【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
本勅令を発したジギスムントの意図は明らかだろう。これまで、反シュタウフェン派の貴族達の支持を得るため、母カタリナと和解し、枢密院との関係を深めて、自身の政治的基盤の確立に腐心してきたジギスムントにとって、ノイエ・シュタウフェン公爵家の一門に属する貴族家で固められた遠征軍を放置しておけば、攻守連合征服時と同様の事態に陥る事は、火を見るより明らかだったからだ。よって、遠征軍を帝都に帰還させ、事実上の解散とし、今後の征服事業の主導権をノイエ・シュタウフェン公から奪取する事、これが勅令の目的だったと思われる。
そして、遠征軍帰還の理由―劣勢な敵国に大兵力を使う必要は無い。十分に弱らせてから、一撃して降伏させれば良い―は、先帝ルドルフの軍事思想そのものであり、父親ノイエ・シュタウフェン公同様、孫のジギスムントも、ルドルフの軍事思想を継承している事を窺わせる。
同時に、勅命の権威を高めるため、意図的にルドルフの思想に言及した可能性も高い。帝国暦46年から、ノイエ・シュタウフェン公が死去、完全な親政を開始した同55年まで、ジギスムントには、自身とルドルフの関係性を強調する言動が目立っている。
一例を挙げると、この時期に描かれた皇帝肖像画の構図の変化が指摘できる。ジギスムント即位当初に描かれたものは、画面中央に新帝ジギスムント、画面左側後方に父親ノイエ・シュタウフェン公、画面右側後方に母親カタリナを配する構図が主流だった。しかし、帝国暦46年以降に製作されたものは、画面中央のジギスムントの背後に、先帝ルドルフとその皇后エリザベートが立ち、ノイエ・シュタウフェン公とカタリナは、それぞれルドルフとエリザベートの脇に控える、との構図が増えてきている。
これは、ノイエ・シュタウフェン公の息子という事実よりも、先帝ルドルフの孫、後継者との点を強調する事で、後見人たる同公の影を払拭したいジギスムントの意向だったのではないか、と考えられる。それは「ゴールデンバウム=ノイエ・シュタウフェン朝」とも評されたジギスムントの治世前期が終了、ゴールデンバウム家が銀河帝国の権力を独占し、再び「ゴールデンバウム朝」へと回帰する動きの一つだと言えるかもしれない。
なお余談ながら、皇帝や皇族、貴族の肖像画は、誰が描かれているのか、また誰が大きく描かれて、誰が小さく描かれているのかなど、人物の大小や画面構成等から、製作当時の人間関係や、政治上の力関係を窺い知る事が出来る貴重な史料なのだが、旧帝国では不敬罪の名の下に、肖像画の図像学的研究を行う事は出来なかった。美学美術史の観点だけではなく、是非、政治史の観点からも研究が進展する事を期待する。
さらに、ルドルフの御代から従軍している将兵達を称揚すると共に、若き将兵の師となり、後見役になれと命じている事は、シュタウフェン派に属する古参の軍人達へ引退を仄めかすものだろう。勅令を起草するジギスムントの脳裡にあったのは、先帝ルドルフの御代、帝国宇宙軍随一の知将と賞賛された、自分の父親の姿だったかもしれない。自分が後見人たる父親の影響力を排除して、親政を目指しているように、先帝恩顧の軍人達を退け、自身の影響下にある若手の軍人に、次世代の帝国軍を作り上げて欲しい、そのための道筋を付けたい、というジギスムントの意向が垣間見える文章と言える。