【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第15節 帝国軍人アンドレアス・フォン・ビューロー⑦~現役引退、そして死去

 親政開始後の強堅帝ジギスムント1世を軍事面で強力に補佐し、かつ戦時体制だった帝国軍を平時体制に移行させた功績から、ビューロー侯アンドレアスは、旧帝国史上、優れた軍人政治家として令名を残している。

 帝国暦71年、同帝は崩御しているが、死の床で、皇太子リヒャルトの後見人の1人として、ビューローを指名している。リヒャルトに対しても「ビューロー侯爵は臣下ではあるが、血縁上はそなたの従叔父に当たる。一族の長老として遇し、よくその助言に従え」と、特に遺言している。

 

 その言葉通り、第3代皇帝として即位したリヒャルトは、ビューローを軍務尚書として留任させたが、先帝ジギスムントの努力の甲斐あって、当時の銀河帝国の支配体制は強固に確立されており、帝国軍はその存在感を急速に低下させていた。戦火が終息し、貴族らが平和を享受して、物質的に豊かな生活を希求し始めると、軍隊に代わり、経済を司る企業支配人や財務官僚、彼らを輩出する文官・領主貴族が台頭。新帝リヒャルト自身、享楽的で奢侈を好む性格だった事も手伝い、経済と接点を持たない武官貴族達は、次第に政界の非主流派に追いやられていった。

 

 ビューロー自身は、若い時から部下達への大盤振る舞いを好んでいた事もあり、豪奢な生活を決して否定するものでは無かったが、自分自身をあくまで軍人と見なしていた故に、ともすれば軍人を「野蛮人」と蔑む当時の風潮には耐えがたかったのだろう、帝国暦73年、病身を理由に尚書を退任。これ以降、帝室顧問官の肩書だけを持ち、数ヶ月に一度、皇帝リヒャルトの話し相手を務めるだけで、一切の公職から退いた。

 また、私生活の整理整頓も進め、側室や愛人達には多額の手切れ金を渡し、結婚や就職などを斡旋、その後の生活が成り立つよう処置すると、帝都中心部の私邸は嫡子マルクスに譲り、自身は妻アンナと僅かな使用人のみを連れて、フロイデンの山岳地帯に建てた山荘に隠棲している。

 

 最晩年の数年間、ビューローが何を考えて暮らしていたのか、一切の記録は無いが、リヒャルトとの面談では、皇祖ルドルフ大帝陛下、そして先帝ジギスムント陛下の如く、臣民の生存と安寧を第一に政治を行う事、そして軍事は決して蔑むべくものではなく、使い方さえ誤らなければ、それは帝国と帝室、臣民を守護する楯にもなる事をお忘れなく、と言上するのが常だった。

 或いは、亡き主君ジギスムントらと共に奮闘し、やっと手に入れた平和で平穏な銀河帝国、変わる事無くずっと続いていって欲しい、そう思っていたのかもしれない。だが、読者諸氏もご承知の通り、彼の願いは叶わず、第4代皇帝オトフリート1世の御代、旧帝国史上初の権臣エックハルトの台頭と専横により、帝国の平穏は大きく破られる事になる。

 

 帝国暦76年、長年の軍務と政務で蓄積された疲労と、大酒家であった事が原因で、脳卒中により昏倒、そのまま死去している。皇帝リヒャルトは、少なくとも公式には、一族の長老であるビューロー侯爵の死を深く悼み、葬儀は帝国軍葬の礼を以て執り行う事、そして元帥号の追贈を決定している。

 

 なお余談ながら、ゴールデンバウム家における「一族の長老」という表現は、このビューローの事例以降、旧帝国滅亡まで、しばしば登場している。著名な例では、敗軍帝フリードリヒ3世の異母弟で、同盟への出兵に異を唱え、ヘルベルト大公が遠征軍総司令官になる事を諫めたバルトバッフェル候ステファンが存在する。

 

 前述した通り、ゴールデンバウムの姓を名乗れるのは、現皇帝とその正式な配偶者たる皇后、そして皇后との間に生まれた嫡出子のみだが、時代が下り、帝室の血を引く貴族が増えてくると、彼らは独立した貴族家の当主であると同時に、ゴールデンバウム家を主家とする一門内の貴族とも見なされるようになった。

 ここから、党首たる現皇帝との血縁関係、また長幼の序列を根拠として、制度上は臣下であっても、皇帝やその嫡出子に、上からの立場で意見できる人物が生まれた。決して正式な名称ではなかったが、彼らの様な存在が「長老」と呼ばれるようになったと考えられている。

 

 しかし、バルトバッフェル候が敗軍帝の勘気を蒙り、帝都から追放、爵位も男爵に降格させられた事からも分かる通り、長老と呼ばれても、その存在は決して皇帝に優越するものでは無く、制度的に保障されてもいなかった。旧帝国史の研究者の中には、彼ら長老の存在を根拠として、旧王朝の皇帝は決して専制君主ではなく、皇族達の合意によって推戴された存在に過ぎず、独裁的な権力を有してはいなかった、と論じる向きもあるのだが、上記の通り、筆者はその見解に与する者では無い。

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