【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第13節 帝国軍人アンドレアス・フォン・ビューロー⓹~軍務尚書に就任、皇帝ジギスムントの筆頭武官に

 約2年間に亘る再平定戦を指揮して、名目だけの貴族領等を悉く皇帝直轄領に編入したビューローは、帝国暦59年、帝都オーディンに凱旋。皇帝ジギスムントはその功績を嘉し、「双頭鷲武勲章」を授与、大将への昇進を発表した。同61年、シュタウフェン派の重鎮で、軍務尚書の地位にあったユルゲン・フォン・ファーレンハイト大将が退任すると、ビューローはその後任として、軍務尚書の地位に就いている。

 これ以降、ジギスムント崩御まで、ビューローは軍務尚書の地位に留まり、皇帝ジギスムントの筆頭武官、麾下随一の名将として称えられる事になる。

 

 尚書就任後は、ジギスムントの意向に沿い、帝国軍の軍縮に取り組む。これまで外征の主体となっていた帝国中央艦隊と、各軍管区所属の地方艦隊の比率を見直し、帝国宇宙軍の目的を外征ではなく、主要星系や主要航路の警備、旧敵国残党や宇宙海賊らの討伐を主目的とする体制へと切り替えていった。

 これは、対同盟戦争の終結後、現ローエングラム王朝が目指す方向と軌を一にしており、この当時、ジギスムント帝とビューロー尚書が実行した軍縮政策の実態解明は、現王朝の政策に資する面もあるとされ、現在、軍務省・学芸省が合同で設けた旧軍戦史編纂所で研究が進められている。

 

 また、当時の宇宙艦隊は、故リスナー統帥本部総長の方針で、司令官職の人事異動を事実上、凍結して、上下一体の気風が強かった事は前巻で指摘したが、ビューローは軍縮の実を上げるため、この気風を利用。即ち、司令官が退役、領主貴族に転身する際、その麾下にいる将兵ごと退役させて、領地の防衛と開発に従事する私兵とする事で、兵員削減を実施していった。

 これは、ビューローの政敵とも言えた、元地上軍総監イザーク・フォン・ケッテラー大将が創出した手法であったが、例え政敵の策であっても、有効と見れば躊躇いなく採用したのは、ビューローの度量の大きさを窺わせるに足るであろう。

 

 政治家としても十分、評価される業績を上げ、今や帝国軍の重鎮となったビューローだが、青少年期の稚気、客気が完全に無くなった訳ではなかったようで、尚書時代、自身と皇帝ジギスムントの少年時代をよく知る、宮内省に長く務めた老侍従から「かつて軍務尚書閣下は、皇太孫時代の皇帝陛下に取って代わるのではないか、との噂さえありましたが、全くの事実無根でありましたな。血縁に驕る事無く。陛下に無私の忠誠を捧げる尚書閣下こそ、真の忠臣と言うべきです」と称賛されると、思い切り人の悪い笑顔を浮かべて、「皇帝なんぞ俺の柄じゃないからな。俺は自分が好き勝手にやりたいから、ジギスムントに皇帝をやってもらっただけだ。皇帝なんていう、肩が凝る面倒くさい仕事は、馬鹿がつくほど真面目過ぎるジギスムントの方がどう考えても適任だからな」と言い放ち、相手を絶句させたと伝えられる。

 

 当然、この事は宮中全体の話題となり、いくら陛下の従弟でも暴言が過ぎる、臣下の分を超えていると、不敬罪で告発すべきだとの意見さえあったが、当の皇帝ジギスムントは「あの者の口が悪いのは今に始まった事ではない。いちいち付き合っていたら、余の方が皇帝としての度量を疑われよう。それに、その人物評は正鵠を射ている。正しい事を主張する者を罰する道理はあるまい」と、むしろ微笑さえ浮かべて、罪に問う事はおろか、叱責さえもしなかったと云う。

 

 ここから、ジギスムントとビューローの間には、地位や立場を超えた友情が存在したと、多くの史家が指摘している。それは従兄弟同士という関係の近さ、また不遜とも言えるビューローの性格もさる事ながら、少年期から学友として共に過ごした、かつての共通体験の為せる業だったのだろう。専制君主は本質的に孤独であるが、ジギスムントは彼ビューロー、また聡明で善良な義弟アルフォンスら、学友達に恵まれた結果、先帝ルドルフの晩年の如き、孤独と虚無感に苦しめられる事は無かった。

 

 ジギスムントの日記等によると、彼ら学友達は、年に数回、密かに新無憂宮の一室に集まり、酒食と共に思い出話に花を咲かせる、所謂「同窓会」的な会合を催していた。会合を始めるきっかけは、先帝ルドルフに輪をかけた仕事人間で、趣味らしい趣味も無く、毎日夜遅くまで政務に精励するジギスムントの気晴らしになればと、当時、宮内尚書の地位にあった義弟アルフォンスの密かな進言だった。

 専制君主として全ての臣下、全臣民に対して、公平・公正に接しなければならないと、自らに厳しく課していたジギスムントにとっても、その提言は甘美だったのか、ジギスムントは崩御するまで、この会合を止めようとはしていない。この時だけ、ジギスムントは皇帝という肩書を外して、子供時代に戻れたのだろう。

 

 そして、皇帝ではない、一個人としての自分を受け入れ、好意を示してくれる彼ら学友達の存在を嬉しく感じるからこそ、ジギスムントは彼らとの関係を守りたい、ひいては自分達が暮らす銀河帝国という場所をより良くしたいと、逆に皇帝として政務に邁進できたのかもしれない。ビューローやノイラートら、忠誠と追従の区別が付けられる人材に恵まれたとの幸運はあれども、彼ら学友達の心の交流が、ジギスムントの精神安定につながり、為政者としての前向きさを齎したと言える。これは、学友制度の中止を訴える妻カタリナの要求を拒絶し、同制度の実施を貫徹した亡父ノイエ・シュタウフェン公が息子ジギスムントに与えた最大の恩寵であり、また同公最大の政治的功績だと言えるかもしれない。

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