【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第4節 シリウス遠征軍の帰還~皇帝ジギスムントの勅令

 帝国暦46年、前年に攻守連合を滅ぼし、帝都に凱旋したばかりの帝国宰相ノイエ・シュタウフェン公は、再び遠征軍総司令官の任を帯び、シリウス民主共和国への進撃を開始した。それと同時に、帝国政府はシリウス政府に宣戦を布告。理由は帝国暦42年、かのマザンダラーンの叛乱事件に際し、シリウスの国境警備隊が帝国領を侵犯した事だったが、それが単なる名目でしかないのは誰の目にも明らかだった。

 

 ノイエ・シュタウフェン公率いる遠征軍は、攻守連合との戦闘で損害を受けてはいたが、それでも2万隻弱の数を有していた。また、帝都への凱旋に先立ち、アルヴィース軍事基地で入念な整備と潤沢な補給を受け、副司令官ノイマン侯爵以下、全将兵が十分な休養を取っており、当時の人類社会では最大最強の精鋭部隊と言っても過言では無かっただろう。

 

 対して、シリウス・共同体両国には、帝国軍を迎撃できる纏まった艦隊戦力はすでに無く、数十~数百隻単位の小艦隊がゲリラ戦を展開するのが精一杯という有様だった。帝国軍は、それらの微弱な抵抗を文字通り爆砕して進撃。侵攻開始後、僅か一か月足らずで、シリウス傘下のカノープス星系政府を降伏させると、同地を皇帝直轄領に編入。シリウス侵攻の橋頭堡とするべく、軍事基地化を開始した。

 なお余談ながら、カノープス星系は、太陽系以外で最初に居住可能惑星が発見された場所で、同星系への移住を以て、人類社会は恒星間航行時代を迎えた。将に宇宙時代の黎明を象徴する星系だったが、人類発祥の惑星たる地球と同様に、当時は既に資源も枯渇、人口も数万人程度しか存在しない、衰退しきった星でしかなかった。

 

 今までの帝国軍ならば、遠征軍総司令官が策源地に留まり、敵国占領の陣頭指揮を取る事が定石だったが、このシリウス遠征では様相が異なった。帝国暦46年、カノープス星系の軍事基地化が開始されると、ジギスムントは勅令を発し、遠征軍の帰還を命じている。その時の勅令全文を以下に引用する。

 

 

 今、全宇宙の現況を慮るに、我が帝国に逆らいし敵国、カストル・ポルックス攻守連合は既に無く、シリウス民主共和国・汎オリオン腕経済共同体は、我が忠勇なる帝国軍将兵の進撃を遮る事できず、辺境域に僅かな余喘を保つのみ。さらに、帝国宰相ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒム以下、遠征軍将兵の勇敢なる働きにより、両国の艦隊戦力は壊滅、我が帝国が全宇宙を完全に支配する事は、既にして牢固たる事実と成れり。

 

 故に、銀河帝国皇帝たる余ジギスムントは、茲に遠征軍の帰還を命じる。連年の出兵により、帝国軍中央艦隊は損耗著しく、将兵の疲労もまた甚だしい。更に将兵を支える臣民の負担も一方ならず、常に愛民の念を抱く余は、この事を看過する能わず。既にしてシリウス・共同体両国は、国家たるの体を為さず、その瓦解は目睫の間に迫れり。大兵を連ねて、両国へ侵攻せんとするは、鶏を割くに牛刀を用いるに等しい。今は民力休養の時なり。遠征軍将兵を帝都に還し、家族と共に憩いの一時を与えん。また遍く臣民には、之までの精勤を嘉し、賦課を減免せん。余が意は斯くの如くなり。

 

 嘗て、偉大なる先帝陛下は「不戦にて敵国を屈服させる事こそ最上なり」との格言を是とす。余もその顰みに倣い、戦わずして両国を屈服させん。ヴァナヘイム・アルフヘイム・スヴァルトアルフヘイム各軍管区の兵をして、その国土を蚕食し、その人民を帰服させ、我が帝国の農奴とせよ。更に両国の有力者を調略し、帝国へと帰順させ、国情の動揺を図れ。国力の減退が極まりし時、精強無比なる我が軍の一隊を以て、両国国都を攻囲し、敵首魁をして城下の盟を請わしめん。此れ不戦にして必勝の策なり。

 

 また顧みるに、先帝陛下の御代より、戦塵に塗れ、激烈なる砲火にも怯懦の念無く、帝国と皇帝の為、更には臣民の生存と安寧の為、身命を賭して勇戦したる我が軍将兵の勲は、万言を以てしても語り尽くせぬ。余は、卿らの忠勇を深く嘉するものなり。然るに、忠勇なる我が軍将兵と雖も、永遠に戦場に立つ事能わず。偉大なる先帝陛下も、今や天上(ヴァルハラ)に居を移せり。我が帝国の支配を堅固ならしめ、我が臣民の生存と安寧を守護するは、忠勇なる我が軍将兵を措いて他にあらず。帝国の基たるべき我が軍将兵を永遠に存在せしめるため、老練なる将兵は師となりて、若く強健なる将兵を善導し、彼らの後見たるべし。

 

 茲に、銀河帝国皇帝たる余ジギスムントが特に命じるものなり。卿ら拳拳服膺し、決して余の意思に違う事勿れ。

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