【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第4節 皇帝ジギスムントの策謀③~領主貴族を篭絡

 先帝ルドルフの御代、シュタウフェン派が占領地の復興を優先すべきと主張、領主貴族らへの農奴の割当削減を図った事で、一部の領主貴族が憤激、関係が深い国務官僚などの文官貴族、また軍内の反シュタウフェン派らと密かに語らい、彼ら領主貴族が反シュタウフェン派を掲げる一大勢力となっていた事は前述の通りだが、彼ら領主の帝都における牙城は、言わずと知れた枢密院だった。

 

 先帝ルドルフは、増長した貴族らとの妥協の産物だとして、枢密院の存在をあまり好ましく思わず、総会への臨席も稀だったが、ジギスムントはその方針を逆転。彼らが枢密院内に形成する派閥を自身の与党とするべく、むしろ進んで枢密院議員と語らい、スケジュールが許す限り、総会にも積極的に臨席した。

 

 領主貴族との間にとかく隔意があった先帝ルドルフとは違い、領主達の意見や要望に耳を傾けて、その内容を政治に反映させようとの姿勢を見せるジギスムントは、領主らの信頼を得て、枢密院議員の多くは、皇帝派とも呼べる存在になっていった。当時の枢密院議長は、ノイエ・シュタウフェン公爵家の一門に属するビューロー伯爵家の当主ディートハルトだったが、同伯爵の孫はジギスムントの従弟で、学友でもあるアンドレアス。その母親は先帝ルドルフの三女で、ジギスムントの叔母たるアグネス。帝室との縁も深い同家は、少なくともジギスムントの動きを掣肘する事は無かった。

 

 彼ら領主達の中には、陛下をお守りする近衛兵に加えて欲しいと、自家の私兵集団を差し出す者、陛下の直臣として使役して欲しいと、自家の優秀な家士や従臣を帝都に移住させる者、陛下の御料地としてお使い下さいと、自家所有の景勝地や鉱山等を献上する者など、皇帝への忠誠心を形で表わそうとする者達も現れた。

 

 無論、彼らは無私の忠誠心の結果として、このような行為に及んだ訳では無い(そういう人物が全く存在しなかったとは断言できないが)。彼らの目的は皇帝の歓心を得て、帝国政府や軍に強い影響力を及ぼすシュタウフェン派に対抗できる政治的な後ろ盾を持つ事だった。

 

 同派の領袖が筆頭重臣たる帝国宰相ノイエ・シュタウフェン公である以上、それ以上の政治権力者は皇帝ジギスムント以外にあり得ず、シュタウフェン派に否定的な領主、ひいてはクーデターに関与、賛意を示してしまった者達などは、自己保身の感情も手伝い、挙って皇帝への忠勤に励んだのは、むしろ当然だっただろう。いや、彼らの忠勤が私兵や人材、鉱山などの献上と、物質的な側面で行われたのは、それが最も分かりやすいという事だけでは無く、ジギスムント側からの密かな使嗾があった可能性もある。

 

 ジギスムントは即位後、各省の官僚として任官した自身の学友達を宮内省秘書職に出向させて、政務秘書官に任命。彼ら秘書官達は、帝国領内の各所に出張、現地の総督や領主と懇談し、現地の「生の声」をジギスムントに報告する役目を担ったが、この時、秘書官達は皇帝の非公式の使者として、各地の領主貴族らに皇帝の意向を密かに伝達する役割を担ったのではないかと思われる。

 

 宮内省に残る当時の史料によると、彼ら秘書官達が訪れた領主貴族は、シュタウフェン派に属していない者が多く、秘書官の来訪を受けた領主らは、皇帝陛下への忠誠の証として、私兵や人材、鉱山等を献上した者が多々存在する。献上を受けたジギスムントは、その忠誠心を嘉するとして、帝室伝来の美術品や工芸品を下賜。また領主の子弟に爵位を与え、独立した貴族家の創設を許す事もあったが、当主の後継者になれなかった一族男子の進路に悩んでいた領主達は、この事を狙って、更なる忠勤に励む者も多かった。

 

 ジギスムントが領主から私兵や人材、鉱山などの献上を求めた意図は何か。同盟の歴史学界などでは、皇帝の権力を目に見える形で示したかった貪欲さの表れ、などと言われていたが、筆者はこの見解を否定したい。何故なら、権力者にとって、自分にのみ忠誠を誓う部下と、自分の一存で自由に扱える武力と財力は、何よりも貴重だからだ。そして、優れた政治家でもあったジギスムントは、この事を理解していただろうからだ。

 

 シュタウフェン派の領袖というだけではなく、数多の貴族家を従家として抱えるノイエ・シュタウフェン公爵家の当主でもある父親は、莫大な富と私兵集団の保有者でもあった。名目上、帝国にある物は全て皇帝の所有物ではあるが、それが単なる建前でしかない事は、誰よりもジギスムントが理解していただろう。

 

 歴史上、豊かな財力と強大な武力を持つ権臣が無力な皇帝を蔑ろにし、国政を壟断する事など珍しくもない。銀河帝国がその悪しき先例に倣わないとは、残念ながら断言する事は出来ない。史料上の根拠など無いが、現実主義者であったジギスムントは、父親が野心に駆られる、または自己保身に走り、皇帝たる自分を弑逆、銀河帝国を簒奪する可能性さえ考慮していたのかもしれない。遙か後世からの視点ではあるが、自分の死による混乱を最小限に抑えるため、ノイエ・シュタウフェン公に過度の権力を与えて、その結果、同公による簒奪も止む無しと、密かに考えていた先帝ルドルフの真意を知る我々からすれば、ある意味、ジギスムントの「懸念」は正鵠を射ていた。

 

 父親の事を敬愛していたであろうジギスムントだが、愛妻たる皇后アデルハイド、そして皇后との間に儲けた皇子リヒャルト、ゴールデンバウム家の家長として、自らも家族を持つ身となった以上、唯々諾々と父親の意向に左右される訳にはいかなかった。自分と家族たちを守り、皇帝との立場を守るためにも、自前の武力と財力を欲した、これがジギスムントの真意だったのではないかと、個人的には考えている。

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