【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
「帝国暦40年代末、経済関係の官庁に勤務していた時、食料など生活必需品の生産と流通が滞り、深刻な生活苦に陥った人達が一部の活動家に扇動されて、政府備蓄物資の放出を要求する暴力デモを繰り返しました。担当官の1人だった私は、政府の備蓄物資は国防を担う軍隊に優先支給せざるを得ないのです、生活困難になった皆様には申し訳ないと思っていますが、これは政府の決定なのです。皆様の苦境は必ず議会に報告し、何らかの対処を求めます。皆様も私も、民主共和制を奉じる同じ国の人間、同胞ではないですか。対話による相互理解こそ民主主義の基本ではありませんか、どんなに苦しくても、話し合えば必ず分かり合えます、だから…と語ったところ、デモ参加者は挙って「分かり合いたくないんだよ!お前らみたいな特権階級の寄生虫どもと!」と激語して、私達に投石や発砲を繰り返してきました。あの時でしたね、私欲を持ち、自身の激情に操られる人間という存在に、民主主義は無理なのだと悟ったのは」
この人物はシリウス滅亡時、ジギスムント帝に忠誠を誓い、帝国軍の占領政策に進んで協力した後、その功績と能力を認められて、財務省の一官僚として平穏に生涯を全うしたと云う。
あくまで帝国側史料に基づく見解ではあるが、両国首脳部は連邦末期、ルドルフが急速に台頭して、多くの貧困層から熱烈に支持された理由が全く理解出来ていなかったと断じざるを得ない。いや、両国由来の一次史料がほぼ全て消失している今、そう断じるのは早計かもしれない。上記の挿話にしても、民主共和制を殊更に貶め、皇帝専制の優位性を称揚するための捏造である可能性は否定できない。
また、軍務省の内部資料によると、両国には同省調査局の工作員が多数潜入、その中には流言飛語による社会不安の醸成、暴力デモやテロ行為の扇動による治安悪化、帝国に帰順すれば食べきれない程の食料を支給してもらえる上、住む所も着る物も、仕事さえも貰えると、密かなプロパガンダを任務とする者達も存在したとあるので、両国の混乱は必ずしも自然発生的なものだけではなく、帝国政府による工作活動の結果という面もあるかもしれない。
確かな事実は、両国は銀河連邦の国是たる民主共和制と自由経済、その正当なる事を訴えつつも、その負の側面とも言うべき、衆愚政治の横行と貧富の格差という問題を解決する事が出来ず、連邦と同じ轍を踏んでしまったが故に、その結末も同じにならざるを得なかった、という事だろう。