【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

56 / 147
第8章 拡大戦役④~対シリウス民主共和国・汎オリオン腕経済共同体戦
第1節 ヴェガ星域会戦の後遺症


 攻守連合滅亡後、銀河帝国の次なる標的はシリウス民主共和国、そして汎オリオン腕経済共同体だった。この両国を討滅すれば、帝国は文字通り、人類社会を統治する唯一の国家となれる以上、その矛を収めるという選択肢は存在しなかった。

 

 だが、地球統一政府、銀河連邦に続く、全人類を支配下に置く巨大国家が再び誕生しようとしているのに、その掉尾を飾る拡大戦役の後半戦は、ごく一部を除けば、先帝ルドルフ治世時の平定戦役と同様、華々しさの欠片もない、日常業務の遂行の結果、という風情だった。例えるなら、帝国の脅威という風雨に晒された砂の城の如く、両国は半ば自滅していった。

 

 その原因は、前述の通り、両国への遠征を自己の政治的基盤の確立に活用したジギスムント帝の意向もさることながら、既に統治能力を喪失し、国家の残骸という状態に成り果てていた両国の国内事情に拠る所も大きい。

 

 まず、帝国の遠征に先立ち、既に滅亡寸前だった両国の国内事情について解説していくが、敗戦国である両国に関する史料は極めて乏しく、以下の記述は帝国政府の公式記録、及び遠征軍に関与した軍人や政治家、官僚らが書き残した報告書や日記等に基づくため、戦勝国民によるバイアスが掛かっている可能性は否定できない。読者諸氏にはその点だけご了解頂ければ幸いである。

 

 さて、建国当初は帝国と互角、いや団結力や経済力では、ともすれば帝国を上回っていたかもしれない両国の凋落が始まったのは、帝国暦32年、共同体所属の企業に帝国領内での経済活動を許す協約の破棄、それによって生じたヴェガ星域会戦での大敗が原因だった。

 

 主力艦隊が壊滅し、主要な提督らも戦死した結果、両国は帝国の侵攻に対処する防衛戦力をほぼ完全に喪失した。この大敗が国民に知られる事が無いよう、両国とも報道管制を行ったようだが、帰還した軍人や軍属らの口を完全に塞ぐ事など出来るはずも無く、僅かの間に主力艦隊壊滅の情報は両国内を席巻した。

 

 両国民達は、帝国が今にも侵略してくるのではないか、その恐怖に怯え、デモや暴動を起こして政府に対応を要求する者、今のうちに辺境域へ逃亡しようとする者、酒や女、合成麻薬など目先の快楽に溺れて、現実逃避を図る者、社会は騒然となり、治安は急速に悪化していった。

 

 両国政府は、国民生活の立て直しと引き締めを図る必要があると、それぞれのやり方で、治安回復と国民生活の安定に乗り出した。シリウスは、如何なる理由があれども暴力行為は容認できないと、暴力的なデモや暴動を厳しく取り締まる一方で、民主共和制の正当なる事を説き、人民の自由と平等、人権を踏みにじる帝国への抵抗は、我々民主共和主義者の責務だと、国民の使命感を喚起しようとした。

 自由経済を至上とする共同体は、帝国が進める統制経済の害悪を喧伝、帝国の支配を受け入れてしまえば、我々が正当な経済活動の結果として得た富を全て奪われてしまう、自分達の財産を守るためにも、団結して帝国の侵攻に対抗しなければならないと、国民の利害得失に訴えていった。

 

 しかし、効果は乏しかった。如何に自分達が正しいと主張した所で、現実には帝国の侵攻を食い止める力が無い以上、それは負け犬の遠吠えでしかなかった。両国民は、メディアを通じて、帝国侵攻に対処出来る具体策の提示を政府に要求したが、両国政府の公式発表は「責任の重大さを痛感する云々」と、具体性を欠く空疎な言葉でしかなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。