【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第6章 拡大戦役②~対カストル・ポルックス攻守連合戦
第1節 攻守連合側の事情~最後の賭け


 帝国暦42年に勃発したマザンダラーンの叛乱事件と前後して、攻守連合の艦隊が帝国領ムスペルヘイム軍管区への侵攻を開始している。艦艇総数は約1万隻、同国が保有する全艦艇数にほぼ等しいと推測されているが、当時の戦闘報告書によると、老朽艦や損傷艦が多く、往年の戦闘力は既に失われていた。

 

 攻守連合の侵攻が帝国領内での共和主義勢力の武力蜂起と符節を合わせていた事は、逮捕された共和主義者や同国軍捕虜への尋問の結果、間違いの無い事実と思われる。むしろ、同国の侵攻が確約された事で、ルドルフ崩御時の武力蜂起を決定した面もあったようだ。

 

 ただし、惑星マザンダラーンでの叛乱事件を主導したジャン・ピエール・アルドワンに関して言えば、逮捕された同志の証言によると、究極的にはシリウス・共同体・攻守連合3ヶ国の軍隊を帝国領内に導き入れ、その軍事力を以て帝都オーディンを攻略する事を目指してはいたが、攻守連合の侵攻は然程当てにしておらず、むしろシリウスや共同体からの援軍を頼みにしていた事が分かっている。

 

 これは、帝国領内に潜伏する共和主義勢力が決して一枚岩ではなかった事、グループごとの路線対立があった事を示唆するもので、後世、同盟では、アルドワンを帝国の圧政に立ち向かい、共和主義勢力を率いた強力なリーダー、偉大なる革命家として称揚する事が一般的だったが、実際は各グループ間の連絡・調整役で、幹部級の存在ではあったが、複数いる同格の存在をまとめるほどのカリスマ性は無かったようだ。この事もまた、彼ら共和主義勢力が帝国政府によって各個撃破された理由の1つだったのだろう。

 

 これに対する反論として、アルドワンらのグループが攻守連合を当てにしなかったのは、グループ間の路線対立ではなく、単なる地理的な問題だとする見解もある。確かに、アルドワンたちが蜂起した惑星マザンダラーンはシリウスとの国境に近く、攻守連合の位置は帝都オーディンを挟んだ反対側で、直線距離にして数千光年先、ワープ航法を用いても1ヶ月以上かかる遠隔の地だった。しかし、マザンダラーンでの蜂起は、アルドワンにとっては緊急避難的措置に近いので、筆者はこの見解を肯定するものではない。

 

 彼ら共和主義勢力の蜂起と時を同じくして、帝国領への侵攻を開始した攻守連合だが、それは勝利への確信に満ちた進軍ではなく、乾坤一擲の勝利を望む、投機的性格が強いものだった。

 

 同国は帝国暦31年、リヒテンシュタイン大将率いる帝国遠征軍に大敗。盟主の1人、ポルックス人民共和国のロブコフ主席が戦死しているが、それ以降、その国力は急速に低下している。もともと、軍閥化した連邦軍や軍事会社(傭兵集団)、果ては武装化したマフィアなど、種々雑多な武力集団の集合体だった同国には、反ルドルフ、反帝国以外の国是やイデオロギーは無く、軍事的勝利を重ね、国民を高揚させ、そして戦利品等の形で利益を与え続けなければ、国家の求心力を維持できなかった。

 

 そんな軍事偏重の国家が帝国軍に大敗した結果、求心力が低下し、離反者が続出する事は自明の理だった。事実、敗戦以降、帝国に帰順する集団は増加の一途を辿っている。著名な事例では、同34年、カストル軍政府のスー・ディン・ファン総統が病死、後継者争いに敗れた三男スー・ウェイ・ダオが直属の部下たちと共に帝国に亡命、ノイマン侯爵の爵位が与えられている。

 

 また、史料上の記録には乏しいのだが、同国の統制を離れて、後世、サルガッソ・スペースと呼ばれる航行不能宙域を目指して逃亡する集団も多数、存在したと見られている。なお余談ながら、この危険宙域の向こうに広大なサジタリウス腕が広がっている事は帝国当局も認識はしていたようだ。だが、連邦末期の時点で、当時の人口数に対し、居住可能惑星は十分以上の数が確認されており、むしろ経済的事情で開発が中止されている例が多かった。よって、危険宙域探査の危険を冒してまで、サジタリウス腕の開拓に乗り出す必要性は無かった。この事が将来、銀河系に同盟建国の余地を残す結果になったと言えるだろう。

 

 低下し続ける国力の現状を考えるならば、まだ辛うじて帝国軍と戦える間に、何としても一度、圧倒的な軍事的勝利を収め、その勝利を以て自国の存続を認めさせるべきと、武断的な方向に国論が傾く事は、軍事国家である攻守連合にとり、もはや必然だったのかもしれない。病死したスー総統の長男で、同国最高指導者の地位に就いたディビット・スーも、出兵止む無しとの態度を示した。

 彼は、故スー総統が愛人に産ませた非嫡出子であったため、嫡出子である事を誇っていた三男ウェイ・ダオにこそ背かれたが、能力と人望を兼ね備えた優れた人物で、将兵の支持も厚く、亡国の危機に瀕する祖国を救って欲しいと、父親の旧部下のみならず、ポルックス人民共和国の有力者からも期待された結果、最高指導者の地位に就いている。だからこそ逆に、帝国への出兵を求める国論に抗する事は出来なかったのだろう。そんな彼らにとって、ルドルフ崩御によって生じるだろう帝国の混乱、そして帝国領内での共和主義勢力の一斉蜂起は、最後のチャンスだった。

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