【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
まず、ジギスムント帝が行った事は、自身の即位時、クーデター未遂事件を起こした母カタリナ、妹テレーゼとの和解だった。
クーデター未遂への懲罰として、新無憂宮内の別邸で軟禁状態を強いられていた母娘は、重要な国家行事などには参列を許されていたが、貴族としての交際も出来ず、ジギスムントが手配した侍従や侍女に監視され、自由な行動は制限されていた。生来、活動的な性格だったカタリナ、そして派手好みで享楽的な為人のテレーゼ、この2人にとって、この軟禁生活が極めて苦痛だった事は想像に難くない。
しかし、普段は生真面目で大人しいが、本気で激怒した時の息子、そして兄の苛烈さを思い知らされた2人には、再び陰謀を巡らせる勇気、いや度胸は無かった。その2人にとって、ジギスムントが謝罪、和解を申し入れてきた事は、まさに干天の慈雨に等しかっただろう。
抑も、この2人にジギスムント個人への憎悪は乏しかった。不仲となったノイエ・シュタウフェン公への反発と、ジギスムントが夢中になっている皇后アデルハイドへの嫉妬がクーデター未遂の主な動機で、それを宮内尚書ノルデンらが扇動した、という側面が強かった。
プライドの高い性格だった2人は、今や皇帝となったジギスムントと、皇后アデルハイドに頭を下げられ、今後は先帝陛下の長女、今上帝の母親、そして同母妹として尊重致しますと誓約された事により、その自尊心が満たされたのだろう、軟禁生活に倦厭していた事も手伝い、簡単に過去の因縁を水に流している。
ただ、夫そして父親ノイエ・シュタウフェン公の怒りを恐れる2人に対して、ジギスムントは「家族の和合は帝国の誇るべき美風だと、先帝陛下たる御祖父様も度々宣言しておられた事です。私達家族は過去、些細な食い違いで、離れて暮らさざるを得ませんでしたが、今こうして和解できた事、ヴァルハラに居られる御祖父様もお喜びのはずです。父上にはゴールデンバウム家の当主たる私から話をしておきます故、母上達が心配される必要は何もございません」と語っている。この態度に感激した母カタリナと妹テレーゼは、これ以降、ジギスムントに依存、その指示に盲従して、結果的にだが、苛烈な権力闘争に巻き込まれる事も無く、安楽に生涯を全うしている。ただ、それは見方を変えれば、ジギスムント帝の政治的な駒に成り下がった、という事でもあったが。
この時、ノイエ・シュタウフェン公は帝都を離れて、遠くアルヴィース軍事基地で攻守連合征服の陣頭指揮を取っていたが、ジギスムントは超光速通信でその日の内に連絡。この一件を報告し、以下の通り語っている。
「母上とテレーゼのやろうとした事は確かに許し難いですが、あの事は貴族社会で公然の秘密となっております。あの2人をいつまでも罪人扱いする事は、帝室の醜聞を晒し続けている事にも等しいでしょう。母上を傀儡として帝国を壟断しようとした奸臣どもは既に誅殺されました。母上とテレーゼには政治的な力量などありません。これ以上、皇族間の不仲を満天下に晒し続ければ、それに乗じて、帝国を混乱させようと企む不逞の輩が再び表れるやもしれません。ならば、和解した姿を見せ、ゴールデンバウム家の和合と絆の強さを臣民達に知らしめるべきでしょう。
また、ここから皇帝では無く、息子としてお話しさせて頂きますが、両親の不仲は子として辛いものです。今までの経緯もありますから、すぐに和解して欲しいとは申しません。ただ、母上もテレーゼも寂しかったのではないでしょうか。父上からも歩み寄って頂きたいのです」
完全な正論である以上、ノイエ・シュタウフェン公も反対は出来なかったのだろう。もともと、青少年時代はカタリナを妹同然に溺愛していた同公にとっても、妻と不仲のままでいる事は内心、忸怩たるものがあったのかもしれない。別居状態こそ解消しなかったが、これ以降、ノイエ・シュタウフェン公とカタリナは公爵夫妻として、連れだって行動する姿を再び見せるようになっている。
この結果、帝室主催のパーティや舞踏会、園遊会など、皇帝が私的に行う催事では、母親カタリナと妹テレーゼを伴って、家族同士、仲睦まじく談笑する皇帝夫妻の姿が見られるようになった。また、大貴族らが主催するパーティ等でも、皇帝の名代として母親カタリナ、または妹テレーゼが出席する事が増えている。
ただ、これを単に家族間の融和が目的だと考える事は、ジギスムントの真意を理解していないと言わざるを得ないだろう。先帝ルドルフと異なり、自身の内心を吐露する書簡などを残していないジギスムントの真意を窺う事は難しいのだが、日記等に書かれた断片的な記述を総合すると、同帝の真意はクーデターを企図した母親と和解した姿を貴族たち、特にクーデターに密かに参加、または賛意を示していたであろう、反シュタウフェン派の貴族たちに見せつける事だった。