【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第3節 皇帝ジギスムントの策謀②~反シュタウフェン派の免罪

 クーデター鎮圧時、正式に逮捕された者は十数名に留まったが、密やかな粛清活動が行われた節がある。クーデター派と接触していた貴族らは、その事実を消す事は出来ず、いつ、その事を理由に罪に問われるか、または密かに粛清されるかもしれない、この恐怖と不安の故、彼らは挙って新帝へ帰服し、忠誠を誓った事は前述の通りだが、ジギスムントはクーデター首謀者たる母と和解した姿を見せる事で、彼らクーデター賛成派―それはほぼ反シュタウフェン派と重なる―に向かって、首謀者だった母と余は、こうして和解した。主犯の罪を許した以上、この件で卿らの罪を問う事はしない、という密かなメッセージを送った、これが筆者の見解である。

 

 即位当時、父親ノイエ・シュタウフェン公が領袖を務めるシュタウフェン派を政治的基盤とする同帝にとり、反シュタウフェン派はその基盤に罅を入れ、帝国の支配体制を混乱させかねない要因でしかなかった。しかし、今や父親の派閥に対抗するため、自前の政治勢力を築く必要に駆られたジギスムントには、敵の敵は味方、との言葉通り、反シュタウフェン派の支持と忠誠を得る必要に迫られていたと言えよう。

 

 では、今まで通り、クーデター参加との罪状を仄めかし、恐怖で彼らを支配すれば良いのではないか、と指摘する向きもあるかもしれない。だが、それはジギスムントの見識を侮辱するものだと言わざるを得ない。恐怖だけによる支配―被支配の関係は、その恐怖を上回る希望が与えられれば、容易く解消されてしまうからだ。

 

 例えて言うならば、Aという人物が暴力を行使して、Aより弱い存在Bを脅迫し、支配していたとする。この時、Aを上回る暴力を有する人物Cが現れて、Cは圧倒的な暴力を以てAを脅迫、Bへの支配を止めるように要求したとしよう。さて、この時点でBはAの支配に服するだろうか、答えは否であろう。自身への暴力が不可能になった時点で、BにはAに従う如何なる理由も存在しないからだ。

 

 暴力や武力によって生じる恐怖だけに頼る支配は、それを上回る暴力や武力によって容易に崩壊する。ジギスムントは、その事を熟知していたと言うべきであろう。無論、支配―被支配の関係を律する大きな要因が暴力である事は理解していただろうが、ジギスムントが目指したのは、暴力を前提としつつも、それを意識させない支配体制、被支配者側の積極的な理由により、帝国と皇帝の支配を受け入れる支配―被支配関係だった。

 

 この件で言えば、内心の恐怖と不安を除去してくれた皇帝に対し、反シュタウフェン派の貴族達が感謝の念を抱く事で、その支配に協力して、忠勤に励もうという積極的な動機が生まれる。少なくとも、もう罰せられる事は無いのだという安心感は、平穏な日常生活の価値を再確認させて、それを守ろうとする皇帝の支配を是とする心の動きに繋がるだろう。ジギスムントは大帝遺訓の中でも「臣民に対する際は、恩威並びに行い、清濁併せ呑む度量を持て」との条文を特に好み、自身の座右の銘としていた事が伝わっているが、恩と威、俗な表現を用いれば、アメとムチの巧みな使い分けが政治家ジギスムントの真骨頂だった。

 

 しかし、反シュタウフェン派の心情的な支持を得ただけで、帝国軍を掌握するシュタウフェン派に拮抗できると思うほど、ジギスムントは楽天的な為人ではなかった。数は力だが、数は組織化されてこその力でもある。冷徹な政治家ジギスムントがその事を理解していないはずはなく、次に標的としたのは枢密院、即ち領主貴族たちだった。

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