【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第16節 帝国軍人アンドレアス・フォン・ビューロー⑧~2つのビューロー伯爵家、その行く末

 最後に、2つのビューロー伯爵家の行く末に触れておきたい。アンドレアスを家祖とするグライフ=ビューロー家は、帝国宇宙軍を基盤とする武官貴族、帝国軍の有力派閥ビューロー派の領袖となるが、享楽帝リヒャルト1世から喪心帝オトフリート1世の御代、軍自体の地位が低下していたため、帝室の血を引く貴族家でありながら、家祖アンドレアス死後、その勢威は決して振るわなかった。

 

 一方、アンドレアスの祖父ディートハルトを家祖とするドルトムント=ビューロー家は、帝国有数の軍需企業を経営する領主貴族であり、支配者階級たる貴族達が物質的に豊かな生活を希求する風潮に乗って、アンドレアスの弟エルマーは、自家の経済力を活かし、帝国政界に影響力を行使できる権門の1人となり、最終的には財務尚書の地位を射止めている。

 

 しかし、喪心帝オトフリート1世の御代、権臣エックハルトが台頭すると、彼は帝国の経済的利権を独占するため、皇帝の威を借りて、主要な公営企業を経営する領主貴族らに様々な難癖をつけ、その経営権を奪取、自派閥に属する貴族達に与えていった。

 それはドルトムント=ビューロー家が経営する軍需企業も例外ではなく、エルマーの嫡子トーマは、財務省が発注した数量以上の戦闘用艦艇を密かに製造し、自家の一門に属する貴族家に不正転売したとされ、再発防止を名目に、不正行為を犯した公営企業は全て国有化する、との処分が下された。この結果、彼は自家が所有する公営企業の経営権を悉くエックハルトに奪われている。

 

 このため、ドルトムント=ビューロー家は一気に衰微する事となったが、トーマは父エルマー同様、機を見るに敏な性格で、エックハルトの専横が多くの領主貴族、また喪心帝の甥フランツ・オットーに憎まれている事を察知。後の寛仁公フランツ・オットーの意を汲み、枢密院議員たる自身の立場を利用して、同院議長カストロプ公クレメンス、また同公の腹心ハーン伯ホルスト(後の国務尚書)と共に、領主貴族の大勢を反エックハルトにまとめ上げている。

 

 エックハルト誅殺後、その功績を寛仁公に嘉されたトーマは、自家が所有していた公営企業の経営権を取り戻し、再び帝国有数の企業家、大富豪に返り咲いている。しかし、その繁栄も長くは続かなかった。寛仁公死後、その父親、老廃帝ユリウス1世が皇太曾孫カールに弑逆され、その秘事を知ったブローネ侯ジギスムント、即ち「歴史上最大の禁治産者」として後世に悪名を残す、痴愚帝ジギスムント2世が即位すると、帝国有数の大富豪ドルトムント=ビューロー家の莫大な富は、同帝の興味関心を惹起せざるを得なかった。

 

 痴愚帝は、ビューロー伯爵家の先祖たるアンドレアスの妻アンナは知的障碍者であり、即ち同家の一族は皇祖ルドルフ大帝陛下が忌み嫌われた劣悪遺伝子の保有者であると言い、劣悪遺伝子排除法違反の名目で、今や痴愚帝直属の秘密警察と化した社会秩序維持局に命じて、当主トーマ以下、一族全員を逮捕、処刑の上、その財産は悉く没収、同家は族滅とされた。

 言うまでも無く、アンドレアスはグライフ=ビューロー家の家祖であり、妻アンナとの間に産まれた嫡子マルクスの子孫は、この時点では、ドルトムント=ビューロー家と血縁上の関係を持っておらず、この処刑と財産没収は、同姓同爵位である事を悪用した痴愚帝のフレームアップ(でっち上げ)だった。まして、当時は中級程度の武官貴族でしかなかったグライフ=ビューロー家は、全く罪に問われる事が無かったのだから、これは確信犯以外の何物でもないと言わざるを得ない。

 

 この痴愚帝を軟禁して即位した再建帝オトフリート2世は、父帝によって絶家させられた貴族家を精力的に復興した事でも有名だが、建国以来の名家であるドルトムント=ビューロー家をこのまま絶やすべきではないと、グライフ=ビューロー家の当主ヴィルヘルムに命じ、その次子エドヴィンをドルトムント=ビューロー家の後継者に据えさせている。

 

 この結果、グライフとドルトムントの力関係は逆転。両家は共に武官貴族となり、グライフ=ビューロー家が主家、ドルトムント=ビューロー家は分家、との扱いを受けるようになっている。しかし、ドルトムント=ビューロー家が族滅された理由、アンドレアスの妻アンナが保有していた「劣悪遺伝子」が、痴愚帝退位後、同家の血統に混じった事は、何とも皮肉な事態だと思わざるを得ない。

 

 再建帝の御代以降、両家は帝国軍に奉職する中級の武官貴族として、主に宇宙軍士官を輩出する貴族家となっている。帝国暦331年、かのダゴン星域会戦において、グライフ=ビューロー家の当主ヴォルフラムは、ヘルベルト大公麾下の提督の1人として従軍。彼は熟練の戦術家として、帝国軍内でも高く評価されており、同盟軍が全軍を挙げて、同大公の本隊に集中攻撃を仕掛けてきた時は、麾下の艦隊を率い、同盟軍の左側面に回り込み、その艦隊運動を牽制、進撃速度を落とす事に成功している。

 しかし、大勢を覆すには至らず、ヘルベルト大公の拙速な兵力集中の渦中に巻き込まれ、その戦術手腕を活かす事も出来ず、同盟軍の間断ない包囲攻撃にさらされた結果、同家及びドルトムント=ビューロー家の主だった者達と共に戦死している。

 

 ダゴン戦後、大公派の一員と見なされていた両ビューロー家は、戦後の混乱を収束させて即位した晴眼帝マクシミリアン・ヨーゼフ2世に忌避された事もあり、後継者不在のため絶家している。ただ、建国時から存続していたビューロー家の家名を持つ者は、主に帝国軍を中心に多数存在しており、故キルヒアイス大公の部下で、大公横死後、ミッターマイヤー首席元帥の幕僚を務めたフォルカー・アクセル・フォン・ビューロー大将は、その家伝に拠れば、グライフ=ビューロー家の家祖アンドレアスの直系の子孫の1人だと云う。

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