【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第7節 皇族の日常生活②~皇后の仕事

 彼ら皇帝一家の日常生活は、時の皇帝の性格や意向で変化する事もあったが、妻たる皇后も、子女たる皇子、皇女も、概して多忙を極めた。同盟などでは、旧帝国の皇族や貴族は、平民から収奪した富を浪費して、豪奢で怠惰な生活を送っていたなどと非難されていたが、貴族達が自身の栄達と、家門の維持・発展を図るため、政敵に付け入る隙を与えないよう、職務と勉学、領地経営、そして交際に忙殺されていたように、貴族たちの頂点に立つ皇族も、多忙さは同様だった。

 

 皇帝の正式な配偶者である皇后は、宮中の女主人として、皇宮内の家政一般を取り仕切らねばならなかった。実務は宮内尚書以下、宮内省の官僚(侍従・女官含む)がその任に当たったが、例えば日々の食事や衣装、調度の好み、身の回りの世話をしてくれる侍従や女官の評価、さらには寵姫の待遇など、皇帝や皇子達の意向に配慮しながら、皇宮内の生活を差配するための方針を立て、宮内尚書に指示を出すのは皇后の役割だった。

 

 そのため、時代が下り、帝室の規模が巨大になると、皇后の選定においては、家柄や美醜だけではなく、家政管理に関する知識と実務経験、さらには政治的な能力の有無さえも考慮された。旧帝国史上、時として皇后が皇帝の腹心、側近的な役割を果たす事があったが、それも皇后が政治的な才能や処理能力を求められる存在だったからに他ならない。大諸侯の息女が皇后になる例が殆どだったのも、ただ家柄が重視されただけではなく、子女に最高の教育を施す事が出来る権力と資力を持つ貴族家に生まれなければ、皇后に相応しい女性に成長する事が難しかったから、でもある。

 

 なお余談ながら、その職責上、皇后は宮内尚書に直接指示を出せる立場だったので、政治的な識見と野心を併せ持つ皇后は、宮内尚書を通じて国政に容喙する事もあった。この例で有名なのは、驕軍帝レオンハルト2世の皇后イザベラ。甥たるフリードリヒ(後の敗軍帝フリードリヒ3世)との不倫関係を噂されたイザベラは、無気力で国政を行う意欲を見せない夫を蔑ろにし、当時の宮内尚書カルテナー子爵オスカーを腹心として国政に容喙。尚書会議の席上、同子爵を通じて自身の意向を表明して、軍部偏重の政治を実施。また、不倫相手と目されていたフリードリヒが驕軍帝の養子に選ばれるよう、同子爵を通じた政治工作も行っていたと云う。

 

 さらに、皇后の仕事はこれだけではなかった。ゴールデンバウム家の当主夫人でもあるため、貴族家と同じように、他家との交際や社交は当主夫人たる皇后が担った。後世、浪費と虚飾の象徴として、強く批判される舞踏会や各種パーティだが、帝室と諸貴族家の交際の場であり、皇帝の子女(特に娘達)や、寵愛が衰えた寵姫達の結婚相手を探す場でもあった。また、皇族や有力貴族らが密かに談合する、重要な政治交渉の場としても機能した。パーティ等を主催する皇后は、夫たる皇帝の意を汲み取り、当時の政治状況を勘案して、帝室が誼を通じたい貴族家を選定した。何家に招待状を出すかの決定は、政治的な意思表明に他ならず、その差配を委ねられた皇后には、高度な政治的センスが求められた。

 そして、皇帝に同伴、時には皇帝代理として、これらパーティに出席、参加した貴族たちへの応接、交渉にも当たった。逆に、大貴族主催の舞踏会や園遊会、パーティ等に出席する事も、疎かに出来ない重要な仕事だった。

 

 無論、これらの業務は、皇后独りで行う訳ではなく、宮内尚書らが補佐したが、敏腕を謳われた皇后の中には、実家の支援を得て、宮内官僚とは別に、独自の補佐官等を抱える者もいた。旧帝国史上、最大規模の私的補佐官を抱えたのは、喪心帝オトフリート1世の皇后ヴィルヘルミナ。後世、「女帝」とも称された同后は、勝ち気で猛々しく、男勝りな性格で、政治的な見識にも優れていた。陰気な保守主義者で、無能で無気力な夫に代わり、自らが国政を行うしかないと決意。自身が登用した補佐官エックハルトを重用して、自らの職務を補佐させるにとどまらず、宮内省秘書職所属の皇帝政務秘書官に任命、夫たる皇帝のスケジュール管理も担当させると、皇后自身の意向で国政を動かし始めた。

 

 当然、閣僚たる尚書達からは反対されたが、皇帝の意向を盾に取る皇后ヴィルヘルミナに逆らう事は出来ず、その皇后を後ろ盾にしたエックハルトも、長く帝国政界に君臨する事になる。なお、エックハルトの地位として有名な皇宮事務総長とは、宮内省の職制には存在しないが、この地位は、皇后ヴィルヘルミナが私的に登用した補佐官の長として与えた職名で、正式な官職ではなかった。そのため、エックハルト誅殺後、この職名は消滅、その後復活する事は無かった。

 

 そして、これは私的な領域に属する事なので、時の皇后の性格によって変化したが、芸術祭や映画祭など文化的行事の実施、各種の芸術賞やコンクールの主催、慈善病院や救貧院、孤児院など福祉施設の開設と経営、それら施設への慰問活動、傷痍軍人や貧民層らを支援する各種基金の運営など、文化振興や福祉支援に関する事業も高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ)の一環として、皇后が貴族女性達に先駆けて行うべき事とされた。

  

 この分野で旧帝国史上に令名を残しているのが、美麗帝アウグスト1世の皇后エルフリーデ。聡明で心優しく、慈悲深い性格だった同后は、帝室予算を節約して、余剰財源を福祉事業に用いるべきですと、夫たる美麗帝に進言。旧帝都オーディンを始め、旧帝国領各地には、今でも同帝や同后の御名を冠した医療・福祉施設が残っている。また、同后は芸術や文化、学問にも造詣が深かったため、各種の芸術賞やコンクールを主催、優秀な成績を上げた者には、自ら賞金や賞品を授与し、その功績を讃えた。帝国の芸術家社会では、現在でも同后を芸術・文化の保護者として尊敬する気風が残っており、皇后エルフリーデを主題とした小説や詩を発表する者もいる。

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