【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
降伏勧告と並行して、地上軍総司令官ケッテラー中将が指揮する攻略部隊が次々と惑星上に降下。首都ロンドリーナ占領を一任されたカイザーリング准将麾下の独立部隊は、防空設備が密集する首都上空を避けて、敢えて数千キロほど離れた地点に降下。首都を防衛する軍事基地を攻略すると見せかけ、高速移動が可能な装甲地上車と無人戦闘機を主体とする奇襲部隊を直卒し、事前の情報収集で判明していた、徹底抗戦派が立て籠もる首都内の軍事施設を急襲。無人戦闘機による空襲で防衛設備を破壊すると、自ら精鋭部隊を率い、ごく短時間で制圧してしまった。元々、一部の強硬派を除けば、帝国への降伏を容認する空気が醸成されていた事もあり、彼ら強硬派の拠点が潰えてしまった以上、シリウスの首都防衛部隊の士気も同時に潰えた。
こうして、首都ロンドリーナを占領したカイザーリングは、大統領官邸や政府省庁、国会議事堂などの主要施設を押さえると同時に、各所の美術館や博物館を封鎖、所蔵物は全て帝室財産である旨を宣言させると、自分の役目は終了したとばかりに、総司令官ケッテラー中将に復命、占領政策の実施を要望すると、自身は麾下の部隊を率いて、未だ抵抗を続ける都市や施設の攻略に移った。
或いは、ロンドリーナ攻略の指揮権を巡るケッテラー中将と、自身の友でもあったビューロー少将の諍いを念頭に、シリウス首都の占領完遂という功績をケッテラーに譲る事で、友の立場を少しでも良くしてやろうとしたカイザーリングの配慮だったのかもしれない。
ケッテラーがその事を恩義に思ったのかどうかは分からないが、練達の軍政家でもあった彼の手腕は確かで、住民には十分な食料を供与し、人心を安定させると、都市機能を維持するため、必要最小限の人民を選抜、それ以外の住民は農奴として帝国領内への移住を進めていった。
同時に、反帝国勢力のテロリストやゲリラ等を逮捕して、治安を回復していった。さらに、国会議事堂など民主主義を象徴する施設や建造物は徹底的に破壊、あくまで帝国の一都市であると位置づけ、地球時代から存在したロンドリーナとの名称も廃止され、惑星ケルンテンと改称させた。また、旧シリウス領を管轄するヴァフスルーズニル軍管区が設けられた。
かくして、民主共和主義最後の砦と言われたシリウス民主共和国は滅亡した。帝国暦51年2月16日、先帝ルドルフが崩御した日にあわせて、シリウス最後の大統領ジョルジュ・ラヴァルは、官邸前広場で、多くの帝国軍将兵、そして今や帝国臣民となった旧シリウス国民が見守る中、帝国宰相にして遠征軍総司令官ノイエ・シュタウフェン公に向かい、降伏文書を奉呈。文書を受領した同公は、シリウス民主共和国の完全滅亡を宣言、同国の領土は全て、銀河帝国の領土となり、帝国皇帝が支配する領域であるとした。
なお、同じ民主共和国家の滅亡でも、自由惑星同盟には、かのヤン・ウェンリーやアレクサンドル・ビュコックらの様に、その滅亡に殉じる、もしくは民主共和制の護持を目指して戦い続けた者達が存在したが、シリウスには、そんな気骨ある人物は存在しなかったと、旧帝国建国時の歴史研究に従事する旧同盟出身の歴史学者の中には、かつてのシリウス国民より、同盟国民の方が民主共和思想に対して真摯であった、と論じる向きもある。筆者としては、特定の個人の事例を取り出して、全体的な傾向だと断じる事は、偏狭な主観主義に陥る危うさを感じるが、実証史学者として、一言しておきたい事がある。
それは、滅亡直前のシリウス、及び経済共同体の状況を研究する上で、一次史料となるのは、両国滅亡後、進駐した帝国軍人や政府官僚らが作成した各種報告書や行政文書、彼らが私的に作成した日記や備忘録などだという事実。そこには、戦勝国民として両国を蔑視、否定するバイアスの存在が想定される。詳しくは後述するが、旧シリウス領に赴任、現地の紀行文を著した国務官僚フリードマン男爵の著作などは、その典型例と言える。両国由来の史料がほぼ皆無である以上、旧帝国で作成された史料に拠るしかない事情はあるが、シリウス滅亡時、英雄的な行動を取った人物が皆無だったと断言する事は、やや性急に過ぎるのではないかと考えている。
閑話休題。僅か2ヶ月弱でシリウスを滅亡させた遠征軍は、休息と補給の後、次なる標的、経済共同体の首都星ヴェネーディヒを目指して進軍する予定だったが、周知の如く、彼らの征旅はロンドリーナで事実上の終焉を迎える。翌3月、最後の共同体総裁マクシミリアン・カストロプが一族と僅かな側近のみを連れて、ロンドリーナに駐留する帝国軍司令部に出頭、総司令官ノイエ・シュタウフェン公に降伏しているからだ。
次節以降、最後の敵国、汎オリオン腕経済共同体の滅亡と、同国が帝国に、そして後世の歴史に与えた影響を解説したい。