【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
攻守連合との戦争を自家と一門の勢力拡大の手段としたノイエ・シュタウフェン公だが、結果的に言えば、それは必ずしも否定されるだけのものでは無かった。
まず、同公爵自身が優れた軍人政治家であり、一門と自派閥に属する軍人や官僚を優先したと言っても、いわゆる情実人事で無能、不適格な人材を登用したのではなく、戦役に従軍した軍人や官僚はほぼ例外なく、同公の眼鏡に適った有能な人物でもあった。シュタウフェン派は、創設者の初代軍務尚書シュタウフェン公エリアスが無能者を激しく嫌悪する為人で、一定以上の能力の持ち主でなければ、そもそも属する事自体が難しかった。
そして、軍隊内の上下関係のみならず、派閥や一門内の力関係は、我が強く、他者の指図を好まない貴族達を強く統御する軛ともなった。一例をあげると、傲岸不遜な自信家だったノイマン侯アルベルトも、帝国への亡命の際、ノイエ・シュタウフェン公が引受人となった縁で、同公爵家の一門に属しており、流石に一門党首である同公の命令にだけは従ったと云う。
また、遥か後世の例だが、前述したクロプシュトック侯爵への討伐軍内で、略奪暴行を行ったブラウンシュヴァイク公の一門に属する青年貴族を軍規違反の罪で処刑したミッターマイヤー首席元帥が、その行為をブラウンシュヴァイク公らに憎まれ、同公の甥フレーゲル男爵に謀殺されかかった際も、同公の腹心アンスバッハ准将が「いますこしの自重を望む」との同公の意思を伝えた瞬間、同男爵がその矛を治めざるを得なかった事は、一門内の上下関係の厳しさを窺わせるに足る。
結果として、遠征軍内の上意下達が厳守されて、総司令官ノイエ・シュタウフェン公の指示が的確だった事もあり、占領政策が円滑に進んだ面は否定できない。
さらに、当主の後継者になれなかった貴族家の次男、三男らが従軍した事で、今まで埋もれていた人材が発掘されて、有為な若手貴族達が政府や軍に登用される機縁ともなった。実際、拡大戦役後、彼らの中から親政開始したジギスムント帝を補佐した政治家や官僚、軍人らが生まれてもいる。さらに、私兵を有する領主貴族らの従軍を促した事で、帝国正規軍の損耗を減らし、軍事費の削減が図れた面もあると、旧帝国の政治史や軍事史を専門とする歴史家は指摘している。
しかし、上記の如き利点は確かにあったが、特定の貴族家が勢力の拡大を図る、という目的がある以上、この手法が皇帝の支配権確立を阻害する要因となる事も自明だった。多くの貴族家を束ねる大諸侯の存在は、皇帝の地位を脅かしかねないからだ。また、従軍した貴族たちが自家の権益確保を最優先した結果、敵対勢力と現地住民に帝国の支配を認めさせて、帝国皇帝の命令に従わせる、この大原則さえも蔑ろにする事例が発生した。
攻守連合領の制圧が終わりに近づくにつれ、手柄を焦った一部の貴族達は、未だ占領されていない星域に進出すると、現地の有力者と裏取引。現在の支配体制を変更する必要は無い、帝国に表立って反抗さえしなければ、帝国の法律や制度に従う必要も無い、今までと同様の生活を保障すると持ちかけ、その代わりに、現地有力者達から「帝国に降伏致します。ついては、我らが住まう星系の保護者に、〇〇様(当該星系に侵攻した貴族)をお認め頂きたい」と、事前に作成してもらっていた、総司令官ノイエ・シュタウフェン公の推薦状を添えて、帝国政府に嘆願書を提出させた。
この結果、領地も爵位も持たない貴族が、一気に爵位を持つ領主貴族となる事が出来た。彼らは取引した現地有力者に「代官」「支配人」「家宰」などの肩書を与え、今まで通りの統治を許す代わりに、税収の一部を上納金として要求した。彼らの多くは、僻遠の領地に住む事を好まず、帝都オーディンほか、中央星域に近い場所で生活する事を選んだ。その姿は所謂「不在地主」そのものだった。貴族領の統治には皇帝と雖も原則介入できなかったので、当時の辺境域には、名目だけの帝国領で、実際は民主共和制によって統治されていた星系が相当数、存在していたのでは?と考えられている。
拡大戦役の目的は、前述の通り、現地住民を農奴として帝国領に移住させる労働力確保であり、そのためには現地勢力と妥協的な取引も敢えて行ってはいたが、それはあくまで、帝国の支配体制に組み込む事が大前提だった。皇帝としての責任感と使命感を強く持つジギスムントにとって、全人類は悉く帝国臣民であり、彼らを統治するのは全宇宙でただ一人、帝国皇帝のみだった。如何に支配者階級と雖も、帝国と臣民との間を貴族が遮り、臣民が皇帝を意識しないなど、あってはならない事だった。そして、攻守連合征服の裏面で、かかる不敬行為が行われていた事、ジギスムントは明確に認識していた。