【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
アルドワンは、自らをラグラン・グループのリーダー的存在だったカーレ・パルムグレンに準え、輸送業務に託けて帝国領内を移動、各地に潜む共和主義勢力のリーダー達と密かに接触した。
彼は、ルドルフ崩御後の混乱を狙い、帝国各地で同時多発的に武力蜂起して、そのタイミングで共同体とその同盟国シリウス、さらには攻守連合の軍隊を引き入れる、帝国軍に二正面作戦を強いて、その消耗を図る、最終的には三国の艦隊により、帝都オーディンを陥落させる…などと語り、かのラグラン・グループはたった4人から出発し、あの強大な地球統一政府を打倒してのけたではないか、今、我々の同志は4人どころではない、必ずや成功すると熱心に説いた。
現在的視点からすると、既に辺境域で余喘を保つだけだった敵諸国の武力を当てにしている時点で、アルドワンの構想は誇大妄想以外の何物でもないのだが、この主張は意外なほど多くの者達に受け入れられ、賛同を得る事が出来た。それは、帝国の支配体制が年々強化され、多くの人民がその支配を受け入れて、むしろ自分たち共和主義者が「危険思想にかぶれた世間知らず」だと、周囲から見なされるようになった事への焦りと苛立ちがあったのではないかと思われる。
そして、帝国成立後、メディアは国営通信社のみとなり、ニュースが帝国政府の公式発表でしかなくなった事で、帝国中枢部の情勢など臣民が知る術は無くなった。勢い、情報源は政府職員や帝国軍人から聞こえてくる噂話しかなく、自らが信じたいものだけを信じる、主観的判断の陥穽に填まっていた事も一因だろう。
また、彼らが好んで拠点を置いた、反シュタウフェン派の領主貴族の領内で広がっていた、ノイエ・シュタウフェン公への誹謗中傷と、彼が帝国政界で多くの貴族や官僚から嫌われ、後ろ盾のルドルフが死ねば、暗殺か幽閉は間違いないなど、その後の歴史を知っている者からすれば、失笑ものの噂話も、その背中を押したかもしれない。
かくして、アルドワンが構築した共和主義勢力による反帝国戦線は、一定の広がりを見せたが、各勢力統一の期限はルドルフ崩御まで、との時間的制約があったため、全勢力を網羅するには至らなかったようだ。
また、残念ながらと言うべきか、その動向はほぼ全て、帝国政府に筒抜けだった。それこそ、病床に臥し、国政から遠ざかっていた皇帝ルドルフの耳にさえ入る程、それは当たり前の情報として扱われていた。
これは、初代軍務尚書シュタウフェン上級大将の腹心で、軍務省調査局長を長く務めたグリューネワルト少将が彼らグループ内部に形成した諜報網の功績とも言われるが、詳細は不明。確かな事実は、全ての貴族・官僚・軍人の注目が帝都オーディンに集まる、ルドルフ国葬の日を以て、帝国領内で同時多発的に武力放棄すると申し合わせた彼らは、その直前、帝国暦42年2月中旬から下旬にかけて、社会秩序維持局の治安維持部隊によって、一斉検挙された事だけだ。逮捕時、抵抗した者は即時射殺。拘束された構成員とその家族は、劣悪遺伝子排除法違反として、奴隷階級に落とされた後、各地の流刑星に移送された。その数は数十万人とも、数百万人とも言われる。
しかし、神の恩寵か、悪魔の加護かは分からないが、急死した母親の葬儀のため、偶然、故郷の惑星に還っていたアルドワンのみ、同志の急報によって逮捕を免れただけではなく、故郷に隠匿していた宇宙船や武器等を持って、辺境域に近い惑星マザンダラーンに身を隠す事が出来た。ここで、彼がシリウスか共同体に亡命を敢行していれば、後世、マザンダラーンの叛乱事件と呼ばれる武装蜂起も起こらなかっただろうが、自己の幸運を確信しているアルドワンにとって、間一髪、帝国当局の逮捕を免れた事実は、自己の運命、即ち帝国打倒の実現を信じさせるに十分だった。