【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第6節 皇族の日常生活①~建国当時の皇族たち

 本節からは、皇族達の日常生活について述べたい。建国者ルドルフの即位当初は、皇族の数も少なく、皇族の生活環境や教育体制が整備されてきたのは、ルドルフの息女達が子を成して、皇帝の親族の数が増えてきた、その治世後半からだった。

 

 まず、旧帝国における皇族の「範囲」について解説しよう。元々、ルドルフは親族との縁が深くなかった。父親セバスティアンが連邦時代、クーデターへの関与を疑われ、不名誉除隊処分を受けて、それを恥じて自殺したため、政府や軍から目を付けられる事を恐れたルドルフの親族達は、遺児たるルドルフとの縁を切り、親族として交際しようとしなかった。その後、ルドルフが連邦政界で台頭、政府首相に就任すると、親族と名乗る者達が陸続と現れたが、その心性の低劣さを嫌悪したルドルフから、逆に絶縁を宣告されている。

 

 そのため、ルドルフ即位時、皇族と言えたのは、皇帝ルドルフと皇后エリザベート、長女カタリナのみ。その後、エリザベートが次女マティルデ・三女アグネス・四女クレメンティアを出産。帝国暦17年に、カタリナが長子ジギスムントを出産するまで、ゴールデンバウム朝の皇族は彼ら6人のみだった。

 

 帝国暦15年、貴族法が施行されると、彼ら皇族達も、同法に準じて取り扱われる事になった。この点は誤解されている面もあるのだが、皇族との身分があった訳ではなく、彼ら皇帝一家も、法的には旧帝国の支配者階級である貴族身分に属していた。即ち、旧帝国の中で唯一、皇帝を輩出できる貴族家との位置付けだった。

 

 ただ、一般の貴族家とは異なる点もあった。それはゴールデンバウムの家名(姓)を名乗れる者の範囲。貴族法と共に施行された「帝室典範(帝室法)」によると、皇帝の姓であるゴールデンバウムは、その尊貴なる事を考慮して、この姓を名乗れるのは、同家当主である現皇帝、その正式な配偶者である皇后、両者の間に産まれた嫡出子、及び嫡出子が正式な配偶者との間に儲けた子女に限られた。

 

 皇帝と寵姫との間に産まれた子は、寵姫の実家の姓を名乗り、仮にその子が皇太子に選ばれれば、改めてゴールデンバウムに改姓した。また、嫡出子であっても、父親たる皇帝が崩御または退位すれば、帝位を継承した者を除き、全員が臣籍降下する慣習だった。男子は新しい貴族家を興すか、既存の貴族家を継承した、女子は適当な貴族家に嫁ぐか、または「○○夫人」と名乗り、自ら貴族家の当主になった。

 

 なお余談ながら、摂政皇太后ヒルデガルト陛下と開祖ラインハルト陛下との成婚が決定した際、皇妃の政治的立場に関する規定について、宮内省と司法省との間で大きな議論になった事は記憶に新しいが、旧帝国の帝室典範には、皇帝の正式な配偶者たる皇后は「家業として全人類社会の統治を担うゴールデンバウム家の当主夫人であり、当主たる銀河帝国皇帝を補佐し、当主に事ある時は、同家に仕える臣下の輔弼を得て、新たな当主が就任するまで、当主が行うべき業務を代行する事が出来る」と定められていた。旧帝国史上、夫たる皇帝に代わり、国政を司った皇后もいたが、それは帝室典範の規定を根拠としていた。

 

 皇帝と皇后、そして嫡出子及びその家族は、新無憂宮の内廷に住み、侍従や女官らの世話を受けた。ただし、建国期は「支配者たる者、己の事は己で行うべし。他者の助けを借りねば生きられぬような惰弱者に臣民の存在を担う事など出来ぬ」とのルドルフの意向によって、皇后エリザベートやカタリナら皇帝の娘達でさえ、料理や掃除、洗濯など、家事労働に勤しんでいたとの記録が残っている。これは皇族や貴族の中で一つの伝統となり、歴代皇后の中には、夫たる皇帝や子供達の食事を自ら作り、裁縫や掃除を趣味とする女性さえいた。

 

 ただ、時代が下ると、高貴なる皇族や貴族が日常生活の些事のために時間と労力を割くなど、賤しい平民どもと変わらぬ、との意識も生まれ、自らは指一本動かさず、衣服の着替えさえも女官らにさせる人物も現れた。

 

 なお、寵姫とその子らは、新無憂宮内に下賜された私室や邸宅で生活し、その地位に応じて、専用の女官や侍従がついたが、実家の援助を受けて、豪奢な生活を送る者達もいた。新無憂宮の美観を損ねない限りで、下賜された邸宅等を自費で増改築する事は自由で、人件費を賄える資力があれば、女官達の増員も許可された。

 だが、皇后を凌ぐような生活を行うと、宮中の秩序を乱す僭上の沙汰として、新無憂宮から追放される可能性もあり、また皇后が嫉妬深い性格であれば、不敬罪の名目で自裁さえ命じられかねなかったので、多くの寵姫は皇帝に賜った物で生活するのを常とした。

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