【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第5節 帝国軍人ヨハネス・フォン・ヴィンクラー②~「飢餓作戦」の実施

 彼らの動きは後段に譲るとして、本節ではヴィンクラー中将が指揮したシリウス・共同体の征服事業の推移について述べたい。

 

 帝国暦47~50年にかけて、同中将は両国傘下の小国家や星系政府を攻略すべく、数百隻単位の艦艇で構成された艦隊群を編成。両国が支配する星系間の交通を遮断、孤立させるため、一辺が数十光年にも及ぶ哨戒網を作り上げると、方面軍司令部を置いたヴェガ星系の軍事基地から集中運用した。両国の内実、特に航路を熟知した同中将の采配は確かで、特に大きな人口を抱える星系は交通路が遮断された事で、他星系からの輸入が滞り、人民が飢餓状態に追い込まれた所さえもあった。

 

 そして、これこそがヴィンクラー中将以下、方面軍司令部が企図した事だった。両国の征服と、その人民を農奴として確保する、皇帝ジギスムントから与えられた2つの命令を果たすため、彼らが採用したのは、いわゆる「飢餓作戦」。両国の経済体制は、銀河連邦のそれと同様、生産効率化の観点から、消費地と生産地が截然と分かれる傾向にあり、特に大きな人口を抱えて、消費地としての性格が強い星系は、食料等の自給率が決して高くはない事に着目した作戦だった。

 

 折しも、不況による生活苦に苦しめられていた両国人民にとって、生命を繋ぐための食料さえ入手できなくなった事は、両国政府への信頼感を完全に喪失させた。

 各星系では食料を求めるデモや暴動が頻発、彼らの行動を制御できなくなった星系政府らは、積極的もしくは消極的との違いはあれども、食料等の支給を約束してくれる帝国に降伏するしかなかった。人民達も、無益な抵抗をして殺されるより、進んで帝国の農奴となり、真面目に労働する事で、早く解放して貰った方が良いと、進駐してきた帝国軍の司令部に殺到。皇帝に敬意を払います、帝国の支配を受け入れますと、先を争って宣言する有様だった。彼らの整理と応対で、進駐軍の展開が進まないとの事態も発生し、方面軍総司令部は帝国政府に対して、現地住民の統治に当たる官僚や吏員の増員をしばしば要求している。

 

 前線司令官としての華々しい武勲などには生涯、縁が無かったが、この征服事業に示された如く、緻密な戦略家でもあったヴィンクラーは、ルドルフ大帝の軍事思想―多数を以て少数を制圧する、軍事よりも政治を重んじる―を体現した将帥として、皇帝ジギスムントは高く評価している。

 両国滅亡直前、帝国暦50年に、ヴィンクラーは突然の心臓麻痺により急逝するが、同52年に挙行された戦勝記念式典の席上、ジギスムントは故ヴィンクラー中将の武勲を称揚し、「双頭鷲武勲章」を授けただけではなく、二階級特進させて上級大将の階級を追贈。また、特に伯爵位を与えてもいる。

 

 後世の軍事史家の中には、ルドルフの御代、平定戦役が順調に遂行できたのは、当時の帝国軍にとって最大の敵手だった攻守連合軍との戦いに、帝国中央艦隊がその全力を傾注、同軍の侵攻を阻止し続けてきたからだが、その背景には、少数の艦隊でシリウス・経済共同体の侵攻を防ぎ続けたヴィンクラーの働きがあったとして、平定戦役における彼の功績は、一般に言われるよりも遙かに大きい、と指摘する者もいる。

 

 謹直、質実、地味を絵に描いたような人物で、特筆すべきエピソードも無いが、唯一、食料に関してだけは、極めて厳格だったと云う。アルフヘイム軍管区で地方艦隊司令官を務めていた時、食料の無駄が生じていないか調査すると、抜き打ちで炊事場の視察を実施。ゴミ箱の中まで調べて、可食部が残っているジャガイモが何キロ捨ててあったなどの調査結果をまとめて、炊事場の責任者に是正措置を講じるよう指示した。

 

 司令部所属の参謀の中には、あまりにも細かすぎる、司令官たる人物がやる事ではない、却って兵士の士気を削ぐと批判する者もあったが、ヴィンクラーは彼らを自室に集めると、静かに自らの存念を語ったと云う。

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