族制度を施行し、人間の平等を否定するだけではなく、統制経済を強行して、人民の自由を奪う帝国の政治は、その影響が自分達に及んできて初めて、窮屈で耐えられないものだと実感できたのだろう。これ以降、この親子は雇用主の貴族の目を盗み、共同体やシリウスとの密貿易に手を染め、帝国の打倒、少なくとも自分達が自由に暮らせる国家を確立したいとの意欲に燃え、帝国領内の共和主義勢力に、物心両面の支援を行うようになった。

 

 だが、程なくして、父カミーユは宇宙船の核融合炉事故で被爆、放射能障害で急死してしまう。後を継いだ息子ジャン・ピエール・アルドワン(以下、アルドワン)は、父以上に冒険主義的な性格で、良く言えば理想主義的、悪く言えば空想主義的で、自己の才能と幸運を確信。自分が行う以上、必ず帝国を打倒し、理想的な共和主義国家を建設できると、各地の共和主義勢力を口説き、大同団結させようとした。

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